代行神シエルにおまかせください! Ⅴ
センスティアの太陽もシエルが元いた世界のそれと同様に全ての人々に暖かで気持ちの良い光を降り注ぎ、一日の始まりを告げている。昨晩の静けさとは打って変わってフィンガローの街には多種多様な種族の人影で例のごとく賑わいを見せていた。
遊覧街を歩く、紅蓮の如き鮮明な紅髪を後頭部で揺らす姿の少女と、大きなリボンを腰元にあしらった可愛らしさ満点のワンピース姿の少女は神務所を後にして程なくすると見知った顔に出会った。
「やぁ、アネット、シエル。おはよう」
やや滲んだ金髪をナチュラルショートで揃えた髪、アネットよりもやや高めの身長、胸元で交差する黄色いラインが入った薄手のシャツと七分丈のパンツという服装で声を掛けてきた青年は、昨日サブストリートで出会ったメルヴィン・アッカーであった。自己紹介の際にシエルは、彼がサブストリートで《アッカー魔具店》という商店をやっているという事を聞いていた。
「メルヴィンさん、おはようございます」
「おはよう、今朝は早いな」
「今日はちょっと仕入れに行こうかと思ってな、そっちは式かい?」
メルヴィンが言っているのは神聖継承式の事であろう。ただシエルは自分がこれからその式を受けに行くことをメルヴィンが知っていた事に少し驚いてしまう。というのも、自身が代行神の役目を引き受けるのを決めたのが昨晩の事である。誰かに知れ渡るには少々早い気がする。そんな事を考えていると、それを察したのか、ニカッと笑顔を作ったメルヴィンがシエルに向けて口を開いた。
「なんで分かったの? って顔をしてるな。まぁ知っていたってわけじゃないんだけど、シエルなら引き受けてくれるだろうなって会った時からなんとなく感じていたんだ」
「はにゃっ!」
「こいつは昔から妙なところで勘が鋭いからな」
しばしの間、三人はサブストリートで立話に花を咲かせていた。十数分の会話の後、仕入れに向かうメルヴィン、神聖継承式に向かうシエルとアネット、両者共に時間が押している事に気づき自然と互いの目的地へと向かう運びとなった。
メルヴィンは気さくで話し易いし、その内容や口調から人柄が良いのは少し話をしただけでも十分に分かる。アネットが信頼を置いているのも頷けた。センスティアの事、魔導具の事、街の人々の事、好奇心の塊のような少女にとって話をしたいことはまだまだ山ほどあった。しかし、大事な式に遅れるわけにはいかないので、少々の名残惜しさが後を引く。とはいえ、同じ街、もっと言えば同じ区画に住んでいるので、それなりに顔を合わせる機会もあるだろう。いざとなれば彼が経営している魔具店に足を運べばいい事である。
メルヴィンが南方の前の方向へ、アネットとシエルが大規模都市フィンガローの中央方向へと歩みを進め始める。互いが正反対の方向へと歩き始めた瞬間、ふとメルヴィンが何か思い出したかのようにアネットを引き止めた。
「あっ、アネット。そういやあの噂は聞いたか?」
両者の間に少し距離が空いてしまったため、メルヴィンは通常よりもやや大きめの声を上げている。そのためかこの距離でも内容はしっかりと聞き取れた。アネットも負けじと覇気のある声を強めて返答する。
「噂とは何のことだ?」
「フィンガローの近くに《はぐれラグトス》が現れたらしいんだ」
「ラグトスが現れたのか!? それは初耳だ」
「あくまでも噂だけどな。まぁ騎士のアネットが知らないんじゃ信憑性は低いなこりゃ」
会話のキャッチボールから察するに、ラグトスとはモンスターか何かだろう。この世界の知識がほとんどないシエルにはその程度しか分からなかったが、隣で顎に手を当ててなにやら悩んでいる様子のアネットを見ればあまり良くないであろう情報である事はなんとなく察しがついた。しかし、あくまでも信憑性いの低い噂のようだ。
「一応、こちらでも調べておこう」
そう言うとアネットは悩み顔を一瞬で切り替え、左手を軽く上げてメルヴィンに挨拶をして再びフィンガロー中央区へと向かう。いまいち会話の内容を飲み込めなかったシエルもアネットへと続く。そこでもう一度、メルヴィンが大きめの声を上げて呼びかけた。今度はアネットではなくシエルに対してである。
「シエル。言い忘れたけど、その服すごく似合ってると思うよ」
恥ずかしさの欠片もなく笑顔でさらっとそういうセリフを言ってしまうあたり、シエルの世界とセンスティアの人たちの違いなのだろう。予期せぬタイミングで褒められたシエルは、気恥ずかしさから完熟した林檎のように顔を真っ赤に染め上げ、照れた表情でメルヴィンに無言のまま一礼すると早足でアネットの元へと逃げ出してしまうのであった。
こんばんわ、作者の村崎 芹夏です。
そしてすみません!(笑) なんとか今日中に更新をっと急いで執筆したのですが、どうにも短くなってしまいました><
本当の事を言えば、もう少し先まで書けているのですが、どうにもキリが良くなかったため、ここで一旦切って更新させていただきました。
とはいえ、メルヴィンと会話をさせるだけで更新とかなんか本当にもうしわけないですorz(前回、お風呂回だけで更新しましたけども・・・笑)
しかし、少しだけ分かりやすい布石を投入させていただきました。
引き続き執筆がんばりますです!
とはいえ、来週以降も平日は全く書き進められない日が続きそうなので、また週末に慌てることになりそうなのですが・・・(笑)
ではでは短いながらも、読んでくださった方々、ありがとうございました。 また次回更新した際にはよろしくお願い致します。