私が神様の代行ですか!? Ⅰ
少女がゆっくりと瞼を開くと、いままで暗闇に閉ざされていた瞳にさんさんと輝く太陽の光が一斉に飛び込み目が眩んでしまいそうになるが、咄嗟に右手を持ち上げて、手の平で視界を庇い難を逃れる。
どのくらい経っただろうか。次第に視界が慣れてくると、持ち上げた手をゆっくりと降ろし、そしていま自分が立つ壮大な大地を、広々と映し出された景色を、白雲が泳ぐ蒼天の空をぐるっと見て周り思わず言葉を漏らす。
「すごい!」
表現方法としてはなんとも簡素で情報量が少ない言葉であるが、少女にはこれ以上にいまの自分の感じる言葉を的確に表現することは出来なかった。
少女が立っているのは、足首ほどまで背丈のある鮮やかな黄緑の植物で一面を覆われた小高い丘であった。他の場所と比べて標高が少し高いのか、この世界をある程度遠くまで見渡すことができる。
この美しい丘に渓谷の間から走る爽やかな一陣の風が駆け抜けると、地面を埋め尽くす植物の郡や小さく鮮やかな花々が一斉に緩やかなリズムで踊りだす。その光景はまさに今この大地に立つ新たなる者を歓迎するかのようであった。
思わず感嘆を漏らす少女の双眸に映る先、いくつもの小高い丘を越えた先、一方には何十メートルもの背丈がある巨大な木々が生い茂った深い森が、ある一方には蒼々とした水面が照りつける太陽の輝きを反射し、万華鏡のように映し出す湖畔。またある方には、周囲をぐるりと高い外壁に囲われ、その中には、たくさんの人工的建造物などが立ち並ぶ活気あふれた街が見える。
いま彼女の視界に映る範囲を徒歩で移動するとなった場合、相当な時間を要するであろう。それほどの規模で広がる平野なのである。この光景でさえ壮大でいてとてつもなく広大な景色であるのだが、これでもこの世界のほんの一部、何百分の一……下手したら何千分の一でしかないというのだから更に驚きである。
「綺麗な世界!」
少女の口から再び、ありきたりだが彼女にとっては最大限の感動を表す言葉が流れる。彼女の琥珀色の瞳は映る景色をめいっぱい吸い込み、更に輝きを増す。
降り注ぐ太陽の光を浴びて深みを増すダークブラウンのショートボブヘアー、ぱっちりと開かれた磨きこまれた宝石を思わせる琥珀色の瞳、すらっと通った鼻筋、うっすら雪化粧を施したかのように透き通るきめ細かい白肌、幼い面影を残した顔立ちのせいか綺麗というよりは可愛らしいという印象を受ける。
少女の名前は下川恵理……いや、今はシエルと呼ぶべきであろう。
突如、シエルの背後からのそりと少女がもう一人姿を現した。
「気に入ってもらえたかな? シエル」
キリッとしたサファイアのように碧く深い瞳は、横でこの世界に圧倒されている少女に向けられている。
歳はシエルと同い年か一つ程上のように見える。腰程まで伸びた、燃えるように鮮やかな紅色の髪を後頭部で黒いリボンを使い一つに纏めてる。
西洋の鎧に似たデザインの防具を纏っているが、胸部には装甲は付いておらず、下地の白い布越しに彼女の豊かに育った胸が強調されている。大腿部に至っては下地の布すらないため血色の良い素肌が丸見えになっており、見方によってはなんともセクシーな出で立ちである。
柔らかな布地の赤いミニスカートの上に重なる形で、腰に固定された前開きの鎧は、下地布の延長線上にふわりと広がり伸びている。機能面とデザイン性で言えば後者が強く推されている印象である。鎧は翼を意識して作られているのか、各所には邪魔にならない程度に翼を模した刻印や装飾が施されており、背部に纏った触り心地の良さそうな黒い上質な布地のマントには、真っ白な双翼の中心に一本の西洋剣が備えられた紋様が丁寧に刺繍されているのが、吹き抜ける風で靡くポニーテールから垣間見ることが出来る。
紅髪の彼女は騎士のような身なりだが、イメージとしては鎧と対になる剣や槍といった武器の類は携帯していないようだ。
「改めて自己紹介をしよう。私の名前はアネット。この世界、センスティアで神に仕える騎士をやっている」
「あっ、はい。私の名前は下川恵理……あっ、ここではシエルです! 元の世界では高校生をやっていました!」
アネットと名乗った騎士の少女は、あたふたと照れながら自己紹介をするシエルの仕草を見て思わずクスリッと笑みをこぼしながらも話を続けた。
「突然の頼みだったにも関わらず快諾してくれて感謝している」
アネットの声は外見年齢にはそぐわぬ程凛々しく覇気があり、それでいて落ち着いたものであった。シエルが相対的に高めの可愛らしい声であるため、それがより一層目立つ。
「い、いえ。私なんかがお役に立てるか分かりませんが……がんばります! それで私は一体なにをやれば」
「おっと、すまない。あまりゆっくりしている時間はなさそうだ。話は街に着いてからにしよう」
シエルの言葉が終わらないうちに、騎士の少女アネットがそれを遮る形で矢継ぎ早に言葉を続けた。どこか急いでいる様子である。
「街ってあそこにに見えるあれですか?」
二人の少女が立つ小高い丘から小さく見える、外壁にぐるりと覆われた街を指差しながらシエルは驚いたように尋ねた。自分の言葉が遮られたことに関しては、全く気にしていない様子である。
シエルの目線の先に映る街並みは、見晴らしの良い高所から眺めても、辛うじて街を囲う外壁と敷地の中心部に周囲の建物よりも一際大きく立派そうな建造物が鎮座しているのが見える程度だ。数多に散らばっているように見える小さな黒点が、恐らく民家や商店だろうが、こちらからは判別することができない。徒歩で向かったら到着までに一体何時間かかってしまうだろうか。この丘からはそれほど距離があるように見えた。
「そうだ。あそこがセンスティアで最も大きく、最も人が集まり、最も栄えている街、フィンガローだ」
こんばんわ 作者の村崎 芹夏です。 以前よりちょっとお話していましたが、レーベル応募用に急いで新筆した作品です。(とは言ってもまだ序章すら書き終わってないという・・・こりゃ締め切りまでに間に合わないですなorz)
クルーエルラボとは打って変わって正当?ファンタジー作品。
これからはクルーエルラボと代行神、両立で更新していきたいと思ってますが、180°作風の違う小説を同時に書けるのか自分でも分からないです(笑)
(とはいえ、今のところあくまでもクルーエルラボを主軸にしたいと考えてますので更新割合は8:2くらいになりそうな)
そんなこんなでこちらの更新は不定期で期間もだいぶ空きそうですが、よろしくお願いします。
ではでは読んでくださった方々、ありがとうございます。
また次回投稿した際にはよろしくお願い致します。