表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
垣根の上のキミ  作者: 霧島遠夜
コロムの街、トラブル発生
6/11

5話:犯行の原因

軽いグロ表現があります。

また先端恐怖症の方はご注意ください。

 このままの体制は疲れるので、

『ウレ・アマクト』

 風の鎖で拘束しなおして完了。とりあえずお兄さんを床に座らせる。

「安眠妨害で訴えるよ、まったく。しかも何か勘違いっぽい気配がぷんぷんするし。傭兵ってそんな単細胞でできるの?キャラバンの人もこんな護衛じゃかわいそうね」

 言ってるうちに腹が立ってきて、途中からすごく嫌みっぽくなってしまった。本物より言葉のナイフの方が扱いやすい。

 わたしがぶつくさ言っていると、リュウがもう一人の下手人を連れてきてくれた。

 震えながら部屋に入ってくる人物を椅子に座るよううながす。拘束の必要はないだろう。

 リュウが安心させるように微笑む。

「料理すごく美味しかったですよリンテルさん。でも、眠り薬のスパイス、ぼくはあまり好きな味じゃありませんでした」

 言われてびくりと縮こまるのは宿屋の看板娘リンテルちゃんだ。リュウより少し年上らしく、深い紺色の髪と目が印象的な大人しい系の美人だが、その目は涙でいっぱいになっている。

「リュウ、あんまりいじめすぎないで」

「前から思ってたんですけど、ルハナンさんって美形にだけ態度違いませんか?」

「当たり前でしょ」

 差別するわけじゃないけど、かわいい顔でうるうるされると、ね。不満気なリュウだが、キミもわたしの中では美形扱いなのだよ?

 だからといって許すかというと、それは別問題だ。

 先ほどのナイフ(本物のほうだ)の切っ先を、今度はリンテルちゃんの目に突き付ける。

「やろうとしたら、やられても文句ないよね?」

「ひっ……ご、ごめんなさいっ」

「それはこちらのセリフだ!お前たちは弟を殺しにきたのだろうが!リンテルに手をだすな!」

 だから何を勘違いしているのか。説明するまえに訳も分からず怒鳴られると、ますます腹が立ってしまう。

 風の鎖の位置をちょっとずらして、お兄さんの口をふさいだ。

「少し黙ってて。先に言っておくけど、名前も知らないお兄さんの弟なんて知らない。だれかを殺しにきたわけでもない。修行の旅でここを通ったら、眠り薬を盛られるわ、寝込みを襲われるわ」

「ちなみに、ぼく解毒剤持ってます」

「ちなみに、わたし毒効きにくいから。師匠に鍛えられててさ」

 いえーい毒効かなーい。リュウと目線をあわせてハイタッチ。

 軽すぎるノリにお兄さんは身体をぷるぷる震わせている。

 もちろん挑発したのだが、リュウも鬼畜だな。

 魔術師を倒そうと思ったら、まず指と口を狙うのが定石だ。傭兵のお兄さんがそれを知らないはずもない。眠り薬が効いていると思ったからこそ、いきなり急所を狙ってきたのだろう。なぜリュウが解毒剤を持っているのかは知らないけど。

「で、説明してくれる?くれないなら、ぐさっといっちゃうよ?」

 白状しやすそうなリンテルちゃんに頼んだ。

「は、はい……。私とロトスさんは、キリハくんが大事なんですっ、だから我慢できなくて」

「あー。人間関係明確に。ロトスってのはこのお兄さんで、その弟がキリハくん。で、弟のキリハくんって確かこの街の魔術師。合ってる?」

「そうです……」

 このお兄さん――もとい、ロトスはこの街の人だったのか。この街唯一の魔術師はたしか、

「キリハくんは、半年前から伏せってるって聞いたけど、なんかやらかしてたの?」

 殺されると思い込むほど、やっかいなことでも引き起こしたのか。

 聞くとリンテルちゃんはいよいよ泣きだした。首を横に振るたびに、涙が散る。そういえば、リンテルちゃんはキリハくんの花嫁って……。

「いいえ……!優しい人です!どうしてキリハくんが、こんな風になったのか、分からないんですっ」

「こんな風って?キリハくんは今どうしてるの?」

「……宿の地下室に……閉じ込めてます……」

「いい人だけど、理由があって、宿に閉じ込めてる。殺される可能性がある。うーん、ごめん、はっきり言っちゃってくれない?」

 考えてもよくわからない。勿体つけずに、さくさく教えてほしい。

 リュウが隣で青ざめ、まさかとつぶやいた。

「あの病気の再発ですか?」

「違います!彼は、優しいままですっ。キリハくんのままですっ」

 興奮してリンテルちゃんが泣きわめく。激しい否定は肯定だ。これ以上聞きだすことはできないし、その必要もない。

 ロトスの風の鎖を口と足だけ解いてやる。

 攻撃されたわけでもないのに、ロトスは痛みを堪えるような顔で、黙っている。

 一昨日と今日と、なぜこんなに遭遇してしまうのか。ブームなんですか。

 20年前まで、とある病気が魔力ある人々だけを襲っていた。

「地下室に案内して」

「……頼む、殺さないでくれ。あいつしか家族はいないんだ!」

「聞いちゃったからには、放っておくわけにはいかんでしょうが」

 ロトスが襲って来なければ、わたしだって何事もなくこの街を旅立ったのに。知りたくなかったよ。殺したくないよ。でもそれは、誰のためにもならない。

「キリハくん――いや、元キリハくんの魔物の居場所を教えて。……手伝えとは言わないから」

 20年前まで、魔力ある人が魔物に変わる病気があった。魔物は無差別に人を襲った。襲われた人に家族が多かったのは、一番近くにいたせいだった。

 家族では魔物を殺せない。友人でも恋人でも知り合いでも殺せないだろう。だから、元の人物を知らない通りすがりが一番いい――わたしたちのような。


***


 地下室というか地下にある物置が正しい。

 なんとか鍵を受け取って、カウンターの奥の階段から地下へ入ると、一室だけ扉が頑丈に作られた部屋があった。

 そんな都合のいい部屋があるのかと聞いたら、20年前まで同じ理由で使っていたそうだ。魔物になってしまった人を殺せず、閉じ込めておくための場所。そんな曰くのある場所だから宿の主人も普段は開けないらしい。

 扉の前で、リュウと2人、息を整える。残る2人は置いてきた。

「空けるよ」

 鍵をはずし、やたらと重い扉を押した。

 月のささない地下の部屋は真っ暗で、リュウのもつ灯りがなければ、指先すら見えない。

 こつこつと靴音が響くと、奥から低いうなり声があがった。

 目を凝らすと、影が見える。

 後ろでリュウが内から扉をしめた。万が一にも外に出してはいけない。

「があああ……」

 標的をわたしに向けるため、あえて大きな足音を立てて近づく。

 ゆらりと身を起こす影はよく見えないが、赤いピアスは闇の中でも輝いていた。キリハの魔術師の証明であるピアスだ。

「こんにちは、キリハくん」  

「ぎぃいいい……」

「ルハナンさん、無駄です」

「わかってる。でもね、挨拶は人の礼儀。礼儀くらいは、払う……来るよ!」

 イノシシよろしく真正面に突っ込んでくる影から、2人左右に逃れる。速い。

 わたしに狙いをさだめてくる、ランプに照らされたその姿は、

「ゴブリン……?」

 絵本に出てくる悪鬼に似ている。人には見えない。頭ばかり大きく、手足がほそく短い。深緑色のぬらりとした身体。目がある場所は、窪んでいて何もない。尖った耳についているピアスが非常に浮いている。

 一昨日の魔物とは全く違う出で立ちだ。これがキリハくんの成れの果て。

『エテサローク』

 パキンと音がし、ゴブリンの足から氷が覆い始め、体全体にも及ぶ――前に、相手からも空間を割る音がした。

「魔術――いや魔法!?」

 ゴブリンの指先から紫の霧がでる。それがゴブリンの足に届くと氷が溶けた。相手の魔術を無効化する闇魔法。

 精霊や大陸神の力を借りて行う人間の魔術とはちがい、魔物や魔獣は、自らの力で不可思議な現象を起こす。それが魔法であり、呪文も詠唱もいらない。魔獣は半精霊の存在であり、自分の属性の魔法を使う。魔物はどの魔物でも闇魔法だが、その効果は

「反則的だよなあ」

 つぶやきながらも、ステップを踏んで後退した。目の前でゴブリンの長い爪が空を切るが、

「ちっ」

 狭い地下室。背中が壁につくのを感じた。次は避けられない。

 両手で2つ防御魔術を描いてもいいが、描く動作と詠唱があるため相手より発動が遅い。最速の防御魔術でも次を発動するまでに、無効化されるだろう。

 ならば片手で攻撃魔術、片手で防御魔術か。どちらを無効化されるかは賭けになる。発動した瞬間に、わきに逃げられればいいが。

 一瞬で思考を回転させ、1撃くらう覚悟を決めながら、指先をかざす。

「ルハナンさん!」

 呼ばれて顔をむけると、リュウが白い紙を投げたのが見えた。こんな状況でも笑ってしまう、ちょっといびつな魔術陣。

『エタトニフ!オガコネザク!ウルーエボヌジム!エバコニット!イオーネザクッ』

 火の盾、風の籠、水のベール、土の壁。4属性防御魔術+攻撃吸収魔術。魔術師の十八番は、早口言葉だ。

 魔物に4属性防御は効かないが、無効化させる数を増やせる。時間稼ぎだ。

 魔術陣を唱えながらも、両指先は次の攻撃魔術を完成させた。

 ゴブリンも素早く、最初の火の盾を無効化されるが、わたしの方は、後は唱えるだけだ。

『アビアヨネザク、エテサローク』

「ぎぃがぁぁあ!!!」

 2つ目の風の籠が無効化されると同時に、風の刃で紫の霧が出ている両指を落とし、右手だけを凍らせる。

 まだ終わらない。

『エテサローク、エテサローク』

 左手、右足が凍りつき、

『エテサローク、エテサロークッ』

 左足と頭が凍る。

 仕上げは、

『二ミウス・オティエル!!!』

 五体を氷らせて始めて使える大魔術、冷凍睡眠。

 ひときわ大きく空間を割る音と同時に、ゴブリン全体が氷の中に閉じ込められる。オブジェの完成だ。

 わたしは壁にもたれて、ようやく深呼吸できた。早口はいいけれど、息を吸う暇がなくて軽く酸欠。

「ルハナンさんは、やっぱり優しいですね」

 褒めているのか、甘いとたしなめているのか。

 リュウのほっとしつつも複雑な表情を見ると、その両方だと思う。修羅場慣れしており、解毒剤を持ち歩く。リュウはどれだけ甘くない環境で生きてきたのだろう。 

「後味が悪いのは嫌なんだ」

 ぽんぽんと、ゴブリン入りオブジェを叩いて答えた。

 見た目はただの凍り魔術と同じだが、中身がちがう。魔術を施した人間が解かない限り、ゴブリンはそのままの状態で眠りつづける。老いることもなく――死ぬこともない。

 殺すのは簡単だった。2つ同時に攻撃魔術を放てばいい。攻撃力の高い火精霊なんてちょうどいいかもしれない。

 ぎごーっと音を立てて、重い扉が開いた。

 上の部屋にいるはずのロトスとリンテルが飛び込んでくる。足音がしなかったから、きっとずっと扉の外にいたのだろう。

「キリハくんは……?」

「氷漬け始めました」

「氷の中で眠っているだけです。生きていますよ。ルハナンさんが解かない限り眠り続けて――生き続けます」

 投げやりな説明にリュウが補足を加えてくれた。

「ありがとう。殺さないでくれて、ありがとう!」

 リンテルが氷オブジェに抱きついた。冷たくないのか。そして中身はゴブリンですが。

 愛とやらに呆れながら、ずるずると壁に背をつけて座りこむわたしを、ロトスが支えてくれる。

「大丈夫か」

「自分を殺そうとした人にそんなこと言われると複雑」

 まだ許したわけじゃないぞ。睨みつけると、真摯に頭を下げられた。

「すまなかった。魔物になったやつは殺せ。そう言われて、4つのときに両親が殺されたんだ。もちろん放っといたら、俺たちが死んだんだがな。だからどこからか弟のことがばれて、お前たちが殺しにきたんだと思った」

 あいつしか家族がいない、か。

「殺すべきだとわかっていた。傭兵やってりゃ人殺しなんてざらだ。俺の手で殺してやりたいと思ってた。今まで決心がつかなかったけどな」

 寂しげに笑って、わたしから離れ、オブジェへと向かう。

 手にはいつ取ってきたのか、長剣をたずさえて。

 

「もう戻れないなら、いまここで俺が楽にしてやるよキリハ」

わたしは先端恐怖症です。ビューラー持つ手が震えます。

ようやく火の魔術がでました。嫌ってたわけじゃないんですが、出すタイミングが難しいです。


お気に入り登録ありがとうございます!ご期待に添えるよう、精進してまいります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ