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第35話 助けの気配

廊下の向こうに人の気配を感じる。


カイが目だけで合図した。


「まず、お前の縄からだ」


「わかった」


私は息を殺し、縄の一部に魔力を集める。


(いける)


次の瞬間、焼き切れたみたいに、音もなくすぱり、と縄が落ちた。手首が自由になった途端、血が戻るような痛みが走る。


(うわ……痣になってる。こんなにキツく縛らなくてもいいのに……)


「俺のも頼む」


私はすぐにカイの縄へ手を伸ばした。

同じように魔力を通す。固く締められた縄が、静かに切れる。


カイが肩を回して小さく頷いた。


「よし。次は扉だ」


「でも、鍵ないよ」


「そうだな。だからここで俺の出番ってわけだ。潜入捜査してるんだから、これくらいできねぇとな」


カイは床の小石を拾い、鍵穴へ滑り込ませた。そして、指先を微妙に動かす。


「何してるの?」


「黙って見てろ」


——小石が、ぐにゃりと変形した。

鍵穴の内部に吸い付くように、ぴったりの形へみるみる変わっていく。


「……すごい。鍵、作ったの?」


「説明してる時間はねぇ。次はお前の結界だ。弱ぇけど、無いよりマシだろ」


「いちいち棘のある言い方しかできないの?」


苛立ちながらも、私は頷く。息を吸って、吐く。


(狭く、薄く。扉の外だけ——)


指先が冷えていく感覚。


空気が重くなる。


(……よし)


「できたな。開けるぞ」


扉が軋んで開いた。


(……本当に開いた)


カイが囁く。


「急げ」


「分かってる」


私たちは闇の廊下へ滑り出た。

濡れた石床。冷たい空気。鉄とカビの匂いが鼻の奥に絡みつく。


心臓の音がうるさい。


(なんで私がこんな目に遭わないといけないの。早く帰りたい……)


角を曲がると、廊下の先に見張りが一人、背を向けて立っていた。

カイが私を壁際へ押し込み、息だけで言う。


「大丈夫だ。もう少しで外に出られる」


梯子が見えた。上から薄い光——外だ。


「あそこの梯子で合ってる?」


カイが頷く。


「ああ。先に——」


その瞬間。


「おい」


背後から、低い声。


(うそ……)


私は反射で振り返ってしまった。見張りがこちらを向く。目が合った。


「誰だ、お前ら——!」


叫び声が廊下に反響する。


(終わった)


カイが舌打ちした。


「急げ!」


私たちは梯子へ駆け出し、必死に登った。


上へ、上へ。


外の冷たい空気を頬に感じた瞬間、背後の怒号が膨れ上がる。


「逃げたぞ!」


「追え!」


港の裏路地へ飛び出した私たちは、積まれた荷の影に身を滑り込ませた。


カイが周囲を睨み、歯を食いしばる。


「……まずい。外にも結構いるな」


倉庫の間に、さっきの連中と同じ格好をした男たちが立っていた。

逃げ道を塞ぐみたいに、じわじわ距離を詰めてくる。


カイが小声で吐き捨てる。


「……俺の顔も割れてる。やべぇ、逃げ切れねぇかも」


「逃げきれないって、勝手に諦めないでよ!」


「おいおい。こんなところで何してるんだよ、治安局の犬よお」


背後から、小太りの男が声をかけてきた。


「もうバレちゃったじゃん!」


「お前の声がでけぇから——」


男の視線が、私に刺さる。


「黒髪の女も一緒か。手間が省けた」


「さ、触らないでください……何なんですか、いったい」


私が一歩踏み出しかけた瞬間、カイが腕を掴んだ。


「やめろ。あいつらは、お前が思ってるより強い。だから——」


「分かってる。でも、このまま何もしないで捕まるわけにいかないでしょ」


男たちが一斉に動く。


「捕まえろ!」


私は反射的に結界を張った。薄い膜が広がり、一本だけ剣先を弾く。


——でも、それだけ。押し返せない。数が多すぎる。


(もっとちゃんと魔法を練習してれば……せめて、自分の身を守れるくらいは)


悔やんでも遅い。分かってる。分かってるのに。


カイが私の腕を引く。


「ミナ!こっちだ!」


逃げようとした瞬間、背中に衝撃。突き飛ばされ、地面に膝をついた。


「逃げるんじゃねえ、おとなしくしてろ」


「……いたっ」


髪を掴まれ、頭を無理やり持ち上げられる。


「暴れるなよ、商品」


「痛い!放して!」


私は爪で男の手首を強く引っ掻いた。


「いっ——!この女!」


殴る拳が振り上がる。私は目を逸らさず睨み返した。


(私、今日だけで何回殴られるんだろう──)






次の瞬間——空気が変わり、髪を引かれる痛みが突然消えた。


「ぅ、うわぁああ——」


呻き声。拳を上げていた男が、腕を押さえて崩れ落ちている。


一瞬、何が起きたのか分からない。


「えっ……」


そして、後ろを振り返ると——いた。

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