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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「それでも私は……!」
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それでも私は……! Ⅵ

 ロングルの森を抜けるため足場の悪い暗道をひたすら歩き続ける三人の少女達。来た時よりも移動するペースが上がらないのは宵闇での視界不良、いつ獰猛なモンスターに襲われるかも分からない緊張感の他に、短い旅を共にしたラグトス、コットンとの別れの寂しさが後を引いているのかもしれない。


 悪条件が揃った深い樹海での移動で最も恐いのが道に迷うことである。特徴的な目印がほとんど存在しないこの場所で自身の方向感覚を失い、行くべき道を一度見失ってしまえば精神的に追い詰められ、そこから脱出することは困難を期してしまう。更に凶悪なモンスターが生息するロングルの森であれば尚更だ。


 そんな状況下でもシエルらが迷う事なく出口に一直線に迎えているのは、仕騎アネットが正確に道順を記憶し、暗闇であってもお構いなしな絶対方向感とでもいうべき感覚を持ち合わせていたおかげであった。シエルがその事を賞賛すると『これは騎士として当然の嗜みだ』とやや照れくさそうに耳を赤らげながら呟いた彼女はなんとも可愛らしかった。しかし、シエルはコットンと別れて数分と経たないうちに向かうべき方角すら分からなくなり、かなり危うかった事を考えればアネットの存在は大きいものであった。


 来た時よりも幾段とペースが落ちているとはいえ、現在の状況を鑑みれば、順調と言っても過言ではない移動をしている三人の少女達。そんな中で先頭を行くアネットと後方から付いてくるユウナに挟まれる形で真ん中を歩いていたシエルは少し前から体に違和感を覚えていた。


 全身を鉛で覆い被せられたような重苦しさ、動く事にすら不快感を覚える気だるさ、脳が考えることを拒んでいるかの如き疲労感、呼吸をするたびに胃の中の物が暴っているような感覚……風邪の症状にも似たそれは最初の方こそ、気のせいかと思うほどか弱いものであったが、時間が経つにつれてみるみる悪化し、今となっては歩くために脚を一歩踏み出す動作でさえひどく苦痛に感じるほどである。当然のごとくその足取りは自然と重くなっていた。


 そんな代行神の異常にいち早く気づいたのはシエルよりも少し後方を歩いていたの少女ユウナ・アルテレイであった。


「ねぇシエル、なんだか様子が変だけど大丈夫?」


「えっ、あぁ、うん、えっと……そうかな? 大丈夫……だよ」


 ユウナの呼びかけに、ぼんやりと数秒遅れて反応を見せたシエルの容態はその返答とは裏腹に明らかに芳しくない。 


「シエルっ! どうした!?」


 ユウナの声に誘われ、後方を振り返ったアネットがシエルのただならぬ状況を見て取ると、慌てた様子で声を荒げた。


「はにゃぁ、アネット……そんにゃ大声だしたらび、びっくりしちゃうよぉ。私は大丈夫……大丈夫だよぉ」


 傍から見ても明らかにシエルの体調が良くないのは一目瞭然である。だが、周りに心配を掛ける事を嫌い、自身のせいで森を抜けるペースが落ちることを懸念しており、一向に強がりを通そうとする。


 血色の薄れた顔、熱っぽく虚ろな瞳のシエルは体のバランスを取ることが困難な程弱っており、ふらりふらりと覚束無い足取りで先を急ごうとする。しかし、ついにシエルの華奢な体が限界を迎えた。地面に躓いたかのように突如シエルの体が前傾すると、なんの回避行動や受身を取ることもなく、重力に従い無抵抗に地へと倒れ込んだのだ。


「――シエルっ!!」


ロングルの森全土に響き渡ったのではないかと思うほどのアネットの悲鳴にも似た声が轟き、それに驚いたのか、周囲で生活していた夜行性の小型モンスターが一斉に逃げ出した。アネットはそんなことなど気にもせずに主であるシエルの元へと駆け寄ると、地面へ両膝を着けてしゃがみ、目の前で倒れている少女を抱き起こす。


 幸いにも足元の地面が丁度柔らかい草葉で覆われていた部分で倒れ込んだため、転倒によるケガなどはなく、泥で衣服が汚れる程度であった。しかし、シエルの意識はあるものの、一回一回の呼吸が荒く、額からの汗も滝のように溢れ出ており、苦しそうに息を漏らしている。 


「シエル大丈夫かっ!? どうしたんだ!?」


「んうっんぅ……」


 繰り返されるアネットの呼びかけに対してもシエルはまともに返事ができないほど衰弱しており、今にも意識を失いそうである。


「アネット待って。揺すっちゃダメ。うちが診るわ」


「ユウナ、頼む」


 取り乱しかけているアネットを制止すると、ユウナは肩から掛けた群青色のポーチの中から、先端にコイン程の大きさのガラスレンズが嵌め込まれた、中指程度の長さの棒を取り出すと、レンズ部でシエルの目の周りを中心に顔の至るところを覗いていく。その棒状の検査器具は時折赤く光り、なにかに反応しているようだ。そして一通り診終えたユウナは深刻な面持ちで口を開いた。


「恐らく神経毒の類ね。しかも結構強力な物だと思う」


「――毒……!? 一体どこで!? 大丈夫なのか!?」


 ユウナを質問攻めにするアネットの声は、いつもの凛とした覇気が消え、焦りと動揺しか表れていない。


「この森で毒を持った虫か植物にやられたのかもしれない。命の危険は低いけれど……ないとは言い切れない。それに生命は大丈夫でも相当に苦しいのは間違いないから、今は少しでも"楽に"してあげないと」


 ユウナの発する言葉の中で"楽に"という部分だけが他とは若干声のトーンが変わっていた事に、動揺しきっているアネットが気づく事はない。


「私は何をすればいい!? 私に出来ることは何でもする!」


 主であるシエルの体調の異変に動揺するアネットであったが、医療に関する知識のない彼女にとってはどう対処すればいいのか全く分からず、の少女に指示を仰いだ。


「じゃあアネット、とりあえず綺麗な水を組んできて。さっき通ってきた道に湧泉樹(ゆうせんじゅ)があったからお願い」


「了解した!」


 ユウナからの指示でアネットは自分のやるべきことを確認すると、一秒でも無駄にできないと言わんばかりに来た道を駆け戻る。


 湧泉樹は地中に通る水分を根から吸い上げ、幹の一部から放出するセンスティア特有の樹木であり、幹の中を通して吸い上げる過程で濾過に似た工程が行われるため、吐き出される湧水はかなり純度が高く、質の良いものである。その綺麗さから湧泉樹の天然水として無加工の飲料が市場に広く流通するほど有名なものであった。そんな樹木が確かにここに来るまでの道のりで幾本か生えているのをアネットも確認していた。湧泉樹までの距離もそこまで遠くないはずである。水を汲む時間を考慮しても十数分もあれば往復できるだろう。いや、アネットが神速の如く急げば、もっと早く行けるかもしれない。


 アネットは全力で暗闇が支配する不気味な森を疾走して行った。 




 

 

こんばんわ、作者の村崎 芹夏です。


いやはや、ぐっと気温が上がって暑さにだらけております。 今回更新分も結構ボォーっとしながら休み休み書いていたのでまともな内容……それどころかまともな文章になっているかすら心配です(笑)


今回も短めの文章ですが少しだけ物語が進みます。 ユウナさんっ! あなたっ!

すごく今更なんですけども、ファンタジー系の物語を書くにあたって、当然ファンタジー要素が出てくるわけなのですが、実際に現実で目にしたことのないものを想像して文字にするってのは結構大変ですね><


しかし、世界観を表現するには必須の要素ですのでもっと精進せねば!


今回もちょいちょいと投稿後に修正を加えていきます。



それと、前回も書きましたが、そろそろ引越しが迫っており、尚且つ引越し後も少しの期間ネットが使えなくなるため、来週から6月半ばにかけて更新が滞る場合があるとは思いますが、ご了承くださいorz


それでは今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。


また次回更新した際にもよろしくお願い致します。

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