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終章•すべての果てに……㊁

みながいる山の斜面へ上り着き、予定外である〈ムー〉とダダ王ーーそして、オリとソルビに、ビクが再会を果たしたところでーー突然、誰かが叫ぶのだった!


「穴が閉まるぞっ!」


山に集う大勢の人々が、一斉に見上げるとーー高い上空から、二羽のすがたが、ぴゅーっと下へ、降下してきた!ーーちょうどそのとき、《光のドーム》は、開いていた最後の口を、ぴたりと閉じるのだった。


ーー《結界》が、ついに完成した。


安堵したのも束の間、ジェラがはっと顔を向けるとーーさきほどビクとカークのすがたが見えた、《結界》へ入り続く人々の流れは、完全に閉ざされてしまっていた。

ジェラの胸に、ズンっ……と、重い痛みが打ち込まれる……。

強張る肩に手がのり、横を見れば、ビクも同じ先を眺めていた。

〈鷲〉と〈カラス〉は、山の斜面へ着く直前ーー黄金色の光に包まれると、次の瞬間にはーー息を詰めた人々の先に、二人の人物のすがたが、現れた。

ワッズの身体が、ぐらっと傾くーー近くにいたデンが、さっと手を伸ばして支えた。

「……すまない」

疲弊に掠れた声は、〈カラス〉のときの甲高い鳴き声とは違い、落ち着いた、厚みのある低音だった。

初めて見るワッズのすがたは、まさに、みなが想像していた通りの容姿だった。ーーただ、本来ならば、そのきりりと引き締まった、彫りの深い明敏な顔立ちに、勇武な光を映していたであろうが、今は一世一代の大仕事を無事成し遂げ、その精気が希薄に、代わり刻まれた皺が目立って見えた。

そして、マーロのほうも、その身にかなりの傷を負っていた。

青ざめた顔のオリが、すぐに駆け寄ろうとしたが、マーロはすっと手をあげ、それを制した。


今ーー老人の顔の前には、《九つの光の玉》が、輪になって浮いていたーーー


〈キューア〉のメンバーたちは、みな黙したまま……魅入られ、吸い込まれるように……美しい《光の玉》を見つめた………


これが……自分の《魂》…………


神秘的な《光の玉》は、一見どれも同じように見えたがーーメンバーたちはそれぞれに……ちがう《光の玉》を、見つめているのだった……。

マーロが、口にくわえていた〈水晶の指輪〉を、そっと右手の中指にはめる。

長い時を経て、真の主のもとへもどった〈指輪〉は、内から煌々と光を放ち、節の浮いた指から腕へーー全身へとーー誰の目にもはっきりと、眩い光の流れが溶けていった………

するとーーそれまで老人の身にあった傷が、明らかに癒えていくのだった。


••••••どんっ!••••••


突如、くぐもった爆発音が響くーー凄まじい衝撃波が、《結界》を揺らした!

人々は思わず、腰を抜かして蹲り、恐怖に駆られた悲鳴が、《光のドーム》に満ち満ちた!ーー


ついにーー〈ナリアの山〉が、〈噴火〉したのだ!


二度、三度ーーそれは大太鼓を打ったような、身体の芯まで響く音は続き……そのたびに、強い衝撃波が、《光のドーム》を揺らした………

飛んできた、なにか大きな塊やーーあらゆるものが、山を覆い包む《虹色の光》を襲ったが、それらはどれひとつとして、《結界》を貫通せず、なかにいる人々は守られた。


すると、突然ーー辺りが真っ暗になる。


それまで、ぼんやりと見えていた外の景色が、一瞬にして、深淵の闇に覆われた………

《結界》のなかにいる人々は、身を寄せ合い……この世のものとは思えぬ現実に……ただただ絶望し……声なく震えていた………


どれくらい、時間が経っただろうかーーー


静かなすすり泣きが聞こえる、《結界》のなかにーー新たな音が響いたーーー


「……〈雨〉……」


ジェラは、長いこと蹲っていた身体を、ゆっくりと立ち上げる……。

《結界》の光に、薄闇が満たす周りで、そこかしこから、立ち上がる気配がした……。


「〈ナリアの目〉が光っている……」


マーロの声にーージェラの手がぱっと、〈耳飾り〉へ触れる………

刹那ーー人々の驚く声が溢れた………


それまで深い闇に包まれ、なにも見えなかった外の世界にーーいとも幻想的な……〈青い雨〉が、一面に降り広がっていた…………


「……〈女神ナリア〉の、真紅の怒りを鎮めるとき……」


マーロの、震えた声が響き渡るーーー


「……最後に残るは、〈青き花〉の……清冽さ……」


〈瑠璃色の雨〉を眺める、灰色の瞳からーー熱いしずくが流れ落ちる……。


「私は、あの〈伝説〉の本当の意味を……わかっていなかった……」


マーロが深く……息を吸う……。


「この美しい〈雨〉たちが、すべてを洗い流し……再び大地に、〈息吹〉を与える……」


まるい目を大きく開き、嬉しそうに雨を見ている、ソルビを抱いたオリが、幼子のやわらかな頬に、額をあてる……。

「かなしいの……?」

ソルビの心配そうな声に、静かに涙を流したオリは、目を閉じたまま、首を振った。

「ううん……嬉しいの……ありがとうって……」

小さな手が、優しく頭をなでるのだった。


「あの子たちが……〈山の子〉たちが……〈女神ナリア〉のもとで、この〈瑠璃色の雨〉を、降らせている……」


見上げ、流れるままに、涙を光らせたマーロの顔に、かつての〈子どもたち〉へ向けていた、心からの微笑みが、もどるのだった……。



〈青い雨〉が止んでいくと共に、ようやく辺りが、明るくなってきた。

いつの間にかーー東の空に、新たな一日のはじまりを告げる、輝く朝日が、顔を出していた。

《結界》のなかを満たした、そのあたたかな光にーー誰もが、言い知れぬ力を、もらうのだった……。

聞こえる音は、なにひとつなくーー外の世界は、ひっそりとした静寂に、包まれていた。

マーロがワッズへ、目を向けるーー本来の勇ましいすがたを、取りもどした老年の男は、大きく頷いた。

二人は、それぞれの〈魂具〉ーー〈水晶の指輪〉と、〈ガラスの小瓶〉に、手をあてると、目を閉じて握る………

人々の息を凝らした先ーー《光のドーム》の頂点に、小さな穴が、現れたーーー

静寂に、ざわめきがうまれる………

清らかな、真澄の空を映した穴は、みるみる広がっていきーーやがて、山を覆い包んでいた《結界》すべてが、完全に消え去るのだった。

目の前に広がる光景にーー誰もが声を失い……茫然自失と……立ち尽くした………


「……なにも……ない……」


水底のようなしじまにーー虚ろな声が響く……。


昨日までーーそびえ立つ〈銀細工の城〉を中心に、華やかに栄えた帝都があった場所はーーたった一夜にして、轍の跡一つ、基石のかけらすらも残らずーーどこまで続くーー広大無辺の、まっさらな土の大地と、化していた。


「兄上……」


ダダ王が、見えるものはなにもない景色を前に、掠れた声をもらす……。


「あんたの兄貴は、自分で自分の《道》を選んだ」


王が振り返るとーー木の一本すら見当たらず、茫洋たる土の大地を打ち眺めていた黒い瞳と、合わさるのだった。

「くだらねえ幻想でも、最後まで《神の道》を進んだ。 ぶれずに頑固な芯があるとこは、やっぱり兄弟似てるのかもな」

ダダ王の目が、朝日を受け黄金色に輝く髪をした、青年の足下にとまりーーはっと見開かれる……。

「足が……」

ビクは下を見やると、とくに驚きもせず、肩をすくめてみせた。

〈キューア〉のリーダーの足下は今やーー他のメンバーたちと同じように、うっすらと半透明に透け、山に生える草の色を映していた。

いたって冷静なビクが、低く声を継ぐーー

「〈城〉の近くで避難を呼びかけてたとき、ミゲに会った。 俺はあいつに、《噴火》のことを伝えた。ーーけど結局、あいつはあんたの兄貴と、〈城〉へ残ることを決めた。 兵士のやつらも同じだ。 逃げ出した、一部のやつらをのぞいて、ほとんどの兵士が、帝国の〈神〉であるあんたの兄貴を信じてーーまさか〈リグターン〉が、滅びることはないだろうと信じてーー恐ろしさに負けず、馬鹿げたことに、あの〈城〉へとどまった」

どこまでも冷ややかな声が、ざらりとした余韻をもって消える……。

深重な沈黙が訪れーージェラの横にいた〈神獣〉が、かおを向けたーーー

エメラルドグリーンの瞳が、褐色の瞳を見つめるーーーその吸い込まれそうな光が、深い水底へ落ちていくように……消えていく……白い瞼が、静かに幕を下ろした………

清澄な陽に輝いた、白銀の美しいからだが、ゆっくりと……倒れていく………


「〈ムー〉がっ!……」


ジェラの叫び声が響く!ーー


••••••バタンっ••••••


やわらかな草の上へ倒れた〈ムー〉に、ジェラの手が触れれば、まだぬくもりがあったが、〈神獣〉はすでに、息を引き取っていた。

「そんな……そんな……」

激しい動揺が襲い、震えたジェラの双眸から、涙がとまらず溢れ出す………

森のなかの建物で、はじめて〈ムー〉のすがたを見たときのことが、鮮明によみがえるのだった………

思い返せば……ジェラはいつも……今目の前に横たわる、美しい〈神獣〉に、助けられてきた………

〈月の民〉のもとへかえすと……約束し誓った……それなのに………


「……私のせいだ……私のせいで……」


「それはちがう」


「私があのとき……〈ムー〉を残していれば……」


「ジェラーー」


「私が殺してしまった……私のせいで……」


ぽたぽたとしずくの落ちた手が掴まれ、ジェラが顔を上げるーー

膝をついたマーロが、〈神獣〉の亡骸をはさみ、向かい合っていた。


「落ち着いて、よく聞きなさい。 〈ムー〉はバルダナが、二つの〈魂具〉をつかい、強力な呪術でよみがえらせた。 バルダナと、その〈魂具〉が消え去りーーもう半分の力である、私の〈水晶の指輪〉が、今このときだとーー〈神獣〉のからだを、離れていったのだ。 いずれ、訪れることだった。 君の行動とは、一切関係のないことだ。 決して君のせいではない」


静かに語られる声を聞き、激しい動揺の波は去っていったがーージェラはそれでも、深い悲しみが……ぽっかりとあいた喪失感が……消えることはなかった……。

〈水晶の指輪〉がはまる、あたたかく皺の刻まれた手が離れる。震えのおさまった白い手が、すでに冷たくなりはじめた、動かぬ白銀の身の上に置かれた。


「私が思うに……」


マーロが立ち上がり、深々とした声を継ぐーー


「これでようやく、〈ムー〉は本当の眠りにつくことができる」


「それ、どういう意味だ……」


ビクが、鼻の詰まった声に言う。

老人は、深長な間をあけて、口を開いた。


「今から言うことが、たしかなことなのか、もはや誰にも知り得ない。ーーただ、私が考えるに、〈ムー〉が〈月の民〉の聖域で、氷塊のなかに眠っていたときーーそれは、完全な〈死〉を、迎えた状態ではなかったのだと、そう思う。 つまり、なぜそうなったのかはわからないが、〈ムー〉はなんらかの理由で、生きたままーー氷のなかに、長い年月、眠りについた。 だからこそ、バルダナが再び、〈ムー〉をよみがえらせることができたのだ」


「それは……なんだ……つまり……冬眠的な……?」


太い眉の間に、険しくしわを寄せて、ビクがつぶやく。

老人は、頷いた。

「ふつうの生きものであれば、そのまま死んでしまうだろう。ーーしかし、〈神獣〉となれば、命の灯りが完全に消えることなく、ごく小さな灯りとなって、氷のなかに、灯し続けられていたーー」


「ってことは、そのバルダナってやつが、〈ムー〉を生き返らせたわけではなかったってことか?」


「どれほど強力な呪術を使おうともーーどれだけ闇の領域に手を染めようともーーたった一つだけ、呪術師にとって、不可能なことがある」


灰色の瞳がーーワッズへ向くーー男は目顔に頷き、引き結ばれていた口を解く。


「一度完全な〈死〉を迎えたものを、再びよみがえらせることだ」


みなの視線が、〈ルリンデラ〉の仲間のすがたを、見つめるのだった……。


「……でも……私たちは……」


マーロの瞳が、揺れるはしばみ色の瞳へ向くーー


「今のきみたちはおそらく、もとの世界にいたときの、真のすがたではない。ーーこちらの世界で、新たな身体に《魂》が宿り、それをバルダナが《朱色の壺》へ、集め封じ込めていた」


みなの真ん中ーー宙に浮く《九つの光の玉》は今ーー早朝の澄み切った大気に、まるでゆっくりと溶けていくように……はかなげな光に、なりつつあった………


「……ほとんど同じようで、〈生まれ変わり〉と〈よみがえり〉の、違いってことか……」


ビクが低く、つぶやいた……。

ジェラはじっと……息を引き取ってもなお、気高く神々しい、〈神獣〉のすがたを、見つめていた……。

そして……下草のすがたが透け見えた、消えつつある自分の足を、眺める……。

ジェラは最後に、豊かな白銀の毛を優しくなでると、濡れた頬を掌に拭い、静かに立ち上がる。


「マーロさん、お願いがあります」


褐色の瞳が、灰色の瞳を真っすぐに見据えるーーー


「〈ムー〉を、ダダ王と一緒に、〈月の民〉のもとへ、おかえしいただけませんか」


少女の視線がーー空中に消えつつある、自分の《光の玉》を見つめ……再び、老人のすがたへ向くーーー


「それだけが、私の心残りです……」


マーロは、その身体が薄れつつある、〈ナリアの目〉を務めた少女のすがたをーーその顔に浮かんだ、はっとするほど強い眼差しにーー深く、頷いた。


「約束する。 必ず、かれらのもとへ届けよう」


ジェラの顔にようやく、安堵の明るい笑みが、広がるのだった。

それを見届けた、マーロの瞳が、王へ向くーーー


「ダダ王、これからはあなたが、兄上に代わり、この地を治めていくべきです」


ダダ王の瞳も、真っすぐに、灰色の目を見つめていた……。

広大無辺の大地に、ただ一つ、ぽつんと残された山にいる、すべての人々の視線がーーダダ王へと、向けられていた………

やがてーー王が、固く結ばれていた口を解くーーー


「私は、ナダと共に、これまで分断されていた、北ーー南ーーそして、この地を合わせて、かつての父上の時代のときのように、ひとつの国としてーー統べようと思う。

これからは区切り、分断するのではなくーー手を取り合い、強く繋がりーー広く共に、力を合わせるのだ」


まさにそのときーー天に昇った日輪が、凛々しい王の顔とーー茫洋たる土の大地をーー荘厳な光に染め照らし……祝福する………


「〈リガラ王国〉ーーそう名付けようと思う」


光と静寂が満たした世界にーー新国王の声は、澄みやかに響き渡った。


「では、新たな国のはじまりにーー」


マーロのすがたが、一本の、亭亭たる〈ノキの木〉へ、歩み寄っていくーーー

立派なその幹に、〈指輪〉のはまる右手を、あてるのだった。

見つめる人々の、息をのむ音が細波立つなかーー老人の手に触れられた〈ノキ〉は、輝く光に包まれーーたちまちに、小さくなっていった………

眩しい光が消えたときーー天に見上げるほど高さのあった木が、生まれたての、愛らしい〈十本の苗木〉と、なっていた。

マーロは、植わる〈苗木たち〉を前に、両の手をまるくすくうように動かすーーすると、〈十本の苗木〉は、みなひとりでに、たくさんの根をつけ下げたまま、宙へ浮き上がるのだった。

広げられた手のなかへ、導かれるようにやってくると、マーロはそのまま、山の下に広がる、まっさらな大地へ、向き直った。


「木々を切り倒すのが、愚かな人間であればーーその木々を植えることができるのも、また人間であるーー」


厳かに放たれた一節はーー王を含めーー人々のなかに、不思議な力をもって、こだますのだった………

マーロが、両手を前へ差し出すとーー〈十本の苗木〉は、スーっ………と、生まれた雛鳥たちが、はじめて巣から外の世界へ飛び立つように、いとも軽やかに、離れていった………


山にいる、身分を越えた一人ひとりの人間が、それぞれの思いに、眺め見守るーーまっさらな大地へ、最初の〈命〉が、息づいた。

そのすがたはーーこれから先の、未来へ向けた、進むべき《道》の景色を、あるものたちに重ねーー示しているかのようだった。


「生きとし生けるもの、すべてにとって……豊かな国にしよう……。 焦らず、一歩ずつ、時をかけて、丁寧に進んでいこう……」


王は大地を見つめ、静かにつぶやいた……。


一陣の風が、山のなかを吹き抜けるーーー


「あんたら双子の王様なら、ひょっとしていい国ができるかもな……」


ダダ王が振り向きーー青年と目が合う。

ビクの身体はすでに、胸の下までが、半透明になっていた。

悲しみを湛えた王の瞳が、ビクからジェラへーー〈キューア〉のメンバーたちーーそして、マーロへとまるーーー


「本当にもう……手立てはないのか……」


苦しみが滲む声に、老人はゆっくりと、首を振った。


「ダダ王、これでいいんです」


王の瞳にーージェラが映る。


「この世界で私は、強くもつことができなかったーー自ら、断ち切ってしまった、〈生きる〉ということの意味を、教えていただきました。 自分ひとりのために、生きるんじゃない。 周りにいる、顔を知っている、繋がりある人はもちろんのことーー顔を合わせたこともない、話したこともない、けれども確かに今、同じ大地に立ちーー同じ空を見上げーー共に息をし、かけがえのない日々を生きている誰かのために、自分に与えられた限りある時を使うことーー今度はそれが、できたと思います」


アリー、ビク、カーク、デン、エンダ、フルロ、ガル、インナがーー頷いた。

先に旅立った、ハイリのすがたを見るように、天を見上げた、メンバーたちの顔は、みな晴れやかだった。

王とマーロの瞳が、若者たちを眺める。


「きみたちには、どう感謝の気持ちを伝えればよいか……ふさわしい言葉が、見つからない……。 そして、兄上のこと……本当に申し訳なく思っている。 すまなかった」


ダダ王が深く、頭を下げるのだった。


「バルダナのことーー〈ルリンデラ〉の争いごとに、きみたちを巻き込んでしまった。 このとおりだ……」


マーロが言い、深々と身を下げる。ーーワッズ、オリ、そしてソルビも真似て、身を下げるのだった。


「しめっぽいのはごめんだな」


ビクの皮肉を込めた声に、メンバーたちの笑い声が同意する。

王の顔が、ゆっくりと前を向いたときーーその瞳が、真っすぐにジェラを見つめた。

ダダ王は、少女のもとへ歩み寄ると、すっと手を差し出す。

短い間にーー白い手が、差し出された手を握る……。

二人の手が固く結ばれた、一瞬間……王の腕に、力がこもるーージェラは、腕が引かれるような感覚を覚えたが……それはすぐに、消え去るのだった。


「きみとはゆっくり語り合い、これからの国のすがたを、そばに見守ってほしかった……」


王を見つめる褐色の瞳がーー大きく見開く……。

ジェラは胸に、熱いかたまりが湧き広がるのだった……。

そのまま見つめ合う二人にーービクの強い咳払いが、割って入った。


「ありがとうございます。 王の心の空に、見守っています。 どうかお元気で」


ジェラは最後に、笑顔を向けると、握っていた手を離すーーダダ王の手は、少しの間、そのまま宙へ残っていた……。


「……そろそろだ」


マーロの低い声が響く。

見ればーー宙に浮く《九つの光の玉》は、陽が差し明るくなった大気に、もうまるい輪郭だけが、残っているだけだった。


メンバーたちは、誰が言うでもなく、《輪》になって集まり、静かに目を閉じた………


「ソルビ!ーー」


突然響いたオリの声に、閉じられた瞼が開くーーー

メンバーたちの視線の先ーー小さなソルビのすがたが、駆け寄ってくるのだった。

涙に顔を濡らした幼子は、山で摘み、〈ムー〉のもとへ添えていたのと同じ、〈紫色の美しい花〉を、ぎゅっと結んだ口に、大粒の涙をこぼしながら、一人ひとりに、手渡していった。


「ありがとう」


最後に、ジェラが受け取る。


「泣きたいときは、もう我慢しないで、思いっきり泣いてね。 ソルビちゃんには、優しいお母さんが二人もいる。 それに、ソルビちゃんの心のお空に、悲しい雨が降っても、私が〈ポポの花〉みたいに、黄色のお日さまとなって、明るく照らすから」


ソルビは頷きーーぎゅっとしていた唇が開くと、途端に、大きな声をあげて、泣くのだった。

それは、いかにも四歳の幼子らしい、すがただった。

静まり返った山のなかにーー生気ある音が響くーーー

マーロは、あたたかな笑みに見つめ、幼子を迎えにきたオリが、目に涙を湛え、愛おしそうに抱きあげる。

オリは最後に、深く頭を下げると、泣いているソルビを腕のなかに、離れていった。


「そんなこと言う柄じゃねぇけど、手を繋いで、いかないか」


ビクの声にーーメンバーたちが笑顔で頷くーーー


ソルビからもらった〈花〉を、胸のポケットへさすとーーアリー、ビク、カーク、デン、エンダ、フルロ、ガル、インナ、ジェラの九人はーー互いの手をとり、再び《輪》になって、目を閉じた………


握るビクの手に、ぎゅっと力が込められるーージェラが目を開けた瞬間ーー優しい口づけが、されるのだった………


《光の玉》が、天へ舞い上がるーーーー


メンバーたちのすがたも、天高く舞い上がったーーーー


煌めく光がはじけるとーーもうそこに、若者たちのすがたはなかった。

青く澄んだ蒼天を、真白の布が、渡っていくーーー

〈九つの、紫色の花〉が、やわらかな風にのって、流れていくーーー


それは、ごく稀にしか、咲くことのない花ーーー


「〈リューレの花〉……」


マーロが、真澄の天を振り仰ぎ、囁く………


「花言葉はーー〈思いに光りこだます〉………」

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