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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「代行神シエルにおまかせください!」
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代行神シエルにおまかせください! Ⅵ

 メルヴィンと解散してからしばらく歩きアネット、シエルの二人はフィンガローの中央区にまで来ていた。大都市の中枢にあたるこの区間はメインストリート、サブストリートとはまた少し違った賑わいを見せている。


 道端に背の高い新緑の植物が規則正しく植えられ、自然な景観が演出されている。見たこともない植物であるところをみると、どうやらセンスティア固有のもののようだ。 


 途中、路上で楽器を演奏する吟遊詩人の小人や、不思議な光を放ちながら進む馬車のような乗り物。魔導雑貨を売る露店に、球体と正方形体のみで建造されたおかしな形をした建物など、様々な興味を引くモノに出会ったが、アネットが向かう先、自分たちが行くであろう場所がなんとなく想像出来てきたシエルの興味のほぼ全てをそれが独占していた。


 いまシエルの眼前に映るのは、センスティアの中枢部に堂々と鎮座する巨大な建造物。シンメトリーという言葉が全くもって似合わない歪な外観、いくつもの円柱状の塔が本体の建物を囲うように聳えており、その先端は針のように鋭く鋭利になっている。全体的に青を基調とされたデザインの外壁。その上部、街のどこからでも見えそうな程目立つ位置にはアネットのマントに縫われたものと同じ純白の双翼に一本の西洋剣があしらわれたエンブレムが凛と刻まれている。


 中世ヨーロッパの城を連想させる建造物は、フィンガローに入った時からとても気にはなっていた。ただ、初めてこの街を訪れたシエルでも分かるぐらいに他の建造物とは雰囲気が異なり、一際威圧感を放っているそれは一般人、特に部外者である自分には縁遠いものであるだろう事もなんとなく想像出来た。だが、よく考えてみれば神という存在はセンスティアにとって最高権威にあたる者である。代行とはいえ自分がいまからそのための式を受けるのであればあるいは……そのような考えがシエルの中を巡っていた。 


 その考えを確信に近づけるかのように、アネットは先ほどからずっと城の方向へと歩行の舵を取っている。更にしばらく歩き続けるとアネットは巨大な城の入口付近でその足を止めた。どうやらシエルの予想は完璧に的中していたようだ。 


「わぁ、おっきい建物ですね」


 フィンガローの外からでも一際大きい建造物であることは見て取れていたが、間近で見ると改めてそのスケールに驚かされてしまう。天空を貫くのではないかと思うほど雄々しく聳え立つ城塔は、入口付近から見上げると首を真上に向けてもその頂上を見て取ることができない。煌びやかに光る派手な装飾の類はほとんどないが、建造物全体からは神々しいオーラがにじみ出ているようである。


「神の居城、《グラズヘイム》だ。居城といっても実際にが住んでいるわけではないんだがな」


「そうなんですか? こんな立派な建物なのに」


「元々はセンスティアを創造した大神が住んでいたという伝承があるんだが、現在では神聖式を始め、神に関する事柄で神聖な地として使われているんだ」

 神の居城(グラズヘイム)の入口は、高さ三メートルはあろうかという大きな観音扉となっていた。その扉の両脇にはフィンガロー出入り口のアーチゲートと同様に長槍を持った守衛らしき者が姿勢正しく立っている。両脇の守衛達はアネットらが近づいてきた事に気づくと、右手の親指を手のひら側に折込み、残りの指をピシリと伸ばした状態で左肩に当てる動作を取る。これも昨日、街門で見た光景と同じであった。


 この四本の指を肩元へと持っていく動作は敬礼や誓いの際に使われているという事をシエルはアネットから聞いていた。四本の指は四神を意味しているという。


 巨人でも通れそうな高さ、幅を見せつけるグラズヘイムの入口の扉。しかし、そこには鍵穴や取っ手といった開扉に必要な類の装備は存在していない。その代わりに、扉の中央上部、観音扉の両片が合わさる位置に、アネットのマントやグラズヘイムの城壁に掲げられたものと一糸そぐわぬ、純白の双翼に西洋剣の紋様が刻まれていた。


 グラズヘイム城門の前に立ったアネットはゆっくりと左手を掲げ、門に刻まれた双翼の刻印と掌を重ね合わせる。そこでシエルは初めてアネットの左手の甲部に同様の純白の双翼の印が浮かんでいることに気付いた。


「ルオウ セド ラクフ」


 アネットが城門に刻印を重ね合わせた状態で小さく呟く。すると、彼女の手の甲に刻まれた刻印が金色の眩い光を放ち、すぐさま消光する。そして光の余韻が完全に消え去った途端、今度は眼前の巨大な城門の中からロックが外れたような重音が響き、観音形式のそれが周囲を威圧するような重苦しい悲鳴を轟かせながら、焦らすようにゆっくりとその大口を開き始めた。 


 シエルは開扉中の隙間から内部を覗いて見るが、昼間だというのに薄暗くて様子を伺うことができない。そしてしばらくして重厚な城門は完全にその身を真っ二つに割り、二人の来訪者を受け入れる用意が整った。それを見届けるとアネットは躊躇うことなく中へと突き進む。シエルもそれに続いて中へと入っていく。


 内部は目の前にいるアネットがぎりぎり視認できるほどの光量しか存在しない。室内の床は上質な材料で造られたものなのか、シエルの履いたブーツが床面と擦れるキュキュキュという音が小気味良いリズムで闇に覆われた部屋中に木霊する。


 城内に入り十数歩程歩いたところで前を行くアネットの脚がようやく止まった。何も見えない周囲をキョロキョロと見回しながらシエルもアネットの横へと並ぶ。


「仕騎アネット、シエル、神聖継承式に参りました」


 いつにも増して力強いアネットの声がまるで音楽を奏でるかのように静かな室内に幾重にも反響する。その言葉が合図だったのか、遥か高い位置に備えられた照明器具の灯火がまるで映画の演出であるかのように順番に灯って行き、部屋全体を一気に明瞭にする。


 咄嗟の出来事に思わず驚いてしまうシエル。唐突な光量の増幅により、一瞬眼が眩らんでしまうが、それがやがて慣れてくると目の前に広がる光景に興奮を隠せなくなってしまった。


「――すっごい!!」


 グラズヘイムの中はまさにお城といった様子であった。シエルとアネットが現在いるだだっ広い部屋はどうやらエントランスのようである。部屋には四本の大きな純白色の柱が天まで突き抜けており、各方向の壁には別の部屋へと続く大きな扉がいくつも備えられている。シエル達の真正面には幅十メートルはあろうかという大きな階段があり、中二階で左右に分かれそれぞれが別方向の二階へと繋がっていた。中二階の正面壁には、ここに来るまでに何度も目にした純白の双翼に西洋剣のエンブレムが飾られている。


 外観からある程度は予想していたが、おとぎ話に出てくるような立派な城を目の前にし、大興奮のシエル。センスティアの何もかもが彼女にとって新鮮で興味の対象になっているが、この建物はその中でも郡を抜いているといっても過言ではない。


 あちらこちらと忙しく視線を移すシエルは、あまりの興奮ぶりによりこの城の内部構造にばかり眼が行ってしまっていたが、自分たちの正面、大階段の前に小さな影が一つあることにやっと気付いた。


「あなたがシエルかしら? 元気な娘ね」


 雪解けの銀世界を連想させるような妖麗で甘美な声色が城内に静かに流れる。その声元を注意深く見てみると、そこにはまるで妖精を思わせるような華奢で線の細い小さな少女が立っていた。


 白銀で編んだ錦糸の束を解いたように優しくしなやかな腰下まで伸びる長い銀髪。パチリと大きく開いた目元には見る者全てを吸い込んでしまいそうな程の輝きを持った翡翠色のガラス玉の瞳が覗いている。潔鮮の真紅な生地を基調に、所々で相反する漆黒色の生地が使われ、各所にフリルやリボンがあしらわれたゴシック調のミニスカートドレス。膝上まであるニーソックスに丈の長い紅色のブーツという人形のような格好である。

 

 シエル以上の幼さを残した……というよりも幼い顔立ち、低身長という点から外見年齢はだいぶ低くみえる。


「あ、あの、えっと……」


 何かを言わなくては、そう思った脳とは裏腹にシエルは何も意味のある言葉を発することが出来ずに思わずアネットに視線で助け舟を求めてしまう。それを悟ったアネットは小さくクスリッと笑みをこぼしてから口を開いた。


「このお方はの一人、レーミア・フィエル様だ」


「……」


「……」


 いまアネットはなんと言っただろうか……脳内に響く浅い記憶を呼び起こす。そしてシエルとレーミアの間に沈黙が流れる。


「――えっ!? この娘、神様なんですか!?」


 今度は静かなグラズヘイム城内に少女の大きな驚声が響き渡った。

こんばんわ、作者の村崎 芹夏です。

 

 はてさて、今週もヒーヒー言いながらなんとか更新できました。

 先週に引き続き今週も少し短めです。というか、最近では執筆時間がほとんどないため、週一ペースの更新だとこのぐらいの量が限界です><


 そして神キャラ(新キャラ)のレーミアさん登場です。

 ちなみにレーミアという名前ですが、私がとあるネトゲをプレイしていた時に使っていたキャラネームからとっています(笑)


 銀髪ゴスロリ幼女とかきっと需要ある! というか私が好きだという理由でこの容姿なのですが……!


 一応、次話でこの部の区切りになるかな?と予想していますが、毎度のことながら書きたいことが増えるかも知れないので、あまりアテにはしないでください(笑)


 さてさて、今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。 

 また次回投稿した際にはよろしくお願い致します。

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