第5話「NY・悪戦苦闘のはじまり」(その1)
やがてイエローキャブは、ブルックリンを抜けてイースト川を渡り、マンハッタンに入った。
さらに市街地へ入ると、キャブの窓という窓が摩天楼の景観に溢れている。
弘明がなんども耳にした
『ニューヨークといえば摩天楼』
が、いま自分の目の前にあった。
高層ビル、ネオン、雑踏、クラクション。ニューヨークが目の前に広がる。
それに、空を飾る派手な広告の数々――。
おまけに道行く人はニューヨーカー。
すべてが輝き、沸騰し、街は今にも爆発しそうなエネルギーを発している。
それを弘明は感じ取っていた。
――俺の心の中にも、これほどの熱量があったのか――
そう思わざるを得ないほど、弘明は自分の心の奥底で燃える炎を感じていた。
――これからこの街に入れる――
と思うと、血気盛んな己の魂がどうしようもなく興奮していた。
そんな街角にキャブが停まると、運転手が左の窓を指で小突きながら言った。
「You've arrived!」
その指の先を見れば、歩道への数段の階段があり、その上の踊り場にベルボーイがいた。
「Is this my hotel?」
そう運転手に尋ねると、
「ヤッ――」
と答えて、運転手は外へ出ていく。
慌てて弘明は後ポケットから札入れを出し、運転席の運賃メーターを見た。
だが表示がない。
仕方なく、札入れからドル札を数枚出した。
ドアを開けて外へ出ると、札入れを後ポケットに戻す。
体に絡むショルダーバックを直しながら車の後方へまわると、運転手はスーツケースを取り出してトランクを閉めた。
弘明は、札を握った手をポケットに入れながら尋ねた。
「How much?」
そう聞くと即座に運転手が呟く。
「80――」
百ドル札を1枚差し出す。
だが運転手――
無言で手を出し続ける。
睨む目。
(俺は……チップのつもりだったのに……)
(つづく)