修学旅行6
修学旅行編最終話です。
十一時二九分
「ヤバいなもうすぐ0時になっちまう」
稲木の一言でそのことに気づいた。
消灯時間をとっくに過ぎている。
(怒られるだろうな、先生に・・・)
なんて言い訳しよう、とぶつぶつ呟いている誠と
(稲木先生とお兄ちゃんの説教か・・・)
なんて説明しよう、と悩んでいる麻衣が同時にため息をついた。
森の出口が見える。
稲木の言うとおり森の外は吹雪だ。
「向こうまで行けますかね」
森の外を眺めながら誠が口を開いた。
「何とかなる」
頼りは稲木先生だけなの何とかしてもらわないと困る。
程なくして森の出口に着いた。
予想通り来た時の足跡は綺麗に消えているようだ。
目を凝らしても誠達の宿泊している宿の光は全く見えない。
ふと稲木のおぶっている武志に目をやった。
毛布をかけたといっても、所詮はリュックに入っていた非常用の毛布。
寒いのだろう、唇が紫色になってきている。
早くしないとヤバいかもな。
そう思っていた誠の目に稲木が映った。
「?」
稲木はどこか一点を見つめていて全く動かない。
「先生?」
誠の言葉に麻衣も稲木の異変に気づいたのか
「先生?どうしたんですか?」
と、声をかけた。
「・・・アレ・・・何だ・・・?」
(?)
誠と麻衣は稲木の言う『アレ』に目をやった。
目をやった先には、着物を着た長い髪の女の人が立っている。
「・・・雪女だ」
誠は誰ともなしに呟いた。
「雪女・・あれが‥」
誠達は何もできずじっと雪女を見つめていると、雪女がついて来いと言わんばかりにクルッと後ろを向いた。
「・・・付いて行ってみる?」
麻衣が誠と稲木に聞いた。
「・・・ここにいても凍えちまうし、何より武志が危ない」
どうします?と問いかけるように、誠が稲木の方を見た。
「行くか!」
武志をおぶった稲木を先頭に誠、麻衣は雪女について行った。
十一時四十三分
その頃、誠達の泊まっている宿では先生達の間で騒ぎになっていた。
「雪女について行った渡辺がまだ帰って来ないのか!?」
「渡辺を探しに行った稲木先生と連絡がつかない!!」
「話しを聞いて水城くんが探しに行ったらしいぞ!!」
「妹の水城さんもいないわ!!」
「なにやってんだあの兄妹は!?」
何人かの先生が探しに行ったが、見つからなかった。
もう外はかなり吹雪いてきている。
これはヤバいぞ!
と先生全員が思っていた。
すると突然、玄関の方から『ガラッ』と引き戸を開ける音がした。
「な、なんだ!?」
先生達が玄関へ行くと、そこには武志を今にも下ろさんと行動を起こしている稲木。
疲れたのか誠と麻衣は床に座り込んでいる。
「稲木先生!良かった」
ひとりの男性教師が満面の笑みで叫んだ。
「良かっただ~?」
それに比べて稲木は顔に青筋を浮かべながら言った。
「そんな事より早く渡辺を医務室へ運べ!凍えて瀕死の状態なんだ!」
さっきの言葉よりも更に鋭く稲木は叫んだ。
「は、はい!」
男性教師はかなり怯えているようだ。・・・まぁ当たり前なのだが・・・。
「あ・・しかし稲木先生、今ちょうど医務室の先生居なくて・・!あ、あの!少し前に電話したので二十分も有れば来てくれるかと・・・」
男性教師の言葉は最後まで言うことは出来なかった。
稲木が物凄い目で睨んできたのだろう、男性教師は固まったまま動かなくなった。
(この人のせいじゃないのに・・)
水城兄妹他、この場にいる稲木以外全員が思った。
「仕方ねぇ、とりあえず医務室に運ぶ、やり方はよく解らねえが用は温めりゃあ良いんだ!」
誠は武志を医務室へ運ぼうとしている稲木に、なるべく控えめに声をかけた。
「・・あの~、稲木先生」
「何だ?」
稲木は相当気が立っているらしい、今にも頭から角が生えてきそうだ。
「あの・・温めるの・・解んないんなら手伝いますよ?時間をかけずに体温を通常までに戻す方法が有るんです・・けど・・・」
「・・・なんでお前がそんな事知ってる?」
稲木の疑問は尤もだ。
医学というものに無関係そうな誠が何故そんな事知っているんだ?
「いやぁ、実は俺高校、看護科入ってるんですよ」
一瞬時間が止まった。
誠のことを知る先生達が全員、絶句した。
あの水城が・・・看護科・・・?
「そんな事より今は武志を早く医務室へ」
「あ、あぁ」
流石の稲木もかなり驚いたようだ。
驚かせるつもりはなかったんだけど・・・。
誠はそんなことを考えながら医務室へ向かった。
誠も偶には役に立ち、武志の体はすぐに平温まで戻った。
二十分後には医者も来てちゃんとした検査をして大丈夫だ゛という判断もでた。
これで雪女の一件は終わった。
だが誠達にとって大変なのはそのあとだった。
次の日、誠は担任の先生に、麻衣と武志が担任の先生と稲木に呼ばれ小一時間ほど説教をうけた。しかも誠は罰としてスキーは禁止。
部屋でスキー時間が終わるまで勉強をするはめになった。
麻衣と武志(特に武志)は一日中雑用をやらされた。
誠にとってきついだけだった修学旅行は幕を閉じた。
帰りのバスに乗っている麻衣は気が重いままだった。
確かに、雪女の一件は疲れたし一日中雑用ももうこりごりだ。
だがそれよりも、家に帰ってからの誠の説教があると思うと更に気が重くなる。
稲木のだけで十分なのに・・・バス・・このまま止まってくんないかな・・・。
深いため息をついた麻衣を乗せ、バスは順調に目的地へと向かって行った。
誠の説教は二時間以上続いた。
(まあ悪いのは約束を破った自分なんだし・・・)
説教が終わると、今まで立って説教をしていた誠が麻衣の前にあぐらをかいた。
誠は黙ったまましばらく向かいの窓の外を考えこむように眺めていた。
一応説教は終わったので麻衣は正座していた足を崩した。
二時間以上正座していたので足が麻痺している。
誠は二時間も立っていて平気だったのだろうか?
「何がしたかったんだろうな、あの人」
窓の外を眺めていた誠が口を開いた。
あの人とはおそらく雪女のことだろう。
「何で?」
「だって行動が意味不明だし・・・」
確かに、最初部屋にいるとき手招きをして人を呼ぼうとしたのに、崖の下に落ちた武志の場所を教えてくれたり、最後には宿まで案内をしてくれたりもした。
おかしいといえばおかしい。
二人はしばらく考えていたが、ふと誠が思い出したように
「スキー場でお前と会ったときの雪女の会話覚えてるか?」
と言った。
「うん、確か雪女は外国からきたとか子供がいたとか話したよね」
「それなんじゃないかな・・・」
「何が?」
「だから、雪女には子供がいたってゆう話」
「・・・話が見えない」
「だから・・・!」
前に乗り出すようにいった誠だったがそこで一度言葉をきり、座り直して少し下を向き呟くように言った。
「だから・・・寂しかったんじゃないかな・・・あの人」
「・・・」
妖怪に寂しいという感情があるかは疑問だが誠の言いたいことはわかった。
『雪女には子供がいた』と云う噂。
いた、という事は今はいないということと考えた方が自然だった。
誠はそのあと何も話さないまま部屋を出た。
麻衣はしばらくボーっと窓の外を見ていた。
(もし・・・本当に寂しかったのなら・・・今回の事で少しは寂しくなくなったかな・・・)
そうであってほしいと願いながら麻衣は部屋を後にした。
誰も居なくなった部屋の窓から小さな雪が落ちてきた。
その小さな贈り物は、まるで『ありがとう』と言っているように淡く輝いていた。
修学旅行編やっと終わった><。
誤字があれば教えてください^^(・・・直しませんけどww)