桃木さんご夫婦。2024/05/04 21:49
俺の名前は、原よしお。介護支援専門員、ケアマネージャーをしている。略してケアマネ。介護が必要な高齢者と契約して、色んな事業者と手を組んで、ケアプランなるものを作成するのが仕事。今日この頃は桃木さんの施設入所の件でバタバタしている。
【情報】桃木 梅太郎様(88)、松子様(80)ご夫婦。ともに要介護1、松子さんが数年前に圧迫骨折し、退院してはしばらくすると再度骨折、入院を繰り返している。梅太郎さんは軽度の認知症だが、最近腰の痛みの訴えがあり、精密検査の結果癌が見つかった。
年齢や体力的に積極的な治療は希望しないとのことで、服薬のコントロールをしながら、痛みの調整をして生活することとなった。
認知症があるため、服薬がきちんとできず、酷い痛みの訴えがあると即救急車を呼んだり、夜中でもあちこちに連絡を入れることがあり、周囲は疲弊していた。
家族を交えたサービス担当者会議で話あった結果、ご夫婦ともに医療サービス付の有料老人ホームの入居を進めることになった。本人の希望する条件で施設を決めて、主治医から提供された診療情報提供書を施設へ届け、面談、OKが出て入居の運びとなった。
長かった…そこの施設は24時間訪問看護もあるし、夜中にいきなり「搬送したけど、治まったので迎えに来てください。家族さんに連絡したら本人自力で帰らせるか、ケアマネに連絡してください。と言われたのでお願いします。〇〇病院、救急外来窓口まで宜しく。ガチャリ」みたいなことはなくなるだろう。
そんな入居直前に、松子さんが入居を拒否しだしたのだ。監獄ではないので拒否されては入居は勧めることができない。しかし、梅太郎さんの病状は日々悪化している。
正直、本人が在宅がいいなら、別にそれでいい。往診医、訪問介護、訪問介護、福祉用具、訪問リハビリ…色んな事業所に支援してもらって限界まで生活するならそれでもいいのだ。
しかし、訪問すると、最初は嫌がっているのに、話しているうちに施設入居の流れになる。しかし翌日には嫌、行かないとなる。この繰り返し。この現象に名前を付けた、回転地獄車と。
結局、梅太郎さんと家族は施設を希望していたので、松子さんだけが在宅生活を続けることになった。梅太郎さんと松子さんは昔から夫婦仲が良く、梅太郎さんが施設へ入居したら、なんだかんだ言っても松子さんは施設へいくだろうと家族は思っていたが、松子さんは梅太郎さんの施設へ面会に行くこともなくマッタリと在宅で生活している。月一のアセスメント訪問へ行くときれいにメイクした松子さんが迎えてくれる。韓流ドラマが流れているリビングで近況を確認する。
外出するのが好きだと言っていた松子さんは、家での生活を満喫している。一人の時間を作るために外出して喫茶店などへ行っていたそうだ。最後は入居するって言ってたのに、どう心境が変わったんですか?
「私が行かないって言って、梅も行かないって言い出したら困るでしょ?」
梅子さんはニヤッと笑った。