あるエルフに恋をした。
若い頃。
私は森で出会ったあるエルフに恋をした。
森の中に住む雪のように白い肌を持つ一人の青年。
一目惚れだった。
どうしようもなく心が彼に縫い付けられたようだった。
故にこそ何度も足しげく通ったものだ。
「私の伴侶となってほしい」
「断る」
が、あっさりと振られてしまう。
「そもそも年齢が離れすぎている。見た目こそ君とそう変わらないが、実際の年齢は五百年を超えているんだ。そんな爺さんと一緒に生きるつもりか?」
「年齢は関係ないと思う」
「あるさ。年寄りを捕まえて何の冗談だい」
しかし、私は食い下がる。
「私は恋をしてしまったんだ。だからあなたも私に恋をしてほしい」
「君は自分の数十分の一しか生きない命に恋を出来るか?」
「出来る」
「出来ないさ。深く関われば関わるほどそのあまりにも短い寿命に心を折られるのだから」
「ならば、君が恋をした時に私の伴侶となってほしい」
「するはずがないだろう――」
呆れるエルフのうんざりとした言葉を許可と受け取った私は生涯を最愛の存在へ捧げた。
とはいえ、エルフの言い分は正しい。
こちらが老いていくにも関わらず、相手ときたら出会ったばかりのまんまだ。
「私が死んだら悲しい?」
中年になったある時に尋ねるとエルフは答えた。
「寂しいと言うより面倒だ。もう君は私の大体全てを知っているから」
「数十年で知られてしまうほどに薄っぺらい人生を歩んでいたのか?」
「皮肉を言ってくれる相手も私には居なかったからね」
不思議なものだ。
あれほど愛したのだから愛されたいと思っていたのに、歳を重ねる度に愛されたいという気持ちが消失していく。
愛しているのだから十分だ……なんて考えてしまうほどに。
「まだ私に恋をしないかい」
「居心地の良さを恋と言うならばあるいは――」
老年となったある時にそう返されて、私はようやく自分が実に残酷なことをしようとしていたのだと気づいた。
かと言って姿を消すつもりにもなれず私は遂に命を失う瞬間が訪れた。
「すまなかったね」
「君らしくないな。どうしたんだい」
「恋に落としてしまった」
エルフはくすりと笑った。
それが今までに求めていた全ての形であるのを悟った。
「これだから短命の種は嫌いなんだ」
返す言葉もない。
「後悔しているだろう?」
私は頷く。
エルフは小さな指輪を取り出しながらいつもと変わらない穏やかな表情で告げた。
「年寄りの言うことは聞いておくもんさ」
言葉共に指輪をつけられる。
恋の成就の形としては最良で、愛の結末としては最悪のものだ。
「ごめん」
謝罪をする。
涙も流す。
しかし、エルフは普段通りに微笑むばかり。
「なに。気にすることはないさ――なにせ」
言葉が最後まで聞こえない。
聞こうとしたのに。
*
本当に久しぶりにエルフの下へとやってくる。
慣れた手つきで扉を開ける。
「おや、こんにちは」
相手は普段と同じく私を迎えた。
こちらは困惑したまま問いかける。
「これはどういうことだ?」
老齢で死んだはずの私は今も生きている。
――いや、老齢で死んだ私は確かに『死んでいた』はずだ。
今、ここに居るのはまだ四つになったばかりの『私』なのだから。
「長く生きていると色々と分かるもんさ。例えば転生する魂に前世の記憶を植え付ける呪いだとか」
そう言ってエルフは私から顔を逸らし、短く呟いた。
「年寄りをからかっても碌なことにならないもんさ」
幼い『私』は近づいてその顔を見る。
――いや、この身長では『覗き込む』と言った方が正しいか。
いずれにせよ、その雪のように白い顔はかつて見たことがないほどに赤く染まっていた。




