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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「私、決めました!」
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私、決めました! Ⅳ

「それじゃお言葉に甘えようかね。ここら辺のどこかで銀色の懐中時計を落としてしまったみたいでねぇ」


「懐中時計ですか。ここらへんで落としたってのは確かなんですか?」


 やっと老婆の手助けを出来る事となり、シエルはやる気に満ちた張り切った声である。


「あぁ、ルオン広場に入る直前にその懐中時計で時間を確認したから間違いないはずなんだよ」


「分かりました。では私は広場の入口から探してみますね」


「ならば私は反対側から回ってみよう」


 段取りが決まると二人は真反対の方向へと走っていった。老婆の懐中時計がルオン広場内にあることが確実であったとしても、ここは広大な敷地面積を持つ。一人で探すことに比べれば可能性は上がるとはいえ、三人で捜索にかかったところで必ず発見に至るとは限らない。


 しかし、シエルの中にはそんな心配は微塵もなかった。この自信に何らかの根拠があるわけではない。いつもの"なんとなく"という程度のものなのだが、きっと見つかると確信すらしていた。



 

 だが、そんなシエルの思いに相反して、そう簡単に行方不明の懐中時計を見つけることはできなかった。シエル、アネット、老婆の三名体制で捜索を開始してから二時間以上が流れている。先ほどまで蒼快だった空にもオレンジ色が滲み出て、夕刻をじわりじわりと告げ始める。捜索者それぞれの顔には疲れの色がうっすらと表れ始めていた。


「だいぶ遅くなってしまったね、もういいですよ。手伝ってくれて本当にありがとう」


 溜まった拾うからか、探し物を見つけることが出来ない無念さからか、夕日で照らされた老婆の顔は暗く陰っている。


「しかし、まだ探し物は……」


 力になると約束したアネットも、それを果たすことが出来ていないために食いつくが、抵抗の言葉を終える前に老婆がそれを遮った。


「本当にもう大丈夫ですから。これ以上騎士様とお嬢さんに迷惑をかけるわけにはいかないよ。それに、正直に言えばアレを無くしたとき、心のどこかで既に諦めがついていたのかもしれないしねぇ。踏ん切りをつけるには良い機会だったのかもしれないの」


 そういう老婆の悲しげな表情を見ながらシエルは感じていた。老婆にとってその懐中時計がどのようなものかは分からないが、とても大切な物である事。そして踏ん切りを付ける良い機会だったというのは本心から言っているのではない事。そう察すると胸の内がキュッと締め付けられるような切ない感覚に襲われる。


「あの、もう少しだけ探してみましょう。 とても大切なものなんですよね? 諦めるなんて……」


「でも……」


「私なら大丈夫ですから! もう少しだけお手伝いさせてください」


 そう言うとシエルは徐ろに、まだ探索していない方へと走り出した。自分がなぜここまで老婆のために頑張りたいのかはシエル自身でもよく分からない。でも、どうしても無くしものを見つけてあげたい。そんな思いからか、体は自然と動いていた。アネットも見つかるまで諦めないといった様子で、何も言わずにシエルと別方向へと歩き出す。


(お願い、見つかって)


 シエルの胸中では最初のきっとみつかるという思いとは一転して、祈りにも似た感情が澱んでいた。既に辺りからは夕焼け色すらも消えかけており、代わりにうっすらと闇夜を誘う黒色が顔を覗かせている。


 昼間はたくさんの人々で賑わっていたルオン広場に残る人影は三人の他には疎らとなっていた。


 いくら探しても探し物は見つからない。シエルの内心で焦りは高くなる一方であった。ショートボブの少女が苦しさに押しつぶされそうな程の重みを感じながら、消え入りそうなほど微かな希望で広場隅の木陰を覗いた。――その時である。表面に光が反射しないほど鈍銀色となった厚みのある円状の物体が、雑草の影に隠れてそっと地面に居座っていた。

 

 円状の一部にはフック状の物が備えられており、フックからは細く長い鎖が繋がれている。その内側には小さなツマミがあり、さらにそれらの対面に当たる円周状には小さな蝶番が備えられている。どうやら蓋状の部分が開閉する仕組みになっているようだ。


 それを手に取り、重みを感じた瞬間にシエルはそれが何なのかをすぐさま悟り、反射的に確認のために手探りで竜頭にあたる部分を指で軽く押し込む。するとそれはパカッっと小さな音をたてて、年代を感じさせないほどにスムーズに開き、中からは規則正しく円周に並べられた文字盤と大小様々な四本の針が姿を現した。自分の知っている時計とは少々異なってはいるが、これが老婆の探していた大切なものだと確信したシエルは考える間もなく声を上げていた。


「――あ、あった!! ありました!」


シエルのやや裏返り気味の喜声を聞き、噴水近くのベンチ周辺を捜索していたアネットと老婆が一斉に反応して振り返る。その視線の先には泥だらけの顔に満面の笑みを浮かべ、て、右手に持った銀円の物体を高く掲げながら駆け寄るシエルの姿があった。顔に映された屈託のないその笑顔は、シエルのいまの心境を単純に、そして正確に表している。


 シエルの表情と行動から状況を理解したアネットと老婆は、駆け寄るシエルを待つのももどかしく、彼女のもとへ足を動かす。互いに近づき合う両者が接近するのにそう時間はかからなかった。


 老婆の顔に滲み出ていた疲労感はすっかり消え失せ、信じられないと言わんばかりの驚きと、失せ物が見つかった安堵感が入り混じった表情を見せている。


 シエルは右手にしっかりと握り締めた、鎖で繋がれた円状の物体を眼前の老婆へと差し出した。元は綺麗な鏡面だったであろうそれは、いまでは光沢を失い夜光を反射することがないほどまでに表面は疲れきっている。しかし、そんな外面とは裏腹に、不思議と温もりを感じるような気がした。それはこの懐中時計が老婆にとってかけがえのない大切な品であるからであろう。


 顔も服も、差し出した腕さえも泥だらけになっているショートボブの少女が手にした懐中時計を老婆はゆっくりと手に取る。竜頭を指先で軽くノックすると、軽快な音を立てながら上蓋が可動し、文字盤が顔をのぞかせる。そして、蓋の中で変わらずに動いている四本の針を見たとき、老婆の目尻には透明色の涙滴がうっすらと姿を表していた。


「良かった……本当に良かった」


 手にした懐中時計を胸元でぐっと握り締め、震える声でそう呟いた老婆の瞳から寸でのところで塞き止められていた大粒の涙が一粒二粒とついにこぼれ落ちる。老婆はその感触を噛み締めるようにしばしの間、鈍銀色のそれを見つめる。


 やがて老婆は瞳に滲んだ涙をポケットから出したハンカチでそっと拭うとシエル、アネットへと向き直り、深々と頭を下げた。

 皆さん、こんばんわ、作者の村崎 芹夏です。

 

 予定はあくまでも予定である!


 実は今話で第一章を終わらせる予定でしたが、例によって書いてる最中にどんどん書き足しが増えて行きまして、もうちょっとだけこの章は続きます(笑)

 

 それと、書き足しと区切りの良さの関係で今回はちょっと短めとなっております。

 なんとか当初の計画通り一週間に一度の更新を意識しているのですが、どうにもきついですね(笑)

 

 もうじき年の瀬ということもあって忙しさが普段よりも格段にあがっておりますorz

 なんとか来週も更新出来るといいな……


 ってなわけでなんとか頑張りますっ!


 ではでは今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。


 また次回更新した際もよろしくお願いします。

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