婚約破棄、ありがとうございます!妃教育から解放された令嬢は自由な人生を謳歌します!〜悪女として追放された令嬢、身につけた社交術で事業を始めたら王宮から戻ってきてくれと頼まれました!?〜
「アデライン・ロックウェル! 貴様との婚約は、本日をもって破棄する!」
婚約者だったジュリアン殿下がそう宣言した日、わたくしは証拠もない悪女疑惑を理由に、公衆の面前で断罪された。
「あら、随分と唐突ですこと。ですが、まあ......よろしいですわ」
あっさりと受け入れるわたくしに、会場は拍子抜けした空気に包まれた。反論もせず、涙も見せないわたくしの様子に、ジュリアン殿下の方が戸惑っているようだった。
「お、おい.....! 何か言うことはないのか.....!?」
「特にございませんわ? それより殿下.......これで晴れて、わたくしはあの忌々しい妃教育から解放されるということですわよね」
「そ、そうだが……忌々しいとはーー」
「それは重畳ですこと。長年の窮屈な日々に、ようやく終止符が打てますもの」
「お、お前、悔しくないのか........!? 悪女呼ばわりされて、婚約まで破棄されて......!」
「ふふ、悔しさより解放感の方が勝っておりますわ。それに、殿下がこれから証拠もなく人を裁くたびに、周囲の信用を失っていくことを思えば、むしろわたくしの方が楽な立場ですもの」
にこやかな笑顔で言い放つと、殿下は完全に言葉を失った様子で立ち尽くしていた。断罪されて喜ぶ令嬢など、想定していなかったのだろう。
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自由の身となったわたくしが最初にしたことは、これまで妃教育で叩き込まれた知識を、そのまま事業に転用することだった。
「――『ロックウェル社交コンサルティング』......開業いたしますわ!」
「お嬢様.......それは一体どのような商売なのですか.......?」
侍女あがりのメイドが不思議そうに尋ねてくる。
「あら、簡単なことですわ。マナー、交渉術、自己演出の技術。妃教育で叩き込まれた知識の数々を、貴族令嬢たちに指南する事業ですの」
「な、なるほど……それにしても、随分と思い切ったことを.......」
「あら、これまで散々押し付けられてきた知識ですもの。有効活用しない手はございませんわ」
「ですが、お嬢様........そのような知識、無償でお教えを乞う方も多いのでは?」
「あら、それは困りますわね。ですから、しっかり対価をいただくことにしておりますの。無料相談は一切お断りですわ!!」
きっぱりと告げるわたくしに、メイドは苦笑しながらも納得したように頷いた。
開業からわずか数週間で、事業は瞬く間に評判を呼んだ。
「アデライン先生のおかげで、先日の夜会、随分と評判が良かったんですの!」
「あら、それは何よりですわ。次はもう少し高度な交渉術も、お教えいたしましょうか」
嬉々として通ってくる生徒たちの様子に、わたくしは商売としての手応えを確かに感じ始めていた。
「先生、実は縁談相手との会話が続かなくて悩んでおりますの......」
「あら、それは簡単な話ですわ。相手の趣味を三つ、事前に調べておくこと。会話が途切れたら、その話題を順次、振ればよろしいですの」
「ま、まあ......! そんな単純なことでよろしいのですか......!?」
「単純なことほど、誰もやっていないものですのよ。妃教育の真髄は、実は地味な下準備の積み重ねですわ!!」
得意げに語るわたくしに、生徒たちは感心したように何度も頷いていた。この調子でいけば、そう遠くないうちに、王都で一番の社交指南所になれそうである。
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「アデライン嬢........噂は伺っております。実に興味深い商売をなさっているとか」
そう声をかけてきたのは、大商会を営む青年実業家、ドミニク様だった。
「あら、ドミニク様。お噂はこちらも伺っておりますわ。随分と手広く事業を展開なさっているとか」
「ええ。よろしければ、あなたの事業に出資させていただけないかと」
「あら、随分と気前がよろしいのね。何か下心がおありですの?」
からかうように問いかけると、ドミニク様は柔らかく笑った。
「........流石、誤魔化しは通用しませんか。正直にお話しいたしますと、下心がないとは言いません。ですが、百パーセント下心というわけでもありません。あなたの手腕に純粋に惹かれておりますので」
飾らない言葉に、わたくしは思わず頬が緩むのを感じた。妃教育で学んだ“殿方の言葉の裏を読む技術」”もってしても、彼の言葉には嘘の気配がなかった。
きっと、彼自身が率直に感じた
ーー“純粋な本意”なのだろう。
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そんな順調な日々を送っていたある日、思いがけない来訪者が現れた。
「アデライン.......頼む.......!! 王宮に戻ってきてくれないか.......!!」
現れたのは、あろうことかジュリアン殿下だった。以前の威厳ある様子は見る影もなく、随分とやつれている。
「あら殿下.......随分と急なお話ですこと。理由をお伺いしても?」
「そ、その……お前がいなくなってから、令嬢たちの社交の場での対応に、ことごとく支障が出ていて……」
「ふふ、そういうことでしたのね。それは、まあ....ご愁傷様ですこと。ですが、わたくし.......あいにく妃教育に戻るつもりはございませんの」
「し、しかし......!! 国のためだと思って――」
「国のためと仰るなら、なぜ最初にわたくしを証拠もなく切り捨てたのかしら? 順序が随分と逆さまですわね」
淡々とした指摘に、殿下は言葉を失った。
「先日の外交晩餐会でも、随分と粗相が続いたと伺っておりますわ。給仕の順序を間違えたり、他国の使者への挨拶を誤ったり」
「な、なぜそんなことまで知っている……!?」
「あら、社交界の噂というものは、随分と足が早いものですのよ。もっとも、わたくしの生徒たちからの報告も、多分に含まれておりますけれど」
したり顔で告げるわたくしに、殿下はますます顔を青くしていた。
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「殿下、これ以上の無心は、こちらの営業妨害になりかねませんわね」
「そ、それは……!」
「わたくし、今の暮らしにとても満足しておりますの。窮屈な妃教育よりも、自分の力で切り開く人生の方が、よほど性に合っておりますもの」
きっぱりと拒絶するわたくしの隣に、いつの間にかドミニク様が歩み寄っていた。
「殿下、アデライン嬢の意思は明確なようです。これ以上の説得は、時間の無駄ではありませんか?」
「あなたは、一体……」
「彼女の事業の出資者であり、これからの“伴走者”になりたいと思っている者です」
さらりと告げるドミニク様に、殿下はがっくりと肩を落とし、逃げるように去っていった。
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「――随分と、大胆な発言でしたのね?」
殿下の背中を見送りながら、わたくしはドミニク様にそう声をかけた。
「事実を申し上げただけです。それとも、伴走者という表現は、お気に召しませんでしたか」
「いいえ、悪くございませんわ。むしろ......」
「......むしろ?」
「もう少し、その伴走とやらを長く続けていただきたいくらいですわ」
「ふふ、そうですか.......それは、光栄な申し出ですね。ですが、一つ確認させてください。その申し出は、事業のパートナーとしてか、それとも――」
「あら、随分と欲張りな確認ですことね?」
「欲張りついでに、はっきりお答えいただけると助かりますが」
からかうように返すドミニク様に、わたくしは少し考えてから答えた。
「――両方、ということでどうかしら......? 仕事も、それ以外も、長くお付き合いいただければ」
「それは、願ってもない返事です」
にっこりと微笑むわたくしに、ドミニク様はとうとう声を立てて笑った。妃教育から解放された先で見つけた新しい人生は、こうして、思いがけず心地よい方向へと転がっていくようだった。
「――さて、次はどのような依頼が舞い込みますかしら?」
素敵な伴侶の隣にたちながらも、不敵な笑みを浮かべるわたくしを、夕暮れの光が優しく照らしていた。
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それでは、また次のお話でお会いしましょう!




