第1話 元カノを愛しすぎた俺、愛が重すぎて異世界では最強でした
「……どうして、こうなった」
ざわり、と空気が揺れた。
試験場を囲んでいた観衆が、一斉にどよめく。
審査員席に並ぶ大人たちは、まるであり得ないものを見てしまったかのように、言葉を失ったまま俺を見つめていた。
さっきまで俺を小馬鹿にした笑みを浮かべていた、銀髪の女剣士も同じだ。
目を大きく見開き、震える瞳で、口を半開きにしたまま固まっている。
……まあ、無理もない。
なにせ俺は――
この王国に伝わる《伝説の剣》を、真っ二つに折ってしまったのだから。
♢♢♢
俺は数日前、この異世界――
《グレイスヴィア王国》に転生してきた。
名前は、恋瀬友愛27歳。
どうやら日本で死んだらしく、気がついたときには女神と向かい合っていた。
転生の際、女神はひどく言いづらそうに、転生先の“世界の真理”を教えてくれた。
――この世界では、「愛」が力になる。
愛の深さが、その人間の魔力となり、
そして勇志――剣技や戦闘スキルを発動するための力になるのだという。
だが、この世界の人々は、その真実を知らない。
彼らは力は生まれつき決まるものだと、疑いもせず信じている。
魔力は魔法の源。
勇志は剣術スキルを発動するために必要なもの。
そして女神は、さらに爆弾を落とした。
「転生者はね、日本でいちばん愛した人への想いが、そのままステータスになるの」
……その瞬間、女神が少しどころかかなりドン引きした顔を、俺は見逃さなかった。
「……はっきり言って、異常ね、てかおっも!重すぎんだろwww」
――さっきまでの、
あの品のある立ち振る舞いが嘘だったかのように。腹を抱えて、堪えきれないといった様子で、ゲラゲラと笑い出した。
「出会ってまもない彼女の誕生日プレゼントにサプライズで高級バッグと高級腕時計と婚約指輪www多すぎだろwwwどれか一個でいいだろ?
逆にもらう側、気使うわ。つかさらっと婚約しようとするなよwwwはえぇよ!」
「しかもディナー先のお店に、決まった時間ごとにサプライズで一個ずつ渡すようにとかwww地獄かよ。元カノも若干引いてるじゃん。
てか婚約指輪とかお前が渡せよ。なんでお店の人が渡すんだよ。誰のプロポーズだよwww」
「つかやるなら一回で全部渡させてあげろよww周りのお客さんもドン引きしてんじゃん。ウケるんだけどww」
「ん?これは手紙?分厚wwもう雑誌やん。出会ってまもないのに何を書く事があるんだよ?
てかアルバムもあるじゃん!何を振り返るんだよお前ら出会って一カ月やろwww」
どうやら俺の“愛”は、
規格外だったらしい。
「……そんなにおかしいか?」
俺は、品性の欠片も感じられない女神を、じっと睨みつける。
だが――
「くっ……ふ、ふふ……あははははっ!ごめん!たんま!たんま!」
女神の笑いは、まったく止まらなかった。
よほど面白かったのだろう。
目尻に涙まで浮かべ、腹を抱えながら、ひとしきり笑い続ける。
やがて、ようやく平静を取り戻したのか。
女神は小さく咳払いをひとつして、改めて説明を始めた。
「……ごめんなさい。少し、取り乱しました」
(少し……?普通にキャラ崩壊してたけど)
内心でそうツッコミを入れつつも、俺は黙って続きを待つ。
女神は気を取り直したように表情を引き締め、
こちらを真っ直ぐ見て言った。
「……いい? あなたの場合ね」
「あまりにも力が異常すぎるの」
このままでは目立ちすぎて、
世界のバランスが崩れるどころか――住民の命の保証もない。
「だから」
女神は、当然のように言った。
「あなたの本当の強さは、魔法で一切感知できないようにしておいたわ」
つまり。
今の俺は――
誰から見ても、
才能も魔力もない、ただの一般人。
最強なのに、
最弱にしか見えない男。
……そういう立ち位置らしい。
正直、目立つのは面倒くさそうだ。
けれど。
(まあ――)
口の端が、わずかに吊り上がる。
(そのほうが、都合はいいか)
こうして俺の、
“愛が重すぎる異世界生活”は、
静かに――そして確実に、幕を開けたのだった。
目を覚ました場所は、深い森の中。
見渡す限り木、木、木。文明の匂いゼロ。
「……あの女神、ふざけんなよ。
いきなりハードモードじゃねぇか」
早くも前途多難だと、ため息が漏れる。
地図もチュートリアルもない。
それでも立ち止まるわけにはいかず、俺はなんとなくの勘だけを頼りに、森の中を進み続けた。
――そして。
耳に飛び込んできたのは、悲鳴だった。
木々の隙間から覗いた先。
そこにいたのは、ゴブリンの群れに囲まれている金髪の少女。
反射的に、俺は茂みに身を隠した。
(……どうする?)
この世界に来て、まだ何も分からない。
戦い方も、強さも、自分がどれほど通用するのかすら知らない。
そのとき、ふと――
脳裏に、忘れたはずの声が蘇った。
『あなたって優しいし愛してはくれるんだけどさ……頼り甲斐がないんだよね』
『男として、正直……微妙』
元カノの言葉。
胸の奥が、じくりと疼く。
異世界に来ても、結局変わらないのか――
そう思った瞬間、理由の分からない苛立ちが、腹の底から込み上げてきた。
「……クソ」
気づけば俺は、茂みを飛び出していた。
ゴブリンたちが、一斉にこちらを振り向く。
「なんだ? 人間か?」
下卑た声を上げたゴブリンが、木の棒を肩に担ぎながら近づいてくる。
「邪魔するなら、お前も容赦しねぇぞ?」
「見たところ……なんの才能もねぇ劣等種じゃねぇか」
嘲るような笑み。
そのとき、背後から必死な声が飛んできた。
「あなた! はやく逃げなさい!」
自分だって追い詰められているはずなのに。
それでも、俺のことを心配して叫んでくれる金髪の少女。
……ああ、もう。
ここで逃げたら、
本当に一生“微妙な男”のままだ。
「……どうせやられるなら」
小さく呟く。
「男らしく、散ってやる」
ゴブリンが、にやりと口角を上げた。
そして――
「死ねぇっ!」
振りかぶった木の棒――
まるで丸太のようなそれが、俺の頭めがけて振り下ろされる。
――次の瞬間。
バキッ。
乾いた音と共に、
その棒は――
まるで、麩菓子みたいに、あっさりと折れた。
何が起きたのか分からず、
俺とゴブリンは、しばらく無言で向かい合っていた。
「……?」
首を傾げるゴブリン。
俺も、まったく同じ顔をしていたと思う。
(いや、今の……何?なんか当たったのか?)
殴ったわけでも、避けたわけでもない。
ただ立っていただけだ。
そのとき、脳裏に――
あの女神の声が、ふっと蘇る。
――この世界の強さは、愛と同じ。
「……あ」
胸の奥が、すとんと落ちた。
(まさか……いや、待て。)
日本で、誰よりも、何よりも――
世界で一番元カノへの愛が重かった俺。
女神がドン引きした理由。
「……さては、俺」
理解した瞬間、背筋がぞくりとした。
俺は、足元に転がっていた折れた木の棒を拾い上げる。
そして、何の気なしに――投げ捨てた。
ヒュッ。
軽い音。
次の瞬間。
ゴンッ!
棒はゴブリンの腹に直撃し、そのまま地面をえぐるようにぶっ飛んでいく。
そのまま――音を立てて地面に倒れ伏した。
「……え?」
周囲のゴブリンたちが、一斉に息を呑む。
「……?」
「……?」
ざわり、と空気が変わった。
明らかにおかしい。
本能が、そう告げているのだろう。
ゴブリンたちは、甲高い声で叫び始めた。
「おい!みんな集まれ!!」
仲間を呼ぶ合図。
すると、森の奥や茂みの影から――
ぞろぞろと、新たなゴブリンたちが現れ始める。
(……うわ、気持ち悪!?)
一体ずつ相手してたら、キリがないやつだ。
俺は、小さく息を吐いた。
「……こうなったら試してみるか。」
そして。
俺は、地面に向かって――
手を置いた。
そして目を瞑り、元カノへの誕生日プレゼントを思い出す総額273万円。
俺はそれを元カノに喜んで欲しいと思って用意した愛情深い自分を思い出しながら地面を押した。
ドンッ、という鈍い衝撃。
次の瞬間。
地面が、悲鳴を上げた。
ミシミシ、と音を立てて大地が裂け、
巨大な地割れが走る。
「何だ?どうなってんだ?」
「落ちる…落ちるぞ!」
足場を失ったゴブリンたちが、次々とバランスを崩し、
叫び声を上げながら、地の裂け目へと落ちていった。
土煙が舞い上がり、
森は一瞬で、静寂に包まれる。
俺は、割れた地面を見下ろしながら――
「……いや、さすがにこれは……バトル小説というよりギャグ小説に近いな……」
「よし、この技はつなみ(273万円)と名付けよう。一切水の要素はないが」
困ったように自分でツッコミながら呟いた。
それを見た残りのゴブリンたちは、完全に戦意を失った。
「化け物だ!」
「お前ら逃げるぞ!?」
悲鳴のような声を上げ、我先にと森の奥へ逃げ帰っていく。
あたりには、折れた木々と、割れた大地の痕跡だけが残った。
――そして。
金髪の少女は、その場に立ち尽くしたまま、小刻みに震えていた。
「お、お願い……命だけは……」
潤んだ瞳でこちらを見上げ、怯えきった声を漏らす。
……ああ、そうか。
女神が言っていたのはこういうことか。
俺は彼女にとって、
ゴブリンよりも“理解不能な怪物”に見えているんだ。
俺はゆっくりと近づき、
そっと――彼女の頭に手を置いた。
「大丈夫だよ。怖かったよな」
「ごめんな?もう、終わったから。」
一瞬、びくっと肩を跳ねさせた彼女だったが、
俺の声を聞いた途端、少しずつ緊張が解けていく。
俺は、にこっと笑った。
すると、その笑顔に安心したのか――
彼女の震えは、ゆっくりと収まっていった。
「……助けてくださって、ありがとうございます」
そう言って、彼女は胸に手を当て、
どこか気品のある仕草で、丁寧に頭を下げた。
「私の名前は、ラナと申します」
「どうか私にお礼をさせてくれませんか?」
どう見ても、ただの一般人じゃない立ち振る舞いだが……
今の俺にとって大事なのは、そこじゃない。
「ラナ、礼はいいからさ」
「この近くに、街とかある?」
彼女は少し考えたあと、答える。
「この道を真っ直ぐ進めば、
グレイスヴィア王国に辿り着けます」
「おお!助かる! ありがとう!」
……そして、もう一つ。
女神の言葉が、脳裏をよぎる。
――力がありすぎると、面倒なことになる。
俺は少しだけ声を落として言った。
「あとさ……さっきのことは、秘密にしてもらえるかな?」
ラナは一瞬驚いたように目を瞬かせ、
すぐに、静かに頷いた。
「……分かりました。お約束いたします」
それを聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
「それじゃ、俺は行くよ。ラナ」
そう言って手を振り、
教えてもらった道へと歩き出す。
――と、そのとき。
「あの! お名前だけでも!」
呼び止められ、俺は振り返った。
「恋瀬友愛」
「もう会うことはないと思うけど……また会うことがあれば、よろしくな!」
そう言って、今度こそ走り出す。
その背中を見送りながら、
ラナは胸元を、きゅっと押さえた。
「……恋瀬友愛、様」
ぽつりと呟き、頬をわずかに赤らめる。
「素敵なお名前……なんて素敵なお方♡」
そして、小さく微笑んで続けた。
「でも、友愛様……」
「恐らく、すぐに再会することになりますわ」
その言葉の意味を、
このときの俺は、まだ知らなかった。
――これが、
俺と後に知ることになるグレイスヴィア王国王女との出会いだった。
※本作は、一部AIの補助を参考にしながら執筆していますが、物語の構想・登場人物・表現の最終決定はすべて筆者が行っています




