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第34話 目覚めは牢の中

目が覚めた時、鉄とカビの匂いがした。


冷たい床に寝かされている。手首が痛い。縛られている。


「……どこ、ここ」


薄暗い石の部屋。牢。


(捕まったのか……私、殺されるのかな)


「……起きたか」


隣から声がした。


「……あ、あなたは!」


声を出すと喉が痛い。殴られたところもまだ痛む。


そして、隣の影を見ると、先ほどの男が座っていた。手首に同じ縄。


(……この男も捕まってる?)


「な、なんで……?」


「いろいろ失敗したんだよ」


男は吐き捨てる。


「……は?」


男は一瞬だけ黙って、目を逸らした。


「この際、隠しても無駄だ。話してやる。俺は治安局の人間だ」


「治安局……って秘密警察みたいな?話が急展開すぎてついていけないんだけど」


「港の連中の中に潜り込んでた。上——ここのボスに会う必要があったんだよ。だから、お前を使おうとしたんだが……潜入がバレた」


「どういうこと……」


「だから、黒髪黒目に価値を見てるボスに会うためにお前を使おうと思ったんが、その前に潜入が露見して捕まったんだよ」


「つまり、あなたは政府側の人間なのに女を利用して上に会おうとしたの……?ありえない……もっと他に方法あったでしょ」


「うるせえな。だから面倒なんだよ、女は」


言い合いが牢の湿った空気に吸い込まれる。


セシルとディランの姿が見えない。胸の奥がぞわっと冷える。


「……もういい。セシルとディランはどこ?」


私が聞くと、男は舌打ちした。


「知らねえ。死んでないといいな」


(この男、後で絶対覚えておきなさいよ⋯⋯)


男が低い声で言う。


「なんだよその目は。とにかく、ここにいる時間が長いほど殺される確率が上がる。今から逃げるぞ」


私は息を呑んだ。


「……逃げるって、どうやって?」


「お前の魔法の実力、どの程度だ」


「大したものはできない……けど、この縄くらいなら切れると思う。でも、もし逃げて見つかったら……」


「ここにいても死ぬ。

逃げて、捕まっても死ぬ。

でも――もしかしたら、逃げ切れるかもしれない。だったら、そっちに賭けた方がいいと思わねえのかよ」


「それは……」


男は笑った。


「見張りの癖は把握してる。とりあえず俺の指示に従え」


「……嫌だって言ったら?」


「ここで野垂れ死にしたかったら好きにしろ」


「……分かった」


「賢明だな。まず自分の縄を切れ。次に俺の縄だ。できるか」


「……やってみる」


男は頷く。


「そのあと廊下へ出て、左だ。上へ出る梯子がある」


私は唾を飲み込んだ。


「……あなた、名前は」


男が少しだけ笑う。


「今それ聞くのか?……まあいい」


「聞かないといろいろやりにくいから」


一瞬の沈黙のあと、男は低く答えた。


「……カイ。お前は?」


「……ミナ」


(絶対この男の名前、忘れてやらないんだから)


敵でも味方でもない。でも、今は同じ牢の中の人間。


カイが言う。


「いいか、ミナ。俺は逃げるまでは協力する」


「……私も。ただ、逃げ切れたら、それ相応の罰を受けてもらうから」

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