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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「それでも私は……!」
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それでも私は……! Ⅱ

 視界から一縷の間も離すことなく捉え続けている人影と四足の獣のような影に大きな動きは見えないが、遠目で獣影がジリジリと人影に這いより間合いを詰めているようにも見える。アネットがどのような事態を想像し、焦りを出しているのかはこの状況をみればシエルにも一目瞭然であった。獣の影の正体ラグトスであり、誰かに襲いかかろうとしている、そう考えたのだろう。むしろそれ以外は考え難いと言っても過言ではない。


 アネットの、逸る気持ちを抑えきれない歩調に必死で付いていくシエル。やがて暗く挿していた二つの影をしっかりとその輪郭が認識できる距離まで二人は近づいた。同時に嫌な胸騒ぎが現実となっていたことをシエルは悟る。


 複雑に枝分かれした神秘的な大樹の根元の地には、腰程まで伸びたプラチナブロンドの艶のある髪を揺らしながら一歩一歩後退する少女の姿。そして彼女の正面には大型犬よりも一回りは大きい体躯を真っ白な毛皮で包み込んだ四足歩行のモンスターが睨みを利かせていた。


 口部から覗く獰猛さを隠す気のない四本の犬歯、獲物に狙いをつけて息の根を止めるまで逃がさないとでも言わんばかりの鋭い眼光、各足から生える艶のない鋭利な鉤爪。どこか初対面のギアナー・ナイトドラゴンのグドーを連想させるような、見るからに凶悪さを醸し出している外観から想像するに、この目の前の金髪少女と対立しているモンスターが問題のラグトスであった。


「――まずい! 先に行くぞ!」


 短く緊迫感を顕にしたアネットは地を翔ける脚に一層の力を込めると、弓から弾き出された矢の如く瞬時に加速し、一気に大樹の根元への距離を縮める。魔力を脚に集中させ、それを瞬時に開放することによって爆発的な加速を得たアネットは、シエルを余所に大地を滑空する、小さく呟く。


「セドア・ロウ」 


 すると、彼女の右手付近がまるで空気中の光を集めていているかのように青白い光を発し始めた。アネットが、伸ばした右手で空中を掴むような動作をとると、青白く発光していた光は瞬時に砕け、一瞬だけ余韻を残すと、すぐさま何もなかったかのように消えてしまう。そして、その光の残滓と引換に彼女の何も持っていなかったはずの右手には、炎激の如く激しく鮮やかな真紅の刀身、鍔部から柄頭まで伸びる翼を模ったシルエットでグリップ部分を覆った一振りの麗美な剣が収まっていた。《クロエラ》、アネットが愛用する紅い刀身を持った、身の丈程もある長剣である。


 センスティアに存在する武器や防具と言った装備品は大きく分けて三種類になる。

 一つ目は通常装備品。”常装”と呼ばれ、入手難易度の低い金属や布類などを普通に加工して出来た物である。製造が容易なため、安価で入手することができ、もっとも使用者の多いのが特徴である。


 二つ目は魔導装備品。”魔装”と呼ばれるそれは、資材そのものが魔力を帯びた、入手難度の高い金属、鉱石、布を加工するか、常装品に鍛冶師がすることによって製造される装備品である。常装に比べ、装備品の持つ性能は桁違いに強力な事が多い反面、製造に使用する材料のコストや製造過程の手間、そして何より、魔力を帯びた材料の加工や魔力付加が出来る職人が少ないことから、かなり高価な品物である。フィンガローで魔装を所有しているのは騎士団と、財産を余した一部の貴族の護衛くらいであった。 


 そして三つ目が神域装備品。”神装”と呼ばれるものである。魔装を遥かに上回る性能は神の域に達するといわれ、通常では考えられない奇跡を起こすとも可能とさえ噂されている。神装は一件の例外を除いて、現在の技術では製造することが不可能とされており、現状で確認されているわずか数種類の神装のほぼ全てが太古の遺跡から発掘されたものである。どんな材質を使ってどのように製造されたのか、その研究はセンスティア全土で長年続けられているのだが、一向に成果を上げることが出来ていない。一説では歴代の神が使っていた装備などとも言われているが、未だに一切が謎に包まれている。


 そしてアネットが手にしている《クロエラ》こそが数少ない神装の一つであり、彼女が紅の騎士と呼ばれる本当の由縁でもあった。


 アネットはたったいま手中に収まった深紅の剣のグリップ部を握り、その確かな重みと感触を確かめると、それに視線を向けることなく前方で構えを取る。そのまま大地を滑空する勢いを殺さずに大樹の根元へと文字通り飛び込んでいく。


 アネットの驚異的な運動性能に驚きをみせるシエル。凡人程度の身体能力しか持ち合わせていない彼女は当然、疾風の騎士に付いていくことは出来なかった。更に、あまり着慣れないフリルやリボンがあしらわれた洋服に丈の短めのスカートという運動に適さない服装も相まってシエルの動きは制限されている。やっとのことで大樹までたどり着くと、そこにはいつの間にか美しい剣を手にしたアネットが、金髪の少女との間に割って入る形で既にラグトスと対峙していた。


「シエルはその娘と共に下がっていてくれ」


 シエルが合流するなり焦りのみえる口調でアネットは叫んだ。ラグトスは醜悪さがいかんとなく表れている獰猛な犬歯を覗かせる口元からは荒げた呼吸を、喉元からはグルルルという威嚇のような音を絶え間なく発している。予期せぬ闖入者の騎士を警戒しているのか、相当に機嫌の悪い様子で今にも飛びかかってきそうな状態であった。


 シエルは状況をなんとか理解すると、アネットの指示通りラグトスに襲われていた少女の元へと駆け寄る。


「もう大丈夫。いま助けますから」


 恐怖のあまりか今にも泣き出しそうな程崩れた表情をしているプラチナブロンドの髪の少女は、二人が自分を助けに来たことを理解すると、咄嗟にシエルに縋り付いた。


「あ、ありがとう。なんか私、よくわからないままこのモンスターに襲われてて、どうしていいか分からなくて、必死で逃げて、怖くて、でも誰もいなくて、本当に怖くて」


 少女から途切れ途切れに発せられる言葉からは彼女が相当に怯え、気が動転していることが伝わってきた。だが、それも無理はないだろう。たった一人で凶悪なモンスターに襲われていたのである。恐怖に押しつぶされてもおかしくはない。


「さぁ、こっちへ」


「う、うん」


 恐怖と安堵が入り混じっているのか、落ち着かない様子の少女をシエルが宥めながら、アネットの後方へと一緒に下がっていく。太陽のように輝く綺麗なブロンド髪の少女は、今でこそ泣き崩れそうな表情であるが、艶のある健康そうな肌色の小顔、目尻のつり上がった細めの眼、ちょこんと小さめな鼻、全体に纏まりのある可愛らしい容姿である。


 アネットは横目でシエルと金髪の少女が自身の後方まで退避したことを確認すると、紅蓮の剣をぐっと握り直し気合を入れる。目の前で敵意むき出しの威嚇を放つウルフは相変わらずだが、すぐさま飛び付いてくる様子はなく、それ故にアネットも下手に先制に打って出ることが出来ず、膠着した場に緊迫感が漂う。


 動かぬ場に焦らしを加えるかのように丘陵の地に強めの風が吹き、青黒い植物の葉が風に乗って舞い上がる。ひらひらと左右に踊りながら宙を浮遊した葉はやがて新緑の絨毯へと音もなく落ちてゆく。それを合図にしたのか、全体に張り巡らされた緊張の糸の一本が突如切り落とされた。いままで膠着を保っていたラグトスが獣特有の瞬発力を発揮し、前足で地面を蹴り、一気に加速する。驚異的なラグトスの脚力はアネットの魔力を込めた加速に勝るとも劣らないスピードで、まるで風と一体になったかのように突き進む。


 咄嗟の出来事にアネットは不覚にも一瞬の遅れをとり、自身へのダメージを覚悟した。 だが、騎士の少女に衝撃が来ることはなかった。


 俊敏な動きで翔ける鋭利な犬歯と鉤爪をもったモンスターはアネットに突っ込むと思いきや、寸前で横に逸れると、そのまま後方に控えていたブロンド髪の少女の元へと一直線に向かいだしたのである。ラグトスは最初からアネットとの戦闘は眼中に無く、あくまでも狙いは後方の少女のということであった。


「――しまっ!!」


 その事にアネットが気づいた頃には既にラグトスは横をすり抜け、エナメル質が失われた犬歯が覗く口を大きく開いて少女へと飛びかかる動作へと移っていた。このタイミングではいくら脚に集中させた魔力を放出して飛び出したところで絶対に間に合わない。頭の中が真っ白になったアネットが次に目にした光景は……ブロンド髪の少女の前に立ち、庇うように両手をいっぱいに広げている主、代行神シエルの姿であった。

こんにちは、作者の村崎 芹夏でございます。


大変おまたせ致しました。 代行神の更新になります。


そして期間が空いた割には短め……ご容赦くださいorz


本当はもう少し先まで書きたかったのですが、早めに更新しないと……という焦りに駆られまして^^;


もともとバトル物を書きたかったのですが(代行神はバトルも予定していますが、、メインにはならないと思います)いざ戦闘の描写を書こうとすると結構難しいものですね><


場の緊張感とかキャラの躍動感とかの表現が上手くできない……少し甘く見ていたのかもです。 実は更新が遅れたのはそういう部分をどうすべきか悩んでいたのもあるのです。 色々な作品を読ませていただいて勉強をしてみたものの、他の作者様達のように情景がはっきり浮かんでくるようなシーンの表現が……


こればっかりは書いて書いて書きまくって経験を積むしかないですね。


今回も例によって、執筆⇒即投稿と見直しをする余裕がありませんでしたので、投稿後ちょいちょいと誤字脱字、おかしな部分の修正を行っていきたいと思います。



では、今回も読んでくださった方々、ありがとうございます。 また次回投稿した際にはよろしくお願い致します。



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