1日目 彼女は再開する②
「ねえ、井上君何?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「……」
井上君は何も言わずに刃物を首に突き付けてきたまま全く動かなかった。
私はどうしたらいいのか分からずに他の子たちを見てみた。だけど、みんな固まっていた。中には足元に水たまりを作っている子もいたけどそこはスルーしよう。
5分か10分か、それ以上の時間がたったかもしれないしそうでないかもしれない。そんな時井上君が私に刃物を突き付けたまま少し上の方に視線を向けて言った。
「まっちゃん、何の真似?もしかして自分に好意を抱いているのがいると知ったから守ろうとしてるの?」
しばらく風の音と草木の擦れる音のみが聞こえていたが近くの木の上の方から声がした。
「違いますよ。僕はそんなどうでもいいことであなたたちと敵対しようだなんて考えませんよ!まったくもう。
というか、化け物ですか?あなたは?」
「ひどい!」
井上君は一瞬おちゃらけた感じで言ったが再び低い声で「で?」と言った。
「僕はまだ人でありたいと思っているんですよ。できれば先輩たちにも人であってほしいと思ってます。」
その声はとても真剣であることが分かる声だった。
「そう。それで僕の右手に向けて弓を構えたんだね。僕がもしこの女子たちが不審な動きをした瞬間に斬り捨てると分かって。だけど、まっちゃん。勝算はあるの?」
「ありませんよ。頑張って二射高速で放つことで先輩からそこの女子2人が離れる隙を作って。あとは女子が逃げていくのを追わせないように弓でけん制を続けても5分稼げたいい方でしょう。あなたがその気になれば僕を殺すことも簡単でしょうから。」
その声はやけを起こしている人の声だったが、それ以上に内容が衝撃的過ぎて私自身感情が全く追いついていない。
井上君は少しだけ笑いながらしゃべりだした。
「まっちゃんの狙撃技術なら素早く移動しながらこちらを射ってこれば十分に僕を殺すことはできると思うよ。だって、ここは森で遮蔽物は多いけど矢が通れるだけのスペースがあれば確実に射貫くぐらいの技量は持ってるじゃん。」
「そうですけど、それをものともしない直感の持ち主でしょうが、あなたは!」
「そうだね。だけど、それならなんで死ぬかもしれないのに挑もうとしてるの?」
井上君がとても不思議そうな声で言った。
「あなたは初めから僕のことも彼女たちのことも殺す気はないでしょうが、少なくとも彼女たちがあなたに危害を加えようとしない限りは!」
木の上からとても明るい声で堂々と言い張った。
「ククク……アハハハ!」
井上君は最初は笑い出すのを堪えていたようだけどすぐに声を上げながら笑い出した。
「そっか……仕方ないね。いいよ。まっちゃんに免じて全員を受け入れようか。」
井上君はそう言うと私たちの首に突きつけていた刃物を下げた。
私たちは突然のことでどうしたらいいのか分からずに固まっていると山本君が私の顔を覗き込むようにしながら声をかけてきた。
「来ないの?もうすぐ日が暮れて夜になるよ。
さすがにその格好で外にいたら風邪をひくよ。」
「え、あ、うん。
みんな、行こうか!」
私は呆然としている部員に声をかけてから彼らの後ろに着いていった。そんな私の行動を見て他の子達もみんな私の後ろを恐る恐る着いてきた。




