護衛隊長と姫様
「っ!!ナディ!」
「……え?」
叫んだ後には遅かった。
ナディは敵国の兵士に怪我を負わされた。
たった一瞬、俺が目を離した瞬間だった。
味方の兵士に呼ばれ俺がナディ……もとい、ナディ姫の側から離れた瞬間の出来事。
迂闊だった…。
俺一人で行くのではなく、ナディ姫も一緒に連れていけばよかったと……今になって後悔している。
「……ブラッド隊長」
声が聞こえて、顔をあげれば医務長が少し眉間にシワを寄せて俺の前に立っていた。
ちなみに、ブラッドは俺の名前で隊長は護衛隊の階級だ。
「やっと…気付いたな」
「……医務長、ナディは?ナディ姫は?」
「大丈夫だ。一命は取り留めた。今は、眠ってらっしゃるよ」
「………そうか」
俺は立ち上がり、ナディ姫がいる部屋に入ろうとすると医務長に呼び止められた。
「……なんだ?」
「……お前のせいではない。あの状況では、仕方なかった……」
あまり気を落とすなよ、と言い残し医務長は、その場を後にした。
部屋に入れば、薬剤の匂いが鼻にツーンとしみた。
「ナディ…」
部屋の主であるナディの名前を呼んだ。
返事がないのは分かっているが、名前を呼びたくて仕方がなかった。
「…ナディ…」
寝ているナディを見つけるとナディの側へと近づいた。
「……ナディ」
ナディの額には包帯が巻かれていて頬にはガーゼが…、とても痛々しくて見ていられなかった。
「……すまない」
眠っているナディに謝ると脳裏にナディから言われたことを思いだす。
『護衛隊で一番強いのは貴方なんですって!』
脳裏に写ったのは無邪気に語りかけてくるナディの姿。
『さすが、私の護衛隊長!』
「……ナディ。俺は……俺は、君が想ってる程、強くない…」
ナディの頬を触り目覚めるように祈り続けた。