第4話(その4)
白人も黒人も混じって顔も似通っている。
客探しのタクシードライバーだと見て取れた。
弘明の頭の中で『ピーポーパーポー』とアラームが鳴る。
事前に読んだツアーガイドの案内通り、彼らを無視して出口へ突き進んだ。
正規のタクシー乗り場はすぐだった。
だがそこへ行って、タクシーを待つ人並みを見た弘明は、
――これがアメリカ東海岸の現実だ――
と、改めて認識したのだった。
なにしろ男女を問わず八頭身揃い。
弘明の心の奥底から、じわじわと身体的コンプレックスが湧いてきた。
それほど、人々の姿といい立ち居振る舞いが洗練されていた。
――いざ、ニューヨークの街へ――
そう思うとまた緊張した。
思わず弘明は胸を張り、臍下三寸に力を入れた。
そこへイエローキャブがやってきて、スーツケースをトランクに入れるとバックを持って乗り込んだ。
だがその豪勢な皮張りシート、それが妙に冷たい肌触りで、背中を当てることさえ憚られた。
弘明の背丈で奥深く座れば、運転席との距離がかなり遠くなる。
そこで運転手を見れば、顔や腕が透き通るように黒い。
初めて接する雰囲気だった。
その彼がなにか言ったが、生の英語が聞き取れない。
だが弘明は慌てなかった。
なにしろタクシーに乗って運転手が聞いてくることは、自ずと世界共通で決まっている。
胸ポケットからメモを出すと運転手に渡した。
運転手は発進させた車のハンドルを片手で操りながら、そのメモをチラット見る。
そして無言のまま指で挟んで返してきた。
イエローキャブは幾何学的な通路を抜けて、巨大なジャンクションの輪の中へ。
その間、運転手はラジオから流れるジャズに気を取られているのか、黙ったままだった。
アメ車の大きさは想像以上で、どこか建築基準法も違うのか、道路のカーブや傾斜も大きすぎるような気がする。
おまけに左ハンドルの右側通行。
弘明は頭の中で、いつか教科書か何かで見た
――メビウスの輪――
の、だまし絵を見ているような気になった。
数えきれない車線に、それはもう大きなアメ車ばかりが、組んずほつれず先を争って疾走していく。
いったいここはどこなのだと思うばかりの、それは別世界だった。
そして幅広の高速道路を行くにつれ、新たに右から左から道路が繋がり、複雑に立体交差しながら一路市街地へ向かう。
それは確実にニューヨークへつづく道だった。
アメリカ最大の都市ニューヨーク、弘明が夢に見たあこがれの街……。
その街がもうすぐそこに……、目に見えるその向こうに近づいていた。
(第5話へつづく)