表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/33

第九章•導き㊀

「ダダ様ーー」


ゾンは、〈銀華の間〉の横にある、階段から現れると、目の前に立つ王へ、声をかけた。

だがーー王は背を向けたまま、人影のない長い廊下の先を、じっと見据えていた。

ミゲとの会談の席に、ダダ王は、側近であるゾンをはじめ、他に誰一人部屋へ入ることを許さず、それはまた、相手に対しても、同じ条件を求めたのだった。

二人の人物がそうして、部屋での話し合いをしているあいだ、残されたゾンと数人の兵士たちは、上の階に用意された、別の部屋で待機していた。

それでも、なかなかもどる気配のない王のすがたに、時間にしてもそろそろかとーーゾンは一人、下の階へ、様子を見に下りてきたのだった。

けれども、今ーーゾンは、王の背から伝わるものに、微かな不安が胸に湧く……。

とーーダダ王が、口を開いた。


「ゾン、発つのは明朝にして、今夜はこの〈城〉に泊まっていく。 他のみなにも、そのように伝えてくれ」


「かしこまりました」


ゾンは、王の背を見つめたまま、静かに答えるのだった。

二人の周りにはーー静寂が包んでいた。

「ーーなにも聞かないのか」

ダダ王が、背後にいる側近へ言う。

その側近は、冷静な声で、答えるのだった。

「私の役目は、いついかなるときも、王の下されたご判断ーーご命令に、この身を尽くすまでです」

ゾンは、背を向けている王が、小さな苦笑を浮かべるのがわかった。

ダダ王が、ひとつ息を吸う。

「そうか……けれど私は、おまえをそのようには思っていないな……。 信頼できる側近でありーーいついかなるときも、心を分かち合える、大切な〈友〉だと思っている」

王の言葉を聞いた、ゾンの瞳にーーうっすらと光るものが映る。

側近はさっと、王に礼を向けた。

「……もったいないお言葉です」

ダダ王の身が、ゆっくりと振り返る。

強い光を宿した眼差しがーー側近のすがたを、真っすぐに捉えた。

「ゾンーー私は今から、〈一つの賭け〉に出てくる」

王の声はーー静かななかに、決然たる気魄が、満ちていた。

「とてもばかげた、愚かなことかもしれない。 だが、己の直感をーーこの場に、信じてみようと思う」

ダダ王はまるで、自分自身にも深く言い聞かせるように、一言一言、噛み締めて、口にするのだった。

「承知しました。 では、私も……」

側近の声をーー王の声が遮るーー

「ゾン、この〈賭け〉には、私一人で行く」

途端ーーゾンの瞳が、僅かに揺れるのだった。

「ですが……」

「私を信じて、他のみなと共に、ここで待っていてくれないか」

長い沈黙があきーー揺れの消えた瞳が、王の顔を見つめる。

「わかりました。 ですが、これだけは約束してください。 くれぐれも、ご無理はなさらず、身の安全を第一に、必ずーー明朝までには、ご無事でおもどりくださると」

王の瞳がーー強く、腹心の友の瞳を見据えるーー

「ああ、約束する。 必ず、無事にもどろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ