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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「それでも私は……!」
32/52

それでも私は……! Ⅺ

「うっ……んぅー」  


 ハニーブラウンが際立つ髪をショートボブでまとめた小柄な少女が、やや間の抜けた唸りとともに、左手でぼやけた眼を擦って目を覚ました。


「気がついたか、シエル」


「ふぁぁーい」


 燃え盛る程に鮮やかな紅色の長髪を黒いリボンで一本に結い、銀鎧に身を包んだ騎士アネットが隣にいた少女の起床を察知し声をかけると、シエルは寝起きの覚醒を迎えきれていないのか、コクリコクリと小さく首を縦に振りながら浮いた返事をした。


「体の方は……まぁ、その様子なら大丈夫そうだな」


 シエルはアネットとの問答から数秒の間を置いて、やっとのことで追撃しくる睡魔をどこかへ押しやると、ふと涼しげな風が吹き流れる周囲を見回す。――すると、そこは夜空の運河に散りばめられた星々の一片に手が届いてしまうのではないかと思えるほど天に近い場所、正しく夜空の真ん中を飛んでいた。


 そして、景色は違えどシエルはセンスティアに来てから空中飛行を体験している。もしその経験が無かったら今の状況で落ち着いていられなかったかもしれない。シエルは座っている床……もとい、フニフニとした柔らかな感触の背中を数回優しく撫でると、感謝の意と再会の喜びを込めてその者の名を呼んだ。


「グーちゃん!」


 少女の感情あふれる爛漫な呼びかけに、漆黒の鱗を全身に纏ったギアナー・ナイトドラゴンのグドーは翼を羽ばたかせることによって応えた。


 シエルは手触りの心地よいグドーの背中の感触をしばし堪能していると、ふと何かを思い出したかのように辺りを見回し始めた。そして探していたものがすぐに見つかったことに安堵し、ニコやかな笑みを溢した。そんな彼女の優しげな視線は、紅の騎士アネットの横で、両手を後方で黄色く円形に光るに縛られ、脚を斜めに曲げる形でちょこんと座っている少女、ユウナに向けられている。


「ユウちゃん!」


 またしてもシエルの発した言葉は名前だけであったが、彼女の柔らかく元気な空色の声色をみれば、ユウナが無事だった事に対する心からの喜びが本心であることは容易に想像できる。 ……だからこそユウナの心は罪悪感によってひどく締め付けられ、無邪気な笑顔を向ける標的だった少女と瞳を合わせることができなかった。


 テトラ・テオスの一人、ゲンロウを失墜させ、その地位に居座った代行神を絶対たる悪であると信じて覚悟を決めた……はずなのになぜ彼女はこんなにも優しげな表情をしているのだろうか。なぜこんな暖かい声を発するのだろうか。ユウナの心の中は困惑で満ち溢れていた。


樹海の中で繰り広げられた決戦の後、足場の悪い雑木林をしばらく歩き続け、やっとのことでロングルの森を抜けたアネットとコットン、そして意識を失いそれぞれに抱えられたシエルとユウナが平野に出たときは既に夕刻の指すオレンジの軌跡は消え失せ、双面の半月が青白い光を僅かに大地に注ぐだけの静夜となっていた。


 森を抜けたところでアネットは平原に響き渡るように指笛を鳴らし、しばらくの後に遥か遠くの山岳の割れ目からよりも禍々しい黒さを放つ一頭のドラゴンが現れた。漆黒のドラゴンは、指笛を鳴らしたアネットの前に緩やかに着陸すると、その凶悪そうな風体に似合わず、体を屈めて自身の背中に乗りやすい体制をとる。アネットはその漆黒色のドラゴンの喉元を軽く撫でてやると、急いでシエルを背中へと押しやった。


 圧倒的に格上の存在であるドラゴンが現れたことにより、コットンはひどく怯えた様子であったが、森の中からずっと背負ってきたユウナをなんとかアネットへと引き渡し、背の荷物が無くなると、挨拶のつもりなのか二度三度小さく吠えてから、今来たばかりのロングルの森の中へと足早に駆けて行ってしまった。


 コットンの事を少し気にした様子のアネットであったが、シエルを優先すべきと瞬時に思考を切り替えると、意識を失ったままのユウナを抱えてグドーに跨る。そして、そのまま漆黒の相棒に出発を促すと、足早にロングルの地を後にした。


 ユウナが意識を取り戻したのは、グドーが飛翔を初めてそう時間が経っていない頃であった。初めは、ドラゴン種という希少な生物の背中にいることに驚き、動揺を見せていたが、自身の手足が魔法錠によって拘束されていることで大よそ事態の把握が出来たのか、すぐに落ち着きをみせた。 


 その後のユウナは、まるで一連の事件が終焉を迎え、何もかもがどうでも良くなってしまったかのように素直になっていた。アネットがシエルを苦しめる神経毒の解毒剤を出すように要求した時も、「カバンの中のルーグスって書かれたラベルが貼ってあるピンク色の液体が入ったビンよ」っとあっさりと答えた。


 あまりの素直さに、要求したアネット自身が驚き、そのピンクの薬品が更なる毒薬かもしれないと警戒をしたが、拘束されたユウナの表情を見るとどうにも嘘をついているようには見えなかった。グドーの羽ばたきに揺られ、どこか遠くを見つめるその瞳は諦め……というよりは何かから開放されたかのような清々しさすらも感じ取れる。そんな彼女を見つめ、アネットの中でユウナに対する印象が少しだけ変わったのであった。


(信じた……じゃなくて信じてみたかった……か)


 アネットの中に、シエルのセリフがふと浮かび上がる。あの時シエルは、どっからどうみても怪しい存在でしかないアネットの話を根拠のない自信で信じた。ならば……


 アネットは意を決して、手にしたルーグスと書かれたピンクの液体をシエルに飲ませると、次第に苦しみを見せていた表情が薄れ、やがて可愛らしい少女の寝顔へと変化していった。ユウナが渡した解毒剤は正真正銘、本物であったようだ。


 そこからアネットはユウナに何と声をかけて良いのかわからず、ユウナもただ遠くを見つめ続けるだけでお互いが無言のまましばらく空の旅を続けていた。


 やがて神経毒が解毒剤によって完全に中和され、元気に復活したシエルが目を覚まし、現在に至る。


「さぁ、もうじき着くぞ」


 アネットのその声でシエルが先を見据えれば、満天に輝く星夜の空から見下ろす先に見覚えのある巨大な城が聳えていた。それを囲うようにして数多の生活灯が散りばめられており、それらをぐるりと覆うように築かれた長大な街壁。更にその街壁に設けられた巨大な街門が見える。センスティアで最も栄えている街、そしてシエルにとってこの世界での始まりであって思い出でもある街――フィンガローである。

こんばんわ、作者の村崎芹夏です。


いやー、暑いですね。夏。 だから更新が遅くなっても仕方な(ry


すみません、ただ単純にサボっていただけですorz


いやはや、以前は週一更新だったはずなのに、二週一更新を経験しちゃうとついつい怠けちゃいますね><


毎日更新されている作者さんは本当にすごいと思います。 ワタシニハムリダ



さて、今回はまぁ話のつなぎみたいな感じです。


一応、あと二~三話くらいでこの章(ラノベで言う一巻)が終わる予定です。


まぁ、あくまでも予定なのですが(笑)


そういえばオーバーラップ文庫さんの大賞も来週で締切なのですよね。 一応、応募規定の10万字、バトル展開、異世界は満たしていますよね?


それと・・・ヒロインが一人以上登場すること・・・これもきっといけるはず! というより登場が女の子ばっかりな気がするんですよね代行神。きっと気のせいですけど・・・


最初は・・・最初は・・・主人公を男の子にする予定だったんだもん! 気づいたら女の子になっちゃってました!あら不思議!


色々と不安な面がありますが、応募規定は(無理やり)満たしているので受理はされるはず・・・


自分の書いたものがどう評価されるのかは気になって仕方がないですね。


とはいえ、結果が出るのはまだまだ先なのでまったりと待ちましょう。


今回も例によって見返してないままの更新ですので、ちょいちょいと修正を加えていきます。



ではでは、今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。


また次回更新した際にはよろしくお願い致します。

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