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第37話 お願い

騎士団が残党を制圧していく音がする。足音、金属の擦れる音。


けれどレオンは、そんなものに一切興味がないかのように、私だけを見ていた。


「帰りましょう。ここは不快です」


「……レオンさん、待ってください」


レオンの眉がほんのわずかに動く。


「どうかしましたか」


「セシルとディラン……私の友達が、まだ捕まってるかもしれないんです。私が閉じ込められてた場所にはいなかったんですけど……」


レオンは心底どうでも良さそうな顔をしたまま、返事をしなかった。


(本当は自分で助けに行きたい。けど今の私じゃ、不可能だ。弱すぎる)


だから、私は悔しさを飲み込んで、目の前の人に縋るしかなかった。


「ミナ」


静かな声が落ちてくる。


「彼らを助けてほしいですか」


「……はい。お願いします。私では無理なんです……」


一歩、レオンに近づいて、見上げた。レオンは私を見下ろし、沈黙する。


「……ミナ」


「はい」


「彼らを助けたら、私のことを好きになりますか」


「え?」


頭の中が真っ白になった。


「……す、好きにですか……?」


レオンは表情を変えない。冗談を言っている顔じゃない。本気で言ってる。


私は必死に言葉を選んだ。


「その……好きになるかどうかは、分からないです」


レオンの目が細くなる。


「ただ」


私は続けた。


「助けてくれたら、感謝します……心の底から、ありがとうと伝えます。今の私にはそれしかできません」


「……感謝」


レオンは、その言葉を噛むように繰り返した。


(気に入らなかったかな。今の答え……)


でも次の瞬間、レオンは私の頬に触れた。


「分かりました」


「……助けて、くれるんですか?」


正直、意外だった。たとえ私が頼んだとしても、私以外のためには動かないと思っていたから。


(夢で見たあの頃のレオンさんとは全然違う)


「じゃあ、私も一緒に――」


「いえ、必要はありません。それに、あなたに何ができますか?」


反論できない。今の私は足手まといだ。


「分かりました……」


レオンが立ち上がり、周囲に視線を投げるだけで、騎士たちの空気が変わる。


「第一騎士団。周辺の残党を確保しろ」


「はっ!」


「連中が連れていった者がいる可能性がある。港裏の倉庫、地下、抜け道。すべて当たれ」


(すごい。慣れてるのが分かる……)


「レオンさん、騎士団の皆さん、よろしくお願いします……」


呼ぶと、レオンは振り返った。

まだ冷えた色を残したその瞳が、私を捉えた瞬間だけ、わずかに和らぐ。


「あなたが望むなら」


レオンは倉庫の方に歩き出した。


横にいた第一騎士団のアルベルト副団長が、ぽつりと私に言った。


「すごいですね」


「え?」


「総団長を動かせるのは、ミナ様だけですよ」


「動かすって、私はお願いしただけです……」


「お願いできる時点で、特別です。総団長に頼むなんて、普通は口にすらできませんから」


「そうなんですかね……」


(なんだろう……すごく気まずい)


アルベルトは肩をすくめる。


「団長も言ってましたよ。総団長は、ミナ様に関わること以外、基本動かないから困るって」


「はは……」


「総団長がこういう現場に出向くこと自体、滅多にありませんから。今日も、我々のみでヴァイス商会について調べていたんですが、ミナ様が巻き込まれたと聞いて、総団長はここまで出向かれたんです。大切にされていますね」


そのとき、遠くで乾いた音がした。騎士たちの動きが一斉に加速する。


そして、間もなく――


「見つけました!」


声が上がった。


倉庫の影から引き出される二人の姿。セシルが咳き込みながら、ディランに支えられている。

二人の服は乱れ、頬には汚れがついていた。


「セシル!」


「ミナちゃん!!無事?!大丈夫?!」


「うん……うん!二人こそ……!」


ディランが歯を食いしばって言う。


「……助かった──」


セシルとディランが、目を見開く。


「……え?」


そして二人とも、固まった。


「……レオン、様?」


セシルの声が裏返る。


「え、え、なんでレオン様がここに……?」


ディランが私とレオンを交互に見る。理解が追いつかない顔だ。


「実はレオンさんが、私たちを助けてくれたの」


「そ、そうなのか……?」


「うん」


セシルの目に涙が溜まる。ディランの拳が小さく震える。


「ミナ……俺たち、お前を助けられなくてごめん」


「大丈夫。私、無傷だよ。むしろディランたちのほうが怪我してる」


私は首を振った。


ディランがレオンへ向き直り、深く頭を下げた。


「レオン様、私たちを助けてくださり、ありがとうございます!」


セシルも続いて頭を下げる。


レオンは淡々と頷いただけだった。

視線は二人ではなく、私に落ちている。


「ミナ、帰りましょう。用はすべて済んだでしょう」


「はい。本当にありがとうございます」


「帰ったら、たくさん話しましょうね」


「……はい」

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