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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「代行神シエルにおまかせください!」
19/52

代行神シエルにおまかせください! Ⅶ

 シエルは琥珀色の瞳に驚きの色を浮かべながら幾度も瞬きを繰り返し、眼前に立つ幼女とアネットを交互に見交わす。


 ただでさえこの世界の神という存在が想像の範疇を超えるものであったのに、極めつけは幼女神である。テトラ・テオスとはもっと神々しい風体を想像していたシエルにとってあまりにも意外過ぎたため、思わず衝撃を隠すことができなかった。センスティアに来てから幾度となく驚きがあったため、少しは慣れて耐性が出来ていたかと思っていたが、どうやらそうでもなかったようだ。シエルにとって神という存在が色々な意味で想像を凌駕していることを改めて思い知ったのである。


「あら、あたしみたいなちんまい娘が神をやっている事が信じられないかしら?」


「あっ、いえ、そうじゃなくて……えっと、その、神様ってもっとすごいのを想像してたから驚いちゃって……」


 レーミアの喉元から発せられるどこか憂いを帯びた冷たげな音色は、グラズヘイム城内に幾重にも反響し、耳にするもの全てを誘惑するような鎮魂歌の音鎖を奏でている。


「それはあたしの容姿がすごくないって事かしら?」


「あの、いえ、そういう意味では……えっと、えっと、あの……すみません」


 何を言っても墓穴を掘ってしまう。レーミアによってそんな状況に追い込まれている気がする。シエルはこの場で適切であろう言葉が一切思い浮かばず、混乱の果てに大きく頭を下げた。


(どうしよう……私、神様を怒らせちゃった……)


 容姿が如何に幼子であったとしても、この世界では神に位地する娘なのである。そんな者に対して自分はなんと失礼な発言をしてしまったのだろうかと、きつく目を瞑りながら後悔を浮かべるシエル。


 そんなシエルを他所に、続けてレーミアから発せられたのは意外にも妖精が楽しげに囁くような愛らしい笑い声であった。


「うふふふ、シエル顔をあげて。あなたの反応が予想以上に面白かったからあたしもつい悪ノリしてしまったわ」


 そういうレーミアの声色は先ほどの物静かでどこか冷たげなものとは異なり、幾分か優しく明るみを持ったものとなっている。しかし、それでも彼女の発する声が聞く者全てを虜にしてしまいそうな程甘美な音色であることに変わりはない。


 幼女神に言われるまま顔を上げたものの、シエルは先ほどとのギャップといい、状況がいまいち掴めていなかった。アネットの方へ視線を向けると、彼女は左手で口元を覆い必死に可笑しさを堪えていた。


「えっ、何? 何なんですか?」


 尚も理解し難い光景に、ただおろおろと慌てふためくシエル。そこでついに我慢が臨界に達したのか、アネットが迫力ある大きな笑い声を響かせた。


「はははっ! シエル、レーミア様にからかわれているんだ」


「――はにゃっ!?」


「レーミア様は他人を弄るのが好きでな。私も事あるごとにからかわれたものだ」


 やっとのことで言葉の意味を理解し始めたシエルは、何かを問いかけるように小

動物のような目でレーミアを見つめる。幼女神もそれに反応する。


「そういう事なの。いきなり驚かせちゃってごめんなさいね」


 相変わらずレーミアは愉快そうに白細い笑顔を浮かべている。


「じゃ……じゃあ、あの、私が失礼な事を言ったから怒ってるってわけでは……?」


「もちろん気にしてないわ。それに私の容姿が幼いのも事実ですし」


 掠れかけた声でなんとかそう口にしたシエルはレーミアの返答を聞くなり、へなへなその場で脱力してしまう。


「あら、大丈夫かしら? 驚かせちゃって本当にごめんなさいね」


 不意にその場に崩れ落ちかけたシエルを目にし、今度はレーミアが少々慌てた様子を見せながら謝罪した。


 やっとのことで状況を飲み込み、自身がレーミアに弄ばれていたことを理解したシエルは、怒りや悔しさと行った感情よりも、急激な安堵感に襲われていた。そんなシエルを横目に満足気な笑みを浮かべているレーミアは少し遅めの自己紹介を始めた。 


「さて、改めまして。あたしはここセンスティアで四神の一角を担っているレーミア・フィエルよ」


「あっ、はい! 私はシエルです。一応、センスティアで神様の代行をやることになりました」


「よろしくね、シエル」


「こちらこそよろしくお願いします!」


「シエルはあちらの世界から来たのでしょ? センスティアはどうかしら?」


「言葉で表現するとちょっと安っぽく聞こえちゃうかもですけど……すごく綺麗な所だと思います!」


 綺麗なところ、これはシエルがこの世界を表現するのに一切の嘘偽りのない言葉であった。どんな着飾った言葉を連ねるよりもストレートで的確に本質を伝えることが出来る一言である。シエルはこれ以上に適切な言葉が他に浮かんでこなかった。故に自然とその部分に力が入ってしまう。


 先ほどの弄びをまるで忘れてしまったかのように生き生きとした輝いた琥珀色の瞳を浮かべる少女を見てレーミアは何かを感じ取った。


「センスティアを気に入ってもらえたようで良かったわ」 


 最初の印象こそ衝撃的なものであったが、レーミアは話をしてみれば外見とは裏腹に"優しいお姉さん"といったような印象であった。やや上品気味な口調も相まってか、より一層幼い見かけとのギャップに驚かされる。出会って早々にからかわれて驚いてしまったが、不思議とシエルはレーミアという少女を憎めない……むしろ好意的な印象さえ抱いていた。これもセンスティアの神の成せる業なのだろうか、とシエルが少し的外れなことを考えながらレーミアとの雑談に華が咲きかけていたところでアネットが徐に口を挟んだ。


「レーミア様、積もる話もあるでしょうけど、とりあえず式の方を」


「そうだったわね。ちゃっちゃと片付けてしまいましょう」


「お願いします」


「ところでシエル、式について詳しく聞いているのかしら?」


レーミアの問いにシエルは首を振りながら答えた。


「いえ、詳しいことは特に……」


「そう、まぁ長々と説明するよりも実際に進めちゃうほうが早いわね。二人共、私に付いてきて頂戴」


 そう言うとレーミアは、シエル達の方に向けていた体を反転させて、そそくさと歩き出した。


 神の居城の内部はまるで古代迷宮でもあるかのように複雑に入り組んでいた。エントランスホールから見えた、左右に分割された大階段を左方へ登って行ったレーミアの後を追うようにしてシエル、アネットは場内を移動する。


 二階の渡り廊下を抜け、ドアを潜ってからは長い廊下の分かれ道を右へ左へ何度も方向転換をし、螺旋階段を上ったりもした。シエルすでに自分がどちらの方角に向かっているのかすら分からなくなりつつある。これほど複雑怪奇な建物は先導する者がいなければまず間違いなく目的の場所へたどり着く前に果ててしまうだろう。そこそこ記憶力に自信のあるシエルだったが、既に自分が歩いてきた道すらもうろ覚えになっていた。


 一体どれほどの距離を歩いただろうか。ようやくレーミアの脚が止まる。目の前には既におなじみとなった双翼のエンブレムが刻まれた大扉が聳えていた。しかし、グラズヘイムの入口にあった門とは異なり、こちらの扉にはちゃんと開扉用の取っ手が設けられている。どうやらここが目的の場所のようだ。


 レーミアはか細い指先で扉の取っ手に手をかける。彼女の容姿と扉の大きさを考慮すれば、開けるのは困難なだろうと考えたシエルは手を貸そうかと一瞬だけ迷う。しかしその心配は完全に杞憂であった。


 幼き面影が残りきった神は取っ手を掴むと、特に気張って力を加える様子もなく扉をスムーズに押し開けていく。重苦しい軋み音を響かせながら開くそれをみれば決して軽いものではないはずなのだが、幼い少女の神は何食わぬ顔であっという間にめいっぱいまで入口を広げてしまった。


 あの華奢な体の一体どこにそんな力が……それともセンスティア魔法なのか、はたまた神の力なのか、色々な思考がシエルの脳裏に駆け巡っていると、その疑問の張本人の声によって意識を引っ張り戻された。


「着いたわ。ここが神聖継承式の神殿よ」


 レーミアが真紅のドレスから伸びた華奢な腕の先で指をパチンと一度鳴らす。するとボッっという音と共に青白い炎が一つ、二つ、三つと続けざまに扉の開ききった部屋に等間隔で円状に設置された黄銅色の燈台に順々と宿っていく。やがてそれは部屋一周をぐるりと覆った。


 冷たい熱気を放つ青炎に照らされえて部屋の内部を伺うと、儀式の場という割には広いばかりで少し質素な創りであった。タイルのように光沢を放つ壁には装飾は施されていない。玄関ホールと同様の素材なのか、相変わらずシエルのブーツ底でキュッキュッと小気味良い音を鳴らしている床面には、部屋いっぱいの広さまで大きな魔法陣のようなものが描かれていた。


 他に特徴的なものといえば、高い頭上の一面を覆うように備えられた様々な色のガラスが光を通して輝くステンドグラスの天井ぐらいである。ステンドグラスの天井から微かに光が漏れているということは、この部屋はどうやらグラズヘイムのかなり高い位置にあるようだ。 


「ここが、神様の……」


 薄暗さも相まって部屋中でゆらめく青い炎が神秘的に見える。それに見とれてしまったシエルの言の最後は思わず消えいってしまう。それをアネットが補う。


「ここは新たなる神が生まれる場所。そう言っても過言ではないだろう」


 今更だが、式を目前にしてその言葉の重みがヒシヒシとシエルに伝わり、一気に緊張感が増す。だが、代行神を引き受けたことを決して後悔しているわけではない。むしろ武者震いに近い感覚であった。


「さぁ、さっそく始めるとしましょう」


  新生の神を迎えるべく手招きするように揺らぐ灯り火の円の欠けた入口から部屋へと入っていくレーミア。そしてシエルも意を決して後に続いた。

 こんばんわ、作者の村崎 芹夏です。 

 先週は更新出来ずに申し訳ありませんでした。 圧倒的に時間ががが・・・

 そして案の定というかなんというか、もはや予定通りにいかない事が予定通りなのではないかと思えるほどに(笑)

 今回更新分でこの章は区切りになるかなーと思っていたのですが、そうでもなかったです。 

 そんなわけでもう少しだけこの章は続きますー。


 ではでは今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。


 また次回更新した際にはよろしくお願いいたします。


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