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第28話 嘘を武器に

廊下は下りの階段へと続いていた。


階段を飛ばさない程度に早足で駆け下りる。


下りきった先にも、また兵士がいた。


今度は二人。


(この人たち⋯⋯強い。強行突破は無理だ⋯⋯)


魔力でわかる。先ほどの衛兵とは違う。彼らは平均以上の魔力を持っている。


「何者だ」


「身分証を──」


私は深呼吸し、わざと声を張った。


「私はミナ・タカハシです。レオン・ヴァルティエルの客人です」


兵士の表情が変わった。


チラリ、と互いに視線を交わす。


その一瞬の迷いに、私は畳み掛ける。


「急ぎの用件で、王宮地下へ行かなければなりません」


最大限、落ち着いているように振る舞う。


兵士の一人が眉をひそめた。


「しかし、そうであれば、通常は我々に事前の連絡が──」


「私が間違っていると言いたいのですか?私は公爵家の客人ですよ。早く案内してください。急いでいるんです」


自分で言いながら、胃が痛くなるような脅し文句だった。


でも、効果はあった。


兵士たちの顔から、一気に血の気が引く。


「⋯⋯ヴァルティエル公爵家からのご紹介、ということでしょうか」


「ええ。私は閣下の屋敷に住んでいます。あなた方の上司なら、私の顔くらい見たことがあるはずです。それで、この先は?」


兵士は一瞬だけ口をつぐみ、言葉を選ぶように視線を逸らした。


「この先は、立ち入り制限区域です」


「封印区画へ続く通路よね?」


「そ、それは⋯⋯許可証の提示がなければ、お答えできません」


(この反応、かなり怪しい⋯⋯)


「しつこいわね。質問に答えなさい」


私は圧を込める。


「は、はい⋯⋯封印区画へ繋がる通路です」


(やっぱり、ここで合ってた)


「いいから、通して」


きっぱりと言い切ると、兵士はぐ、と唇を噛んだ。


「し、しかし、規則では──」


「規則か、公爵家の客人か。あなたはどちらを優先したいですか」


一瞬の沈黙ののち、兵士たちは互いに目を合わせると、片方が小さく頷いた。


「⋯⋯通路の先の扉までなら、同行します。その先は、隊長判断になります」


「それで構いません」


(隊長クラスまで行ければ、こっちのものだ)


私は内心の震えをごまかしながら、兵士たちの後を歩いた。


地下の空気は、ひんやりとしていて重い。


壁には光量を抑えた魔石灯が一定間隔で並んでいる。一本の長い通路の先に、他とは明らかに違う扉が見えた。


重厚な扉の前に立つ二人は、さっきまでの兵とは違う。鎧も徽章も、明らかに騎士団のものだった。


(ここが⋯⋯)


兵士の一人が一歩前に出て、敬礼した。


「隊長。公爵家の関係者らしき者が、封印区画への通行を求めています」


隊長と呼ばれた男が、こちらに視線を向ける。


鋭い青灰色の瞳が、一瞬だけ見開かれた。


「⋯⋯ミナ様?」


(やっぱり⋯⋯知ってるんだ、私のこと)


私は一歩、前に出た。彼の記憶はもちろんない。


「お久しぶりです」


(私、こんなにスラスラ嘘がつける人間だったかな⋯⋯)


隊長は一拍置いてから、姿勢を正した。


「ご無沙汰しております。体調はよろしいのですか?」


「ええ。万全ではありませんが」


言葉にすると、隊長の表情がさらに強張る。


「でしたらなおさら、ここにお越しになった理由を伺ってもよろしいですか。封印庫は、許可なく開けることは──」


「早く開けて」


言葉を遮る。


「⋯⋯ミナ様?」


「私が入りたいと言ってるの。レオンの許可も降りてます」


言い切ると、通路の空気がぴんと張り詰めた。


(上から目線な言い方でごめんなさい。本当は誰も許可してないです)


けれど、隊長クラスなら、レオンが私の言うことならなんでも聞くことを知っているはずだ。


それを、利用する。


「だが、それを証明する文書がなければ、原則──」


「ここを開けなさい」


「では、今から総団長の方にこちらから確認を──」


「次はないわよ。ここを開けなさい」


自分でも驚くほど、冷たい声が出た。


「し、しかし──」


「あなた、名前は?」


「⋯⋯第三騎士団隊長、ガレス・グレンです」


「なら、心配しないで。もし問題になったら、私が責任を取ります。だから今は扉を開けてください」


通路の奥で、もう一人の騎士が落ち着かない様子でこちらを見ている。


ガレスは長く、深い息を吐いた。


「⋯⋯かしこまりました」


嬉しい気持ちを堪え、冷静な態度をとる。


「ありがとう」


数秒の沈黙の後、ガレスは決意したように扉へ向き直った。


「副隊長。封印庫第一扉の開放手順に入る」


「し、しかし隊長⋯⋯!」


「総団長の名を出された以上、ここで拒否すれば、我々の責任は免れない」


低い声でそう言い聞かせるように返す。


「なにかあれば、私がすべて責任を取る。ミナ様のご意思とあれば、総団長もご理解くださるはずだ」


(それは分からないけど⋯⋯)


心の中でだけ、苦笑した。


副隊長がしぶしぶ頷く。


ガレスは扉の横に埋め込まれた魔法陣に手をかざした。

淡い光が走り、いくつもの錠前が内側で外れていく重い音がした。


「封印庫までの通路は、ここから先です」


扉が、ゆっくりと開く。


地下深くへと続く階段。その先から、冷たい魔力の気配が立ち上ってくる。


ガレスが、真剣な眼差しでこちらを見た。


「中で何があっても、我々には介入できません。本来なら、許可証なしであなたを通すこと自体が規則違反ですので」


「分かりました。ありがとう」


(いよいよだ⋯⋯)


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