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第4話(その3)

だが弘明が見ている限り、スチワーデスはなにか言われる度に仁王立ちして答えている。 

その口の動きから察するに、どうも『他の選択はない』と返事しているように見えた。

客がベジタリアンなのか。

チキンもビーフもダメで、他のものを頼んでいる。

それを見ていた弘明は、『俺はビーフにしよう』と決めた。

ここはアメリカ、どうせならチキンではなくアメリカンビーフを食べてみようと、ようやく決断したのだった。

だが彼女は、その辺りから不可思議な行動を始めた。

なにしろ客の顔を見ない。

それに言葉と手が合わない。

やがて弘明の番が近づき、フォールディングテーブルを降ろして、『ビーフ』と答えようと、身構えて待っているところへ、ようやく彼女が近づいた。

バシャッ――

と、そんな音がして、アルミホイルに包まれた皿が投げてよこされた。

あっと思った途端、勢い余った皿はテーブルに添えた弘明の右手に当たり、パチンコの玉がチューリップへ入るが如く、目の前で身震いしながらようやく落ち着いた。

唖然とする弘明。

何が起こったのか、一瞬理解できなかった。

だが手元に残ったアルミホイルを見て、なぜか惨めになった。

――この日本人、田舎者のお上りさんで、破産会社の失業者――

そんな現実を突き付けられたようで、少なくとも弘明の自尊心は根底から損なわれた。

それでも腹は減っている。

腹が減っては戦も出来ない。

そう思ってアルミを開くと、その中身はチキンだった。

そして添えられた人参……長さ5センチほどのビア樽状に、上下を丁寧にカットしてある。

背に腹は据えられない。

弘明はまずそれを口に入れた。

だが味もなにもしない。

ただその人参のカットされたカーブが愛おしかった。


ドーンと機体が着陸したのは、1時間ほど経ってからだった。

随分機体が揺れたが、まずはシートベルトして、フォールディングテーブルを畳み、アルミの包みはテーブル下のネットポケットへ押し込んだ。

結局スチワーデスは、それすら回収しなかった。

下手をすると、エコノミー症候群だったかも知れない。

重い体で疲れを担ぎながら、JFK空港での手続きを終えた。

荷物は機内持ち込みのショルダーと預けたスーツケース。

だが緊張で観光気分はなし。

ギャングやマヒィヤが暗躍するニューヨーク、世界でもっとも危険な街へ向かっていると思うと、弘明は改めて自分の気を引き締めていた。

常に上着のポケットへ入れたパスポートとチケット、そしてズボンの後ポケットに入れてある二つ折りの財布に手をやりながら、人の流れに乗って広いロビーを進んでいった。

到着口を出ると、サンフランシスコとは違って、すぐに数人の男が駆け寄ってきた。


(つづく)

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