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第6話《最強の妹は自粛を強制する》


という訳で、王宮での私の部屋、基、自粛部屋での三日間の拘束生活が始まった。

勿論、監視付き。その相手が誰かと言われれば——。


「ねぇ、ミュー。お姉ちゃんめちゃくちゃ暇だなぁ~。ちょっとだけお外出ていい?」

「やぁー! ねえね、お外だめぇー!」


バレンシア王国第五王女、ミュール・ウェル・バレンシア。五歳になる私の可愛い妹である。

何故、と思った人もいるだろうから一応説明しよう。

この妹、ただの妹ではない。〝審眼〟という嘘偽りを見抜く特殊な目を左目に、〝聖眼〟という聖属性を操る特殊な目を右目に持つ、産まれながらの聖女。

五歳でありながら王国の最高峰である聖法協会で聖女の立場を有し、罪人を炙り出すのに特化したその目から裁判官の職も任されている。

加えて、父上大好きフリスキーな彼女に融通は通じない。 つまり、何を言いたいかと言えば、私の見張り役としてミューは最適解なのだ。


「本当に駄目? クッキーあるよ? これあげるから、ちょっとだけ見逃して欲しいなぁ~」

「やぁー!」


と、この通りだ。


「トト様に言われてるもん! ねえね、お外出しちゃ駄目だって。だから、これは絶対!」

「ごめんごめん。もう言わないから怒んないでぇ。ほら、クッキーあるよ?」

「……うん。食べる」


ぷいっと頬を膨らませて顔を背ける姿があまりにも可愛くて、思わずクッキーを渡してしまう。

小さいお口で小さくクッキーを齧る小さいミュー。


「はぁはぁ……。何この生き物……。はぁはぁ……。お持ち帰りしたい……」

「お餅、隔離……?」


大人の階段を登った者だけが知る言葉。流石に、まだ子供であるミューには分からない言葉だ。

それにしても、本当に可愛いな。何?お餅隔離って。知ってる言葉に当て嵌めて自分なりに解釈したみたいだけど、自分で言ったのに理解出来なくて頭が?になってしまっている。

このまま行くと、かなりやばい。どっぷり嵌る。


「じゃ、じゃあ、私は魔道具開発するから——」

「ねえね、めー!」

「あ、やばっ!」


と、亜空間から素材を取り出した瞬間、ミューの右目が光る。

妹の可愛さから逃げよう逃げようばかりで忘却してしまっていた彼女の右目の力。

急いで亜空間を呼び戻し、素材を仕舞おうとするが一足遅い。

——素材が、跡形もなく消滅した。

魔道具作りの素材として一級品のメタルスライムが、妹の聖属性によって一瞬で塵にされた。


「えぇ……」


そんな訳で、自粛三日間の私の心の拠り所はまるきり潰れたのだった。


***


そんなこんなで、自粛最終日——。


「いやぁあああああ! ミュー、持って帰る! 家に持って帰るのおおおおおおお!」

「何言ってるんですか。聖女様の貴重な三日間を潰したのです。これ以上、お時間を取らせる訳には行きません。早く帰りますよ、ミューネ様」


言い渡された自粛期間の終わり際、そこに広がった光景は一般の人が見ればかなり引くと思う。

部屋の扉にしがみつく私と、迎えにやって来たサリーネが私の体を引っ張る図、である。

何があったのか、まずは結論から言おう。この三日間の自粛期間中で、私はミューにどっぷり嵌った。

だって、しょうがないじゃん!。


「ねえね、お本読んで?」

「ねえね、お菓子あーん」

「ねえね、好きぃー!」

「ねえね、膝枕してぇー」

「ねえね、一緒にお風呂入ろ?」

「ねえね……、お眠……」


こんなの、もう、世界中の誰もが嵌る。それが、三日間だ。悪人も心洗われてLETS善人LIFEまっしぐらだよ。

聖女!天使!大天使!。

そんな、私の癒しから私を引き剥がそうとするサリーネは悪!私はもっとミューと一緒にいたい。何なら持って帰りたい。


「サリーネのいけず! 堅物! 悪魔! 私はもっとミューと一緒にいたいの! 邪魔しないで!」

「堅物でも悪魔でも何でもいいですが、恥ずかしくないのですか? 十五にもなる大人が喚いて駄々こねて、それも、大好きなミュール様の前で。……私なら死にたくなります」

「……え、いや、そんな事……。ね、ねえ、ミュー? お姉ちゃん、恥ずかしくないよね? ミューも、もっとお姉ちゃんと一緒にいたいよね?」


サリーネにそう言われて、全身から血の気が引く。

自分の醜態を客観視して芽生え始める羞恥と焦り。藁にも縋る思いで、私はミューに懇願した。

ニコニコスマイル。可愛い可愛い天使な笑顔のミュー。


「ばいばい!」


流石に、その顔でその言葉は辛すぎた。

扉を掴んでいた手から力が抜け、心に大ダメージを負って、私はショックのあまりに意識が飛んだ。


「では、ミュール様、私共はこれで失礼します」

「うん! ばいばい!」


サリーネとミューが別れの挨拶を交わし、私はサリーネに担がれながら三日ぶりに屋敷へと戻ったのだった。


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