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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「それでも私は……!」
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それでも私は……! XVI 

 ユウナが自分を受け入れてくれた事に思わず涙を流してしまったシエルは、喜びの嵐が一段落すると、ゆっくりと抱きしめた腕を解いて、美しいプラチナブロンドの髪を揺らす少女から一歩離れて口を開いた。


「改めまして、私はシエルっ! えっと、センスティアとは別の世界から来て、代行神になりました! よろしくね、ユウちゃん」


「よ、よろしく……って――えっ!? 別の世界!? どういう事なの?」


 シエルの改まった自己紹介に照れくさそうに応えたユウナは、軽く聞き流してしまった"別の世界"という普段あまり使わない単語の意味を理解すると、思わず驚きの声を上げてしまった。 


「その事に関しては私から説明しよう。レーミア様、よろしいでしょうか?」


 シエル、ユウナの両名のやり取りをしばしの間、後方から傍観していた、アネットは銀鎧のブーツをがちゃりと鳴らしながら、二歩三歩前へ歩み出る。言葉の後半は事の成り行きに満足気な表情を見せるレーミアへ、確認のために向けられたものである。


「そうね、彼女も全く無関係ってわけでもなくなっちゃったわけだし、全てを教えてあげて」


「わかりました」


 そう言うとアネットはいつものようにハキハキとした滑舌の良い口調で、のゲンロウが失踪した事、直筆のメモが残されていた事、そのメモに従い異世界の少女であるシエルをゲンロウの代行として正式に認めた事など、一連の出来事を事細かくユウナへ説明した。


 これらの情報はテトラ・テオスとその仕騎達、そしてその他には極一部の者達にしか明かしていない情報であり、当然ユウナもシエルが代行神になるまでの"本当"の経緯については全くの初耳であった。


 本来ならば冗談にしか受け取れない内容であるが、テトラ・テオスのレーミアが説明を促がした事を鑑みれば、内容に偽りがあるとは思えない。それに全てが事実ならば、まだまだ未熟なシエルが突然神の地位に就いた事も納得ができる。そういう決論に至ったユウナは、全てが真実であると確信し、アネットの話に聞き入った。


 アネットが手短に、且つ正確に現在に至るまでの経緯を話し終えるのに然程時間を要することはなかった。


「以上だ」


 紅の騎士が言葉の締めにそう告げて話を終えると、ユウナは「そういう事だったのね」と小さく呟くきながら納得したような表情を浮かべた。


 ユウナは、ノウラントから伝え聞いた話が全くの嘘八百だったことについては、グラズヘイムに入ってからのシエル達の反応からそれとなく感づいていたため、然程驚きはしなかった。しかし、アネットから真実を聞かされたことにより、改めて自らの失態を心の中で悔いる。 


 そんなユウナの心中を知ってから知らずか、横ではシエルが楽しげな笑みを浮かべており、それをチラリと横目で流し見したユウナは抱いた後悔を振り解き、先程立てた誓いを再度胸に刻み込んだ。


「ゲンロウ様の消息についてもまだ分かっていないの?」


 ユウナが問いかけると、アネットが暗い声で答えた。


「あぁ……情けない話ではあるが……」


「そう……」


 四人の神によって長年收められてきたセンスティアにとって、テトラ・テオスの一角が欠けるということは前代未聞の大事であり、ユウナも動揺を隠せない。それと同時に、この事を一部の者にしか明かしていない理由についても納得がいった。センスティアを支えている神が突如失踪したなどと世間に公表すれば、大なり小なり混乱が起きるのは必須である。それを避けるならば情報に制限を掛けるのは当然の策であろう。


 だがここでユウナにひとつの疑問が浮かんできた。


「シエルが代行神に就任したことは公表するのよね? その時はゲンロウ様が不在の理由とかシエルが選ばれた理由はどうやって説明するの?」


「着任式は明後日に行う予定だ。ゲンロウが不在の理由については"世界の調整のために長期の間、《果ての地》に滞在する"と言って濁すつもりだ。シエルに関しては三神の推薦ということで納得してもらう。皆に嘘をつくのは気が引けるが、現状で考えればこれが最善だろう」


「そうね……民衆にとっては疑問が残る面もあるだろうけど、そういうのは大抵自己解釈で補填するだろうし、混乱を避けるのならそうなるわよね」


 ユウナの表情には、完全に納得したというよりも、そうするしかないから仕方なくといった渋々さが浮かんでいるが、それ以上の対応案があるわけでもないのでそこで話を切った。それからワンテンポ置いて、今度はアネットがシエルの方へと向き直ると、真剣な面持ちで話し始めた。


「シエル、今のうちに聞いておきたい。不本意な話だが、シエルが代行神となることを决めた以上、今回のように命を狙われることが今後ないとは言い切れない……私としてはシエルの身の安全が第一だ。もしシエルが望むなら代行神の任をここで降りても……」


 突然のアネットからの提案で少し驚いた様子をみせたシエルであったが、それも束の間。であった。すぐさま、凛とした覚悟に満ちた顔を向ける。


「確かにちょっと怖かったけど……それでも――それでも私は! センスティアで代行神を続けたい。困ってる人がいたら助けたい!そうやって少しでもこの世界に貢献したい。 その思いは変わらないよ。ううん、今回の一件でその気持ちは前よりもずっと強くなったと思う!」


「シエル……」


「それに、もし危なくなっても今回みたいにアネットが守ってくるから!」


 その笑顔はいつもの優しさと勇気に満ち溢れた、見る者全てを幸せにするかのような天使のものであった。本来ならばごく平凡な生活を送っている年齢の少女が、短い時間の間で突如、神の地位に就き、命を狙われるというとんでもない経験をしたというのに、それでもシエルはセンスティアのために代行神を続けたいと強く願っている。華奢な少女が背負う運命としては果てしなく壮大なものだろう。彼女のそんな覚悟に全力で応えなければならない、そう誓ったのか、騎士アネットはゆっくりと四つ指の右手を左胸元に被せて敬意を示すと、持てる限りの忠誠と誇りをシエルに返した。


「代行神シエルに仕えし騎士アネット、我が主の身を、己の全て呈して守ることを誓います」 


 アネットの全霊を掛けた誓いが如何に神聖なものか、誰もが理解していたために口を開くことが出来ず、そこにいる者たちの時間が止まったかのように、しばしの間静寂が流れた。


 シエル達がグラズヘイムに入ってからどのくらいの時間がたっただろうか? 城外からは夜明け前から活動を始める夜行性の鳥類"ビアーガ"の囀る優しい音色がうっすらと流れ始めていた。そんなビアーガの子守唄に誘われてか、やや眠た気に翡翠色の眼を手の甲で擦り始めたレーミアが、止まった時間を動かすかのように口を開いた。


「さて、みんな色々あって疲れてるでしょうし難しい話はここまでにしましょう。 あたしも眠くてしょうがないわ」


 グラズヘイムに入ってから一時間以上は経過していたのだろう。城壁の高い位置にはめ込まれた、カラフルなスステンドグラスの窓からはほんのりと微かな明るみが溢れ始めていた。


「さすがに私もちょっと疲れちゃったかな。もう眠いよー。あっ、でも先にお風呂に入りたいな!」


「そうだな。 今日はもう休んで詳しい話はまた明日にしよう」


「そうね、あたしも明日またここにいると思うから適当な時間に来てちょうだい。ノウラントに関しては騎士団とあたしに任せておきなさい。まぁ、計画が失敗に終わって今頃はおうちで泣いてるのでしょうけど」


「分かりました。ではまた明日に。それと……ユウナはフィンガローの北エリアに住んでいるのだったな。ここから歩くと北エリアまでかなり時間が掛かってしまう。今日はうちに泊まると良い」


 アネットのそのやや意外な言葉に驚いてしまうユウナであったが、とりわけて断る理由もなかったので、コクりと小さく頷いた。


「わーい! 仲良くなった証にユウちゃん一緒にお風呂入ろっと! あっ、私のベッドは大きいから一緒に寝れるね!」


 ユウナと仲良くなれるのが嬉しいのか、子供のように無邪気にはしゃぐシエルの顔にはいつもどおりの変わらぬ笑みが浮かんでいる。


「ば……ばか。うちは別に……でもどうしてもって言うなら……」


 シエルのテンションに押され気味のユウナであったが、その表情には照れくささを必死に隠そうとする様子が見え、満更でもないようであった。


「じゃあ、おやすみなさい」


「お休みなさいです!」


「では、失礼します」


「おやすみなさい」 


 各々別れの挨拶を済ませると、銀髪の神レーミア・フィエルはゆっくりとグラズヘイムの城内へと消えていった。それを見送ったシエル、アネット、ユウナの三人は暖かいお風呂とふかふかのベッドを求め、ゲンロウの使っていた家へと向かい始める。グラズヘイムの城門を出たときには既に、街の遥か先の空がうっすらと明るみはじめていた。


 

 ひょんなことから異世界の地に降り立ち、世界を統治する四神の代行という地位に就いてしまった少女シエル/下川恵里。これから先、彼女には色々な困難が待ち受けているであろう。だが、彼女の可愛らしい顔立ちに浮かぶのは満足気な笑みであった。それはまるで、センスティアの《祝福の運び手》になれる喜びを感じているかのように。


こんにちは、作者の村崎 芹夏です。


いやッはツー! 大変お待たせ致しました。 1ヶ月ぶりの更新となります。 


そして、なんとか代行神の第一部が終わりました!


綺麗に終われたのかな?かな? 


いやはや、年内に終わらないかもしれないという焦りが出ていてヒヤヒヤしましたが、本当に良かった・・・


今回で第一部が終わりましたが、もちろんまだまだ続きますよ! 第二部からの話の構成も徐々に煮詰めております。 ただ、年内の更新はこれで最後になるかと思います。 また年始も色々と忙しくて執筆している時間がないと思いますので、執筆開始が1月の半ば~後半。 更新できるのはもうちょい後になりそうです。 毎回、お待たせしてばかりで本当に申し訳ありません><



それと、前々から言っていた新作ですが、こちらも徐々に執筆を進めています。とはいえ、メインで更新している代行神でさえこのペースなので・・・そういうことです(笑) ただ、着実に進んではいますので、一応報告までに^^;


今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。 また次回更新した際にもどうぞよろしくお願い致します。


それでは皆さん! 良いお年を!

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