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第38話 事件の顛末

屋敷に戻ると、使用人たちが慌ただしく動き出した。


けれどレオンは誰にも指示を出さず、私の手を取って一直線に階段を上がる。


廊下の突き当たり。


「あ、あのそっちは」


私の部屋——ではない。レオンの私室の扉の前で立ち止まる。


「え……私も入るんですか?」


返事はなく、扉が静かに閉まる音だけがした。鍵が掛かる気配。金属が噛み合う、かすかな音。


(……ん?)


そして、振り返るより先に、背後からレオンの手が伸びてきて、私のコートを脱がせた。


「れ、レオンさん……?」


肩からふわりと重みが抜ける。


(な、なに……?)


レオンは私の前に立ったまま、何も言わずに手を伸ばしてくる。襟元。ボタン。指先が迷いなく、順番に外していく。


「えっ、え、待って……!」


「拒否するなら、拘束魔法を使います」


レオンは淡々と私のシャツを肩から下ろした。

布が滑り落ちる音がやけに大きい。


私は咄嗟に腕で胸元を隠す。


「そ、そんな!拒否するに決まってます!」


「恥ずかしがる必要はありません」


そう言いながら、レオンはまず私の手首を取る。


あの痣があった場所。もう治っているが、そこに視線が刺さる。


(傷を……確認してる……?)


指先が手首をなぞった。撫でるというより、確かめるみたいに。


「痛みは?」


「……ないです」


次に、レオンの手が私の腹へ移った。港で殴られた場所だ。ここも痣になっている。


「これは?」


「こ、これはちょっと殴られちゃいまして……でも見た目ほど痛くなくて、意外と大丈夫というか、なんというか……」


「チッ」


(い、いま、舌打ちした……?)


レオンさんが苛立っているのが分かる。


彼は手を私の腹に当て、回復魔法を流し込む。

じわっと温かさが広がって、打撲の痛みが薄れていく。


「……すごい……痛みが──」


その後、私の体を一通り確認すると、レオンは口を開いた。


「ミナ」


私がびくっと反応すると、レオンは動きを止めた。


一拍置いて、低い声で言う。


「私は、あなたが傷つくのが耐えられない」


「すみません、今回は私が本当に──」


レオンは自分の上着を私にかけ、その上から抱きしめた。そして怪我をしていた場所を、一つひとつ撫でていく。


「あなたの手足が動かないようにして、この部屋に閉じ込める。そうすればミナは怪我をすることもなく、私と幸せに永遠に暮らせる。もちろん、私がすべてお世話します。どうですか?こんな世界は?」


「あ、あの……」


(どうしよう、目が本気だ)


「でも、それをしないのは——なぜだかわかりますか」


「え……?」


「あなたが、それを望んでいないのが分かっているからです」


レオンは私の頬に触れ、目元の赤みを親指でそっと撫でた。


「でも、次にこんなことがあれば、私は自分がどうするか分からない」


そう呟いたあと、レオンの腕が私を引き寄せる。


抱きしめられた。

ぎゅっと。強く、逃げられないくらい。


「心配しました」


(どうしよう、自分の心臓の音が耳まで響いてくる)


「……すみません」


「ミナ。二度と勝手な行動はしないでください。あなたが傷つくと、私は正気を保てなくなる」


名前を呼ばれて、私は小さく頷いた。


「……はい。この度はご迷惑をおかけしました⋯⋯」


レオンはようやく息を吐くように、私の頭を撫でた。

子どもをあやすみたいに、優しく。


(レオンさん、本当に私を心配しているように見える。やっぱり、私のことを好きで──)


「それと、今までは黙って見逃していましたが、これから深夜の無断外出は禁止します」


レオンは少しだけ距離を取って、私の顔を覗き込んだ。


「やっぱり気づいてました……?」


私はとぼけて言ってみたけれど、彼の表情は真剣そのものだった。


「す、すみません⋯⋯これからは必ず、事前にお伝えしてから行動します⋯⋯」


レオンはそれ以上何も言わず、もう一度、私を抱きしめ、小さく呟いた。


「私を、ずっと優しいままの私でいさせてください」






そして後になって、セシルとディラン、そして騎士団から、事件の顛末を聞かされた。


ヴァイス商会は大規模な不正取引と背任行為が露見し、一斉摘発されたらしい。名簿に名を連ねていた貴族たちはまとめて爵位を剥奪され、所領は没収。

ヴァイス商会の会長と幹部も拘束され、表舞台から姿を消した。


一部は国外追放――表向きは「自ら望んだ隠居」と発表されたが、実際には社交界から跡形もなく消えたという。


カイは現在取り調べを受けていて、生きているとのことだ。


だが、レオンに消された人間たちの行方だけは、最後まで伏せられた。こちらから尋ねても、返ってくるのは曖昧な返答だけで、生きている可能性は低い、と悟るしかなかった。


そしてセシルの父親も、本来なら巻き添えを食って終わっていたはずだった。


けれど現実は逆だった。事件直後に凍結されていた契約は次々と再開され、なかには以前より好条件へ書き換えられた取引さえある。


新しい得意先まで増え、セシルの家は、以前にも増して繁盛しているという。


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