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異世界物語  作者: カエル
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松本君視点

よく分からないままにこちらの世界に部室である温室ごと転移してきてから1年と少しが経過した。そして、今日も何も起こらずに平穏とは言えないけど比較的穏やかな日が終わると思っていた。

「先輩、晩御飯どうしますか?」

「そうだね。とりあえず収穫したかぶと菜っ葉類あと干し肉を入れたスープとパンでいいんじゃない?」

「そうですね。」

井上先輩に晩御飯の献立を相談して、いつものように先輩の横で準備をしていると突然先輩が顔を上げて柵の向こうに広がる森を見つめ始めた。

「どうかしましたか?」

僕が聞くと先輩は剣を2振り持って温室から出て行った。

僕も慌てて弓を持って出ていくと、山本先輩が僕たちの変化に気が付いて薪割りをやめてすぐ横に置いてあったハンマーを持って近づいてきた。

「井上君どうした?」

「こちらの様子をうかがっているのがいる。数は12」

井上先輩が山本先輩の方を見ずにそう答えると山本先輩は真剣な表情で頷いた。

「いつも通り?」

山本先輩がそう問いかけると井上先輩は首を横に振った。

「いや、いつもと違う。懐かしい感じがあるのが数人混じってる。確認してからどうするか判断しよう。」

「了。」

「はい。」

井上先輩の指示に従い、いつものように僕は対象が狙えて相手に見つかりにくい少し離れた木の上へと軽くジャンプして移動した。先輩たちも素早く行動し相手の背後を取った。

いつもなら素早く判断し、害があると判断した時点で何も言わずに首を刎ねる井上先輩が珍しく首元に剣を突き付けたまま話し始めたのでこれはいつもと違うと思い近くの木へと飛び移るとそこには高校で同じクラスにいた山下さんを含めた数名がほぼ裸もしくはそれに近い格好でいた。パッと見ただけでも半数以上は見覚えがある気がするからきっと同じ高校にいた人なんだと思う。だけど、クラスメイトに興味があまりなかった僕では名前が出てくるのが山下さん1人だけだ。ただ、井上先輩が剣を突き付けている1人は良く知っている。なんせ、井上先輩が近くにいると落ち着けるのと言っていて、山本先輩が想像もしていないような行動をしたり、感情表現をするから見ていて飽きないやつと言っていた先輩たちのクラスメートの女子だ。名前は知らないけど何度か僕も彼女には同情したのでよく覚えてる。だって、井上先輩が彼女の近くにいると安心できるのと言って近くに居続けてみたり、反応が面白いと言って山本先輩が観察対象として記録を取っているのを見れば同情せざる負えないだろう。というか、山本先輩の場合はこう伝えるのとこう伝えるのでは同じことを伝えているのに全く反応が違ったと言ってノートにメモしているのを見た。あとでこっそりとそのノートを見てみたけれどそこに掛かれている内容は小学生の観察日記よりも非常に細かくてちょっとだけ引いた。というかなぜ、ゴキブリは何に使う?という内容で会話をした記録があったのかは非常に謎である。

そんな思い出に浸っていると井上先輩が無表情なのに非常に困ったオーラが出ていたので仕方なく先輩の手に向かって矢を構えた。一瞬で気がつかれて何の真似と聞かれた時はなんて答えようかと悩んだのだけれども、そのすぐ後に好意を抱いてるのを知ったと言われて何のことだかさっぱり分からずにどうでもいいことと言ってしまったのは失敗だったらしい。保護すると決めてから山下さんに滅茶苦茶睨まれることになってしまった。だけど、今更訂正もできないし、そもそも先輩達はほぼ全裸の女子や下着姿の女子を見ても何も感じていないようだけど、僕は普通の男子高校生(仮)なので無理です。というわけで、視線を非常に感じるけど一切気にしないことにした。

それよりも僕は先輩に対して人であってほしいといった自分に驚いている。はっきり言って井上先輩は殺すことに一切の躊躇いを見せないけどそれは先輩が部長とは部員を守り導くものだと考えているからであって、僕ら以上に殺しに対して忌避感を持っているのは知っているし、人を殺した後はしばらくの間悪夢にうなされているのも知っている。逆に僕と山本先輩は殺しに来る相手に対して一切躊躇いなく殺せるようになってきていて、殺した後も一切罪悪感とかを覚えたりしていない。たぶん、血を吸いに来た蚊を退治するのと大差がなくなってきているのだと思う。そういう意味ではきっと一番人間なのは井上先輩だと思う。

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