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望月さんシリーズ

望月さんは好きな人の前で話ができない?!

作者: 宮坂 たきな
掲載日:2026/03/14

 今日のバイトは最悪だ。いや、普通の人なら嬉しいのかもしれない。

 まず、俺の大切な休日の朝にバイトが入っていること。ここまではいい。

 問題はこれからだ。

 そのバイトの相手が、望月さんってことだ。しかも二人きり。

 この間、彼女に好きって言われたけど、俺は本当だと信じていない。

 だって、あんなテンションの望月さんなんて見たことがないんだ。

 それに隠キャの俺に好意を抱くとは、地球が平らで天動説なくらいありえない。

 だから、「望月さんは酒に酔っていた」ということにしている。……彼女、未成年じゃね?


 とにかく、俺は今、先日届いたばかりの両替機を準備していた。

 一方、望月さんは開店準備をしている。とはいえ、ワンオペでする台数ではないのは確かだ。

 ここから見てもわかる。めちゃんこ忙しそうだ。

 これは手伝ったほうがいいな。

「望月さん、俺も手伝おうか?」

 案の定、望月さんは冷たく返す。

「いいです。私がやるので」

 全く、酷いもんだ。


 やることがなくなったので、俺は両替機を移動しようと押し始めた。

 いや、重い! まじで重い! 

 これ一人でやるもんじゃないだろ。キャスターがついているとはいえ、硬貨がぎっしり詰まっている機械は、運動不足の俺にとって些か厳しい。

 力一杯押していると、急に軽くなった。

 後ろからちらりと前を覗くと、望月さんの綺麗な白い手が角を掴んでいた。

「ありがとう、望月さん」

「……暇だったので」

 やっぱり根はいい子なんだよなぁ。なんで俺にだけ冷たいんだろう。

「望月さん、後ろのコード気をつけて」

「わかってます」


 その時、望月さんの踵がコードに引っかかった。

「あっ」

「危ない!」

 咄嗟に手を出し、手を握って望月さんを引っ張った。

 だけど俺は、望月さんの上に乗るような感じで一緒に倒れてしまった。

「大丈夫? 頭打ってない?」

 望月さんの顔を確認した。

 彼女の俺を見る目は、まるでゴミを見るような地獄みたいな目をしていた。

「どこも打ってません。ですので、早くどいてください」

 声が重い。

 俺はやっと理解した。今この状況、俺が押し倒しているみたいだ!

 誰かが来たら誤解される!

「ごめん! そういうつもりじゃないんだ!」

 必死に弁明したが、望月さんの俺の見る目は変わらない。

「知ってます。もう話しかけないでください」

 終わったな、俺の人生。

 その日のバイトは生きた心地がしなかった。

 まあいいさ。

 この世の女一人に嫌われたとしても、今日は合コンがある!

 そこで挽回すればいい、と思っていた時期が俺にもありました。


 中学の友人に連れて行かれた合コンに、なんと()()()()がいましたとさ。


* * *


 今日は最悪な日だと思っていたら、まさかの最高な日に!

 だってだって、先輩と二人きりでのバイト。それになんと、今日は先輩に押し倒されちゃいました。

 ……実際はつまづいた私を助けてくれただけだけど。それでも、先輩の手を握れたんだから、結果オーライね。

 だけどあの状況、あと少し長かったらまたオーバーヒートしてたかも。


 それで最悪な日とは、合コンがあること。

 最初は参加する気なんてなかったけど、押し通されて来てしまいました。フリーなのが悪いのかな。

 今日は好きなゲームのアップデート日だから、適当にあしらって帰ろう。

「こんにちは〜。春日井遥さんですか?」

「ええ、そうですよ。あなたは島野冬弥さんですよね」

「そうです。今日はお願いします」

 島野冬弥、確かにイケメンだけど、私のタイプじゃないな。

 あとの二人は……うそっ! なんで!

 どうして先輩がいるの!

「望月葵さんだね。こんにちは」

「こんにちは! 君は藤沢健介くんだよね。よろしくね」

「ああよろしく。葵ちゃんのネイル綺麗だね」

「ありがとうございます! 結構こういうの好きなんです!」

 社交辞令なんてどうでもいいから、今は先輩が気になってしょうがない。

 だって、一番合コンとかに来なそうなタイプじゃん!


 先輩と、引き立て役が座ったところで、私は右隣のもう一人の友達、綾瀬由依に小声で話しかけた。

「由依、私ちょっとだけトイレ行ってくるから、この場よろしくね」

「よしわかった! 葵ちゃんのために頑張るよー」

 そして、そそくさと席を立ち、トイレに向かった。

「健介ごめん! 俺もちょっとトイレに……」

「押し倒すなよ〜」

「俺が度胸ある奴に見えるか?」

 後ろでそんな会話をする先輩はわかってる。


 そりゃバイトの後輩がいたら、理由も聞きたくなるよね。

 幸い、ここのトイレは扉一つに手洗い場、また扉を挟んで便器がある。

 聞き込みにはピッタリだ。だから私は、扉の奥で先輩を待った。

 ガラガラと引き戸が開き、先輩が気まずそうな顔で入ってきた。そんな顔もかっこいい!

「先輩、なんでいるんですか?」

「俺も無理やり連れてこられたんだよ!」

 小声で話す行為に、私は嬉しかった。

「とりあえず、私たちは知らない人同士で話を進めましょう」

「ああそうだな。俺が先に戻るよ」

 私はトイレの個室に隠れて先輩が戻るのを待った。ある程度して、私は自席に戻った。


 それから合コンは続き、遥と島野くんは一緒に店を出た。

 ちなみに、今の相関図は私調べでこうだ。


 望月→先輩(不明)

  ↑

 藤沢←由依


 いざ考えると恥ずかしいな。もちろん、私は藤沢くんに興味がないので、ここで振るつもり。

 だけど、藤沢くんにはさっきからグイグイこられている。私は由依に繋げているのに全部断ち切られている。

 いよいよ、隠している困り顔が、表情に現れてきた。

 いままで気を遣ってか私に話しかけてこなかった先輩に、助け舟を出してほしいのに!

 私は由依に耳打ちして、もっとグイグイ行くよう頼んだ。

 由依も私が誰も興味ないのを知っていて、頼んだようにしてくれた。

 でも、それでもだよ! 話が私に向いてくるの!


 なんとか会話の先を由依に向けた、その時だった。

 先輩が立ち上がり、私の隣に座った。

「望月さん、正直困ってるよね」

 耳元で小さく話す先輩の息が、私の耳に!

「えっ、あ……うん」

 緊張と、素の自分が混ざって頭が熱くなっているのがわかる。

「ごめんね。健介は昔からああいう奴なんだ。だから、俺が望月さんを店から出すから、そこで解散しない?」

 これって誘ってるの?!

 てゆうか、私が誰にも興味がないこと気づいてたの?!

「……わ、わかりました」

 本っ当にやばい! 合コンで一緒に帰るとか、実質告白じゃん!

 頭がぼんやりしてきた。

 私の手が、何か手のようなものを掴んだ。

 いや、これ手だよ?! なんで先輩の手を?!


「由依ごめんねっ! 私、せ……氷川くんと帰るから」

 私は何を言ってるの!

 こんなの、私から誘ってるようなもんじゃん!

「と、言うわけだから、俺は葵さんと帰るぞ。お代はそこに置いておくから」

 先輩が、下の名前で、読んでくれた!

 顔が真っ赤になっちゃう! もう冷静じゃいられない。

「行きま……い、行こう、ゆゆゆゆ、優くん……」

 先輩のこと、下の名前で呼んだよね! 今、絶対呼んだよ!

 一応年上だし、バイトの先輩なんだよ、私!




 気づいた時には、先輩の手を強く握って店を出ていた。

「あああああああもうやだぁぁぁぁ……」

 私は地面にうずくまると、涙目で叫んだ。

 だけど先輩は、心配そうな目で私を見ている。

 今その目で見られたら、また自制が効かなくなっちゃう……

「も、望月さんごめんね。強引すぎたよね」

「だ、大丈夫です。……助かりました」

 縮こまってオロオロしている私に、先輩は手を差し出す。

「立てる?」

 手をそっと受け取り、私は先輩の顔を見ないよう俯いて立ち上がった。

「流石に二次会なんかはしないよね」

 冷静になった私は、どこからか勇気を引っ張り出して言った。


「あの……私、先輩の家で、ゲームしたい、です……」


 普通なら絶対にこんなことは言わない。

 でも、ネジが緩い今の私だからこそ、勇気を出して顔を見ながら言った。

 まさか私に言われると思っていなかった先輩は、目を丸くして固まっていた。

「誘ってるわけじゃないです。……ただ、先輩とゲームがしたい、だけなんです」

 そうだよね。いきなりこんなこと言われたら、誰でも固まるよ。

 だからこそ、私はゲームがしたいことを伝えた。

「しょうがない。俺のことが《《大好きな》》後輩の頼みを聞き入れよう」

 揶揄うように喋る先輩はなんだか懐かしい。


 多分スマホが割れた時……ということは、私が「()()()」って言ったこと覚えてたの?!

 私の身体が、真っ赤になって熱くなり出した。恥ずかしい!

「もう! そのことは忘れてください!」

 さっきの涙がぶり返して来たけど、なんだかおかしくなって私は笑っていた。



* * *


「先輩、キャリーすらできないんですかっ!」

「敵が強くて……」

「今蘇生するんで、少しは役に立ってください!」

「……はい」

 望月さんは、強かった。

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