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垣根の上のキミ  作者: 霧島遠夜
王都、魔女の故郷
3/11

2話:初バトル

スプラッタはありませんが、軽くグロい表現があります。苦手な人はお戻りください。

 ガラス片がきらきらと舞いながら降り注いでくる。

 ぽかんと口を開けて見上げている少年のふっくりした頬に触れる。

 ―――直前、

『ウープネス!!!』

 わたしの指と口が勝手に動いた。パキンという音と同時にわたしとリュウの真ん中から強い風が起こり、ガラス片は全て弾きとぶ。


「リュウ、廊下へ!」

 鋭く名前を呼ばれ、リュウはようやくはっと駈け出した。見送りながらその横で今度は集中して呪文を描く。

『ウレ・アマクト』

 指先から放たれた風が5本の鎖になり窓から侵入した5つの影を縛り上げる。影たちは各々鎖をかわそうと横へ跳ぶが、風は追尾機能万全。加えて、風精霊は発動が速い。

 縛り上げられ、芋虫よろしくぼとぼとと床に落ちた影を確認してようやく息を吐いた。侵入派手だけど弱いなあ。

 そっと影に近付き、敵を確認する。

「……うげえ、なにこれ。人……じゃあないよね。」

 手足を体にくっつけるようにして縛られた影は、まぎれもなく人型をしている。けれど、影なのだ。顔もなく体つきもない。出来の悪い黒い粘土人形が動いている。窓を突き破ったのに、体にはなんの損傷もないようだ。まだ戦意はあるのか、鎖を解こうと床でびちびちとのたうち続ける。

 ホラーか、ホラーなのか。魔獣や強盗も怖いけれど、これはもっと嫌だ。なんというか、気味が悪い。夢に出そう。 

 びちびち。びちびちびち。びちびちびちびち……

 思わずじっと観察しながら固まっていると、ぱたぱたと軽い足音が戻ってきた。音がしなくなったのに気付いたのだろう。

「ルハナンさんっ、どうなり……うっわー……」

「うわーとしか言えないよねえ、やだよねえ、これ。しまった、切り刻むべきだった。のたうっているよりマシだよ。よし、さばこうか」

 風の真空攻撃をしようと伸ばした指先を、リュウが軽く押しとどめる。

「落ち着いてください、中身が出たらもっとトラウマです。外に屋根から吊るしておきましょう」

 落ち着いてというわりには、リュウも言動がおかしくなっている。

「いやだ、ご近所さんに悪趣味だって言われるじゃない。吊るしたって明日晴れにもならないよ」

「では、埋めましょう。地精霊に頼んでください」

「這い上がってきたらいやだーっ」

 それだと芋虫というよりミミズのようだ。

「では、凍らせて埋めましょう。水精霊でできますよね」

 涙目でこくこくうなずいて賛成する。ナイスだ、リュウ。


『エテサローク』

 ぱきん、と五体氷結。ううう、うねっているそのままの形で凍ってる。

 なるべく見ないようにしながら、

『ウォシアム』

 埋葬。床から土が盛り上がり、氷漬けを取り込んでずぶずぶと潜り、床も元通りに収まった。ひとまず完了。

「あーもう、何あれ、何っ。魔獣であんなのいないよねっ。魔獣なら師匠と倒したことあるもの!でもあれ人でもないし、なーにーあーれー!」

 ほっとしたせいか、我慢できずにひたすら叫んでしまう。叫んで発散してこの気持ち悪さが消えないだろうか。

 リュウが若干蒼白になりながら食堂から出るように促してくれた。この部屋2度と使いたくない。下にあれが埋まってると思いだしてしまう。


 自室で毛布にくるまり椅子の上にちぢこまって、ようやく落ち着いた。魔術師らしく本が床に積み上がっては崩れ、怪しい小瓶やら薬草がそこかしこに置いてあるから触ると危険だ。

 リュウはここも不気味だとつぶやきながら、ぐるりと部屋を見渡している。もしもし、聞えてますよ。

「ところでリュウよ。キミは冷静だったねえ。修羅場でも経験してきたのかい」

「……そうですか?本当は悲鳴をあげる余裕もなかったんです」

 さらりとわたしの詮索をかわし、苦笑しながら厨房で入れなおしたお茶を手渡してくれた。やはりこの子は、気がきく。大人と会話をしている気分だ。

「パニックを起こされるより良かったよ。で、あれは何?知ってるよね」

 気味悪がってはいたけれど、得体が知れないとかわけがわからないという態度ではなかった。

 リュウも誤魔化せないとわかっているのか、小さくうなづいた。

「あれは、魔物です」

「まもの……」

「神話はご存じですよね」

「むかしむかーしのことじゃった。大陸の向こうには果てしなく大きい世界があったのじゃ。わし等の先祖さまの故郷じゃったが、相次ぐ戦乱によってこの地へ逃げてきた。しかしこの地は、戦乱よりひどい魔物の住む荒れ地。人が住めるはずもないが、もはや帰る場所もない。人々はこの大陸の神に祈った。どうか助けてくれろ、と」

「そこまででいいですけど……えっと、おばあさんの真似、お上手ですね」

「ほめてる?」

「ともかく、その魔物です。太古に存在したというあれ。最近復活して、20年前に再び滅ぼされたはずですけど」

 なるほど、17歳のわたし見たことがないはずだ。けれど20年前の事件を知らない人はこの大陸にはいない。会ったことのない母も、3軒隣の肉屋のクレイズさんのお嬢さんも、パン屋の見習いくんも、たぶんリュウも被害者なのだから。

「あー。20年前の一連の事件のね。なんでそんなものが今更、とか言ってもわからないか。前はどこで見たの?」

「神殿に保管されていた標本です」

 あれを標本に……神殿ってすごい。うちの師匠が毛嫌いしててごめんなさい。

「うちを襲撃した理由は、わかる?」

「……たまたま、ではないです。世間から魔術が消えかかっている中で、この家にルハナンさんとぼくの大きな魔力を感じたんじゃないでしょうか」

 うん、地味に自慢してるけど、まあ確かにリュウの魔力は大きいからいいや。

「そっか。じゃあ逆に旅にでるのは良かったかもね。このままだとまた出そうだし」

「はい。次は最初から氷結でお願いします」

 リュウが今日見せた中で一番真剣な顔でそうつぶやいた。



 その後明日に備えてすぐに眠りについたけれど、やっぱり夢にあれが出てきた。

 毎日出てきたらどうしよう。寝言で魔術放っちゃうかも。気をつけよう。

 リュウに当てたら一大事だから。


 


軽いグロっていうか……。元ネタは百足です。殺虫剤かけたらしばらくうねって息絶えました。トラウマです。

呪文はちゃんと考えてつくってますが、覚えてはいません。同じの使うとき間違えそう。

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