第6話「NY・帆船襲来」(その1)
「ギャーア――」
そんな叫び声で弘明は目が覚めた。
ベッドに起き上がっても、なにが起こったのか分からない。
叫んだ声がエンボス仕上げの天井にあたり、まだ轟いているような気がした。
深呼吸をしながら、自分を落ちつかそうとした。
そして、どうやら夢を見ていて、その夢に浮かされて大声を上げたのではないかと、悟りはじめていたのである。
弘明は立ち上がり、ドアの前に立って外を窺った。
―― なにも聞こえない、人の気配もない ――
どうやら自分の叫び声に反応した者はいない。
そう思うと、少し胸を撫でおろした。
それでも念の為にドアノブを回してみた。
大丈夫、鍵は掛かっている。
そしてドアノブの上にドアチェーンがあり、寝る前にかけたので、細い鎖がきっちりと掛っていた。
それを見て、ようやく安堵した。
なぜかと言えば、部屋の施錠が不安だったのだ。
実は、ホテルへ着いて部屋に入る時から気になっていた。
確かに今度はフロントで宿泊の予約票を見せて、無事にチエックイン出来た。
だからスーツケースを引っ張り、エレベーターで部屋に入り、そして鍵を掛けた。
そこまでは問題なかった。
ただその時ドアチェーンを見て、その乱雑な修繕と頻度に驚いたのだった。
それはリングのついた金物を、ドア枠にビスでもんであるのだが、その止め跡が幾つもあった。
それはドアが何度も壊され、その度にビスを打ち直した跡でしかなかった。
多分弘明は、部屋に入った時から神経質になっていたのだろう。
なにしろSFのホテルを出てから、NYのホテルに入るまで約10時間、緊張の連続だった。
その間、興奮もしたが、ホテルも間違えた。
それが大きかった。
思った以上に、心臓に悪かったのであろう。
加えて時差――、
サンフランシスコとニューヨークでは3時間違う。
早朝に出て午後にはNYへ着いたが、ホテルに入ったのはもう夕方。
どうも体内時計が狂っていた。
自分の声で飛び起きた弘明は、もう一度チェーンを引っ張り問題ないと判断した。
(つづく)