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第26話 最初の探り

翌朝、レオンといつも通り朝食を共にし、今日は講義に加えてアルバイトもあるため、戻りは少し遅くなると告げた。


「分かりました。お気をつけて。私も本日は隣国へ向かわなければならないため、戻りは明日になります」


(それはすでに知ってる)


その情報は、事前に公務予定として告知されていた。


だからこそ、今日実行すると決めたのだ。


「レオンさんもお気をつけて」





講義にいつも通り出席した後、図書院へ移動し、私は王宮内の文書管理局へ届けるための書類を預かった。


封筒には、王立図書院の印章と、公文書搬入許可証がきちんと貼られている。


(これなら──王宮内までは、合法的に行ける)


王宮の白い城壁が、午前の日差しを反射して眩しい。


大通りには行き交う人々、露店、荷馬車。その向こうで、金色の紋章がはためいている。


深呼吸をひとつ。


「よし」


正門の前に立つと、近衛の兵が槍を交差させて進路を塞いだ。


「ご用件を」


「王立図書院から参りました。ミナ・タカハシです。文書の搬入許可をいただいています」


名乗った瞬間、兵士の眉がぴくりと動いたのが分かった。


「身分証と書類を」


用意していた身分証と、図書院から預かった搬入許可証を差し出す。


兵士はそれを確認し、後ろの同僚と小声で何か話し合った。


「王立図書院からの文書搬入、たしかに承りました。立ち入りを許可します」


槍が上がる。


王宮の中に足を踏み入れながら、ポケットの中のノートを、無意識に握りしめていた。


(ここから先は、全部賭けだ)









王宮内部は、図書院の仕事でこれまでにも何度か来たことがある。だから構造も、なんとなくわかる。


高い天井、磨き込まれた床。壁にかかる歴代王の肖像画と、王家の紋章。


(とりあえず、今の名目は、公文書館への書類の搬入)


案内役として、若い書記官が一人ついた。


「こちらへどうぞ。公文書館は東棟二階でございます」


「ありがとうございます」


「私は廊下でお待ちしておりますね」


私は書記官に一礼し、公文書館の中へ入った。


(封印庫は王宮地下――地下書庫のどこかにあるはずだ。公文書館から地下資料の管理担当に繋げれば、なにか分かるかもしれない)


階段を上り、公文書館に着くと、受付の司書が立ち上がった。


「書類のお届けですね。ありがとうございます⋯⋯あら?」


私の顔を見た瞬間、司書の目が僅かに見開かれる。


「タカハシ様、でいらっしゃいますか?」


「はい。お久しぶりです。今回も図書院からの依頼でして。こちらが書類になります」


彼女とは書類を届けた際に、何度か顔を合わせたことがある。


一通り、搬入の書類にサインし終わったところで、私はさりげないふりをして切り出した。


「ところで、こちらは⋯⋯地下資料の管理も担当されているんですか?」


司書の手が、ペンを持ったまま止まる。


「どうして、そのようなことを?」


「地下書庫に預けられている資料の所在を確認したいんです。搬入時の規定が変わったと聞いて、念のため確認をしたくて」


司書の目は明らかに警戒を帯びる。


「地下書庫の詳細は、王宮でもごく一部の方しかご存じありません。私たちのようなただの職員が関われるのは、上に上がってきた資料だけです」


(予想はしていた回答だ。でも、ここで引き下がったら、何の進展もない)


「そうですよね。ただ、図書院側で急ぎの照合が出ていて⋯⋯地下へ回る資料があるかどうかだけでも、担当が違うならその窓口を教えていただけませんか?」


(自分で言っておきながら、かなり怪しく聞こえるな⋯⋯)


司書の表情がさらに固くなる。


「失礼ですが、そのような依頼は正式な文書で頂かなければ受けられません。それに、王宮地下書庫に関する情報は、本来外部の方が触れてよいものではありませんが」


司書の言葉は、そこでぴしゃりと閉ざされた。


(⋯⋯ここまでかな。これ以上聞くと、通報されてしまうかもしれないし)


私は小さく頭を下げた。


「そうですよね。失礼しました。出直します」


司書は一瞬だけ迷ったように視線を泳がせ、それから事務的な声で付け足した。


「ただ、規定の確認でしたら、本来は地下管理区画の受付に回していただくことになります」


「地下管理区画?」


「ええ。この階の案内板に表示があります。地下管理区画へ入るには、別途許可証が必要です。許可証を取得後、そちらの案内に従ってください。提示が必要な区域ですので、関係者以外は近づかないで下さい」


「そうなんですね。ありがとうございます」


(これは有力な情報だ)


「書類の受け取りは以上でよろしいですか?」


「はい。ありがとうございました」


私は形式通りに礼をして、公文書館を後にした。


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