修学旅行2
前回の続き。
十時六分
「なによ、お兄ちゃんのバカ」
麻衣は何度もそう呟きながら歩いていた。
「ちょっと麻衣、そんな何度も言わなくても良いじゃない?」
そう言っている美紀は少し笑っているように見える。
「けど凄いね、麻衣とお兄さん。普通人の前であんな兄妹喧嘩しないよ?」
と、妙に感心しながら理沙が言った。
「なんかイラっときたんだもん」
そう言った麻衣は頬を膨らませている。
「にしてもあのお兄さん、麻衣に負けず劣らず面白い人だね」
美紀の言葉に理沙も頷いた。
「うん、私たちがお兄さんに荷担したとき『してやったり』って顔してたもん」
「・・ってかさ麻衣、私たちあの人のこと『お兄さん』って呼んでるんだけど他人のお兄さんをそう呼ぶのなんかあれなんだよね・・『麻衣のお兄さん』ってのも長いし・・何て呼べば良いかな?自己紹介もしてもらったんだし、やっぱ『誠さん』?」
確かに。誠と麻衣は二人きりの兄妹だから他の人に『お兄さん』と呼ばれるのは何か違和感がある。(誠さんもどうかと思うけど・・)
「ん~・・何でもいいと思うけど、やっぱ苗字か名前・・だよね」
「俺はどっちでもいいぞ?」
いつの間にか麻衣の隣で誠が同じペースで歩いていた。
どうやらスキー板でも立てるようになったらしい。
不器用のくせに覚えるのが早いな。
さっきの喧嘩の事はスキーのことで頭がいっぱいで綺麗さっぱり忘れているようだ。
誠のそのさっぱりした性格は、時に麻衣にとってイラっと来る原因の一つになる。
「じゃあ『水城』ね、美紀、理沙コレのこと水城クンって呼んであげて」
水城は誠と麻衣の苗字だ。
「・・・コレ・・?」
誠は微妙な表情だ。
分かった、と答えた美紀と理沙は完全に笑っている。
「・・・類は友を呼ぶってこうゆう人たちみたいなことをゆうんだろうな」
誠は小さく呟いた。
「何か言った?お兄ちゃん」
(地獄耳かコイツ)
「な、なぁ麻衣?このスキー場に雪女が出るって噂があるんだけど、知ってるか?」
無理やり話を逸らしてみた。
麻衣は初めの方こそ訝しそうな表情を浮かべていたがしばらくしないうちに首を横に振った。
「雪女って確か、白い着物を着てて何か冷たい感じの・・・?」
「一言で雪女って言っても結構色んな雪女の話があるんだ」
「そうなの?」
「雪女の話って悲しいお話なんですよね」
後ろについて来ていた美紀が言った。
理沙も、
「私は、雪女の話が外国から来たって聞いたよ。あ、それに子供がいたとか」
と話に加わり、なぜか麻衣の後ろでは雪女の話で盛り上がっている。
「お兄ちゃん、雪女の話が外国から来たってホント?」
「うん、それが意外にも本当らしいぞ?悲しい話ってのも本当だしな」
と誠は妙に自信ありげに麻衣の質問に答えた。
「へ~・・・。何で知ってんの?そんなこと」
「・・・ん~?確かなんかの本で読んだんだよ・・なんだっけ?」
麻衣の言葉に一瞬止まった誠は斜め上を向きながら思い出すように言った。
(そんなうろ覚えのどうやったらあんなに自信満々に言えるんだろう?)
と思ったのは、まぁ当り前の話で。
「麻衣~智穂がそろそろ戻らないとヤバいって~。稲木先生に怒られるよ~」
後ろにいた美紀と里沙が手招きしながら呼んでいる。
「わかった~。じゃあねお兄ちゃん」
何の本だったかな、とまだぶつぶつと考えている誠に手を振って滑っていった。
スキーは麻衣の方が上手いようで、まだ歩くことしかできない誠はちょっと悔しい。
いや、それよりも
「稲木先生か・・大変だなアイツも」
誠の知る限り、稲木は生徒が少しでもルールを犯すと説教が軽く一~二時間、加えて正座でするような人だ。
誠が中学の時、陸上部の顧問だった稲木にタイムが下がるとよく怒られたものだ。
しかも悪い時はゲンコツが飛んでくるため誠を含め陸上部の面々は必死でタイムを上げたのを覚えている。
「頑張れ、麻衣」
誠はさっき麻衣の滑って行った方に小さく呟いた。
十一時五十二分
スキーの自由時間も終わり誠たちは食堂にいた。
食堂を一通り見渡してみた、居るのは一般客ばかりで麻衣達の学校とは時間帯が違うようだ。
一時二分
昼食も終わり、自分の泊まる部屋へ向かう途中廊下の隅の方で一般客の女子たちが二、三人集まって話しをしていた。
横を通ると内容が耳に入ってきた。
「ここ雪女が出るんだって」
「嘘ぉ」
「私知ってる~もう十人近く居なくなってるんでしょ?」
「怖~」
「手招きしながら呼ぶんでしょ~」
「気をつけないとねぇ」
「連れて行かれるの嫌だもんね」
(・・・雪女の噂、ホントだったんだ・・)
妙なことにまきこまれない事を祈りながら誠は部屋に戻った。
ここの回はかなり詰まりました;;
雪女外来説・・・。どっかで見たんだよなぁ・・・。