その出会いは
ある日、突然、僕は死んだ。
事故だった。
自分に突っ込んでくる暴走車を見て、僕は自分が『終わるのだ』という確信を抱いたままに死んだ。
後悔する暇さえもなかった。
しかし、今の僕は後悔をしていた。
『もっと気をつけていれば……!』
次に僕には怒りが沸いた。
『何故、僕が死ななきゃいけないんだ!』
ぐちゃぐちゃになった感情に支配される中で僕はふと気づく。
『なんで僕はこんなことを考えていることが出来るんだ?』
混乱している中、不意に声が聞こえた。
「こっ……これで……いっ、いいはず……」
聞き取りづらいどもった少女の声。
直後、僕は目覚めた。
呆然としたまま自分の体を見つめてみる。
怪我のあとはない。
まるでつい先程まで昼寝をしていて、今、目覚めたかのようだ。
「うっ、うまくいった……」
声のする方を見ると同じ学校の制服を着た少女がおずおずとこちらを見ていた。
言われずとも僕はわかった。
名も知らない彼女が助けてくれたのだと。
「君が助けてくれたのか?」
「いっ、いえ……助けたのじゃなくて、その生き返らせたんです……」
空いた口が塞がらない。
しかし、この現実を顧みれば彼女が事実を言っているのは明らかだ。
「一体どうやって……?」
すると彼女は顔を赤らめて言った。
「いくつかの呪術をつっ、使いました……そのっ……あなたの髪の毛とかっ……爪を使って……」
「随分と気味の悪いものを使ったんだな」
僕はそう言ってため息をつき、そして安堵の息をつく。
どうやら本当に蘇ったらしい。
その幸運を傍受しながら彼女に問う。
「その制服。僕と同じ学校だよね?」
「はっ、はい……2組の……」
そう言われてみれば何度か学校で見かけた気もする。
「そっか。何にせよありがとう。本当に嬉しいよ」
僕の言葉を聞いて彼女は顔を赤くして嬉しそうに笑った。
そんな彼女に少しだけ心を奪われながら僕はふと浮かんだ疑問を口にした。
「ところでよく僕の爪や髪の毛なんて持っていたね」
すると彼女は顔をさらに赤くし、僕から目をそらす。
「どうした?」
僕が彼女を覗き込むと彼女は遂に観念して言った。
「その……わっ、私はあなたのストーカーです……」
僕は少しの間、言葉を失う。
「そっ、そうなのか……」
顔を真っ赤にした彼女と同じくらい僕の顔も赤くなっているのだろうと思った。
こういう時にどういう顔をして、どう答えれば良いのか分からない。
どうにか息を整えて僕は言った。
「まぁ、その……今度お礼をしたいからご飯でも食べに行こうか」
「いっ……いいんですか?」
そらしていた目をこちらに向けた彼女の顔は輝いていた。
「命の恩人だしね。それに爪や髪の毛なんて欲しければいくらでもあげるよ」
果たしてこの返答が良いものなのか分からなかったが、満面の笑みを浮かべる彼女を見る限り悪くないものだったようだ。
「たっ、たくさん欲しいですから……その、良く伸ばしておいてください」
後に最愛の人となる少女の言葉に今の僕は苦々しく笑いかけていた。




