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垣根の上のキミ  作者: 霧島遠夜
コロムの街、トラブル発生
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4話:修行と穀物と

 馬車に揺られてすでに6時間、そろそろお尻が痛くなってきた。

 王都と家の間を毎度馬車で往復するわたしはまだ慣れている方だけれど、

「あと、何秒です、か、何秒で着き、ますか……?」

「秒どころか、4時間以上かかるってば」

 緑の瞳をうるませながら息絶え絶えに聞いてくるのは、ローブ型の修行服に身を包んだリュウである。ゼラハト大陸北端の小島、神殿出身のリュウにとっては馬車より船旅のほうが得意だろう。

 王都を出てから南西に進み馬車10時間程度で着くのは、穀物の大産地コロムの街だ。そこに一泊してから、さらに南下し数日かけて国境を目指す。せっかくなので、王都からコロム経由で国境まで旅するキャラバンの馬車に、護衛として格安で乗らせてもらっている。コロムの街付近は安全だが、国境付近では盗賊や魔獣の群が出るため、魔術師の護衛は重宝されるらしい。わたしは国境どころかコロムの街さえ行ったことがないけれど。

 残りの所要時間に蒼白になるリュウを眺めながら、

「はあ……。まあ初日から無理させても続かないか。今日は特別サービス」 

 空中に呪文を書き込み、唱える。

『イオーネザク』

 やわらかな風がわたしとリュウのお尻をつつむ。本当は、戦闘時の攻撃吸収魔術である。馬車の揺れ程度の衝撃に使うってちょっと斬新。

 リュウがほーっと満足気に息をついた。

「楽になったところで、せっかくだし修行の続きしてなさい」

 そう言って、魔術陣の描かれた紙と、荒くて安い紙、羽ペンを渡す。

 嫌がるかと思ったが、素直に一式受け取ると、昨日教えたとおりに取り組みだした。

 効き手ではない方で、魔術陣をえんえんと書き写す作業だ。

「それが、魔術の修行か。何をしてるんだ?」

 静観していた同じく護衛のお兄さんが話しかけてきた。魔術師ではなく、日ごろから傭兵なんかを生業としている強面の人物だ。一緒に風クッション魔術をかけようかとも思ったが、侮辱と受け取られても困るのでそのままにしていた。こういう人々は体力や身体にプライドがある。

「ちょうどいいや。リュウ、この修行の目的をあててごらん」

 説明してもいいのだが、自分で気づくことが重要。

 リュウは手を休めて顔をあげ、よどみなく答えた。

「両効きにして、どちらの腕でも魔術が発動できるようにする、ですか?」

「五割。もうひとつ」

「えっと……。あ、2つの腕で同時に呪文を発動させる?」

 正解だ。ふわふわの栗毛をがしがしとなでてやる。あ、ちょっと迷惑そう。

「呪文を言うのは1人で同時にはできないから、ほぼ同時発動、くらいだけどね」

 お兄さんが感心するようにうなづいた。

「面白いな。では、その魔術陣はなんだ?」

「腕は2本しかないから、1人で同時に発動できる魔術は2つまでになってしまいます。3つ以上発動させたいときは、あらかじめ魔術陣で呪文だけ描いておくんです」

 ちょっと嬉しそうなリュウが答えた。そう、そして発動したいときは読み上げるだけでいい便利なシロモノだ。

「ちなみにこれは、火、水、風、土すべての防御呪文を組み合わせて、完全防備をするための陣だよ」

 今の攻撃吸収魔術も入ってます。リュウは光魔術しか使えないから、わたしが使うためのものだ。護衛準備と部下の修行を一気にこなせる効率的なアイデアですよ。

「描きこまれてる内容が多いと、並みの魔術師じゃ使えないけどね。そうそう、リュウ。人の限界は2つ同時までじゃない」

「……え?でも」

「わたしの師匠は、両足の指でも呪文が描けたから4つが最大。あ、でも真似しなくていいから。あれは例外だからね」

 ちなみに足を使うときは、重心をかかとに乗せてちょっと間抜けなポーズだ。わたしは覚えたくもないから覚えなかった。そこまではしたくない。

「……魔術師は苦労するな」

「足はこのままでいいです」

 2人がそれぞれに苦笑していた。


***

 くあーっと目いっぱい背伸びして解放感に浸る。

 季節は初秋。カシと呼ばれる山吹色の穀物がたっぷり実をつけ、視界いっぱいに広がっている。コロムが黄金の街と呼ばれる所以だ。

 馬車は何事もなくコロムへ到着し、商売に走るキャラバンの方々や仲良くなったお兄さんと別れて宿屋へ向かった。

 入口にあるカウンターで談笑している客と街の人、看板娘が、物珍しそうにわたしたちを見た。

「まぁ、魔術師さまなんて久々に見たわ」

「若いのにたいしたもんだ」

「おお、ちょうどいい!お願いします、うちの水車見てください。最近とんと不調で」

 一人が言うと、うちもうちもとわらわら取り囲まれてしまった。

 こういった大きな街にはたいてい精霊魔術師が2,3人住み、街の整備や住人の頼み事をこなすはずなのだが。

 尋ねると、人々はそれぞれ溜息をついた。

「それがな……。うちには4人いたんだが、3人とも何年か前に魔術が使えなくなっちまって」

「今、多いっちゅうからねえ。なにが原因かわからねぇけども、精霊さまのお怒りでもかったんじゃねえか?」

「ロトスんとこの弟がまだ魔術師やってるが、病気で半年前から伏せっててなあ」

 無精ひげはやしたおじさんが言うと、看板娘が何ともいえない顔をしてうつむいた。

「おお、すまんなリンテル。いやなに、すぐ良くなるさ!」

「そうだよ、花嫁がそんな顔おしでない。あんないい子なんだ。大陸神さまも見放したりしないさ。」

 なんだか空気が重くなってしまったので、さっさと住民の頼みを引き受けた。こういう雑用も魔術師の役目であり、無視できない。

 ぎゃんぎゃんとありえない音を建てる水車を直し、温度が下がる竈の様子を見て、街中に出現した底なし沼を埋めた。どこの街でもよくあることばかりで、王都でもたまに師匠が同じように直していた。


 長旅アンド一日の働きを終え、ようやく宿にもどってぐったりするわたしを、リュウがせっせと介抱してくれた。リュウはずっと部屋で修行していたのだ。

「夕食は食べられそうですか?さっきリンテルさんが持ってきてくれたんですけど」

「食べる!」

 大産地だけあってここのカシ料理は評判だ。このためにコロム経由のキャラバンに乗ったと言っても過言ではない。

 リュウが目をまるくするスピードで平らげ、満腹になると眠たくなってきた。

「たいへんおいしゅうございました……。満足~。おやすみなさーい」

 そのままベッドにパタリと倒れてると、またもやせっせとリュウが毛布をかけてくれた。

 


 夜半。

 隣りのベッドで、すぅすぅと子供らしい寝息を立てるリュウを眺める。割合夜目はきくほうなのだ。

 寝た振りをしながら、待つ。

 あと3歩、あと2歩。1歩。

 頭上できらりと銀が光る。

「こんばんは、お兄さん」

 声をかけながら、ナイフが振り下ろされる前に相手の腕をつかみ、手刀でナイフを叩き落とす。そのまま腕をひねり、床に押し付けてやった。

 完全に侵入者を拘束したところで、リュウがランプを灯した。

「ごめんね、実は体術も得意なんだー」

 あくまで朗らかに声をかけるが、馬車で仲良くなった傭兵のお兄さんは、まだ暴れようとする。

「しょうがないなぁ。リュウ、あれ」

 長年連れ添った夫婦よろしく、指示語だけでナイフ手渡してくれる。うん、よろしい。

 ぴたりとお兄さんの首筋に添えてやると、さすがに大人しくなった。

「なんでこう連日厄介事が起こるかなあ。なんか憑いてる?」

 お兄さんに尋ねると、

「弟を殺しに来たやつが、呑気なことをっ」

 強面で睨みつけられた。うーん、話が見えない。

便利な小間使いになりつつあるリュウ。一家に一台あると便利です。

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