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三顧の礼①

 光武帝による中華の再統一から二百年が経ち、天下は再び戦乱の世を迎えていた。

 後漢は外戚と宦官の専横に苦しんだ時代だった。宮廷内部で権力闘争が激化し、官僚制度が腐敗し、内政がおざなりになり、重税と過酷な労役により農民は貧窮に苦しんでいた。

 中原で黄巾の乱が勃発すると、農民蜂起は全国に広まった。そして、黄巾の乱の討伐で名を挙げた英雄たちが巨大な軍閥へと成長し、次世代の覇権を争うようになる。

 河北では名門、袁氏の出身、袁紹を滅ぼした曹操が頭角を現し、江南では兵法書「孫子」を記したとされる孫武の末裔、孫権が勢力を伸ばしつつあった。

 そんな時代に、高毅は荊州に居を結んだある男の草廬にいた。


――諸葛亮、字は孔明。


 張良以来、ほぼ四百年振りに幽境に遊び、高毅と話が出来る男が現れた。

 高毅は狂喜した。

 この男の草廬に居座ると、砂漠でオアシスに出会い、喉を潤すかのように会話をした。孔明は晴耕雨読の生活を楽しんでいるかのように見せていたが、その実、


――然るべき人間に仕官をして、己の才覚を思う存分、発揮してみたい。


 と願っていた。その為に、自分を高く買ってくれる相手を待っていた。

「私があなたを張良殿のような名高い軍師にしてみせましょうぞ」と高毅が言うと、「それは心強い。留侯のように、名を竹帛に垂ることができれば、この上ない喜びです。しかし、一体、どのように?」と孔明が尋ねる。

「張良殿が劉邦より『(はかりごと)帷幄(いあく)の中に運らし、勝ちを千里の外に決す』と評されたことはご存じでしょう」

「これ、高毅殿、高祖とお呼びなさい」

「はは。私は劉邦と同時代の人間ですよ。まあ、良い。張良殿が『籌を帷幄の中に運らし、勝ちを千里の外に決す』ことができたのは、誰よりも早く敵の情報を知ることができたからです」

 高毅は張良の為に敵陣に侵入し、内情を探り、情報を取って来た。張良はその情報を生かし、まるで未来を見て来たかのような献言を劉邦に行っていたのだ。

「なるほど。彼を知り己を知れば百戦殆からずと孫子も申しております」

「そうです。私があなたの知りたいことを全てお教えしましょう」

 この頃には、高毅は物理的な距離に関係なく、ほとんど瞬時に行きたい場所に行けるようになっていた。

 こうして臥竜は雌伏の時を過ごしていた。

 そんなある日、孔明は細君の実家へ顔を出した。孔明には妻がいる。地元の名士の黄承彦の娘を娶っていた。悠々自適の生活だが、実家で年中行事が行われる時は孔明も欠かさず顔を出している。黄承彦の妻の姉は荊州を治める劉表だ。孔明の細君の実家は、この辺りの権力者だった。

 孔明が家を空けていた、この日、劉備という武将が孔明を訪ねて来た。劉表の元に身を寄せている客将の一人だ。何処からか孔明の噂を耳にし、会いに来た様子だった。だが、孔明が不在と聞いて、止む無く引き上げて行った。

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