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第21話《冒険者は柄が悪いのがテッパン》


——冒険者。

前世、異世界物の小説や漫画なんかで良く見聞きした事のあるフレーズだ。

自由気ままに世界を旅し、誰も足を踏み入れたことの無い未踏の地に足を踏み入れ、この世のものとは思えない絶景を目にしたり、古代の財宝なんて見つけちゃったりなんてしちゃったり。

ポーションを作る為の薬草採取依頼、危険な森に出向いた先でモンスターに襲われる女の子を発見。女の子を助ける為に茂みから飛び出し、その手に握る相棒でモンスターを一刀両断。そこから発展する恋もあったりなかったりしちゃったり。

ダンジョンに潜り、いつもと同じ様に低級のモンスター狩り。が、その日に限ってアクシデント発生。遭遇するダンジョンボス。岩陰に潜み、必死に息を押し殺す若手冒険者。逸る心臓。脳裏を巡る、二人の自分。このままでいいのかと言う自分、このままやり過ごせば生き残れると言う自分。いやいやと首を横に振り、男は立ち上がる。その手に、己の心を奮い立たせる短刀を握り締めて。なんて、血肉湧く展開に身を投じたりなんてしちゃったり。

と、そんな男の子心を大変良く擽る、世の為人の為の職業。それこそが、冒険者だ。

が、世の為人の為とは言うものの、やはりと言って体育会系。清純派な冒険者が少なくない中で、血の気の多い冒険者達が良く住民達の目に馴染み——。


「おい、テメェら。良い乳とケツしてんじゃねぇか。この俺様、ガルガン・オーディンスに酌しな。名誉な事だぜぇ? 股開くしか脳のねぇテメェら女に、俺様からの指名だ」


当然、こういった状況も多々ある。


「「…………」」


冒険者ギルドの戸を叩き、来店して早々にこれだ。

テーブルに足を乗せ、他の冒険者達に迷惑を掛け、酒と肉にがっつく横暴な態度のおっさん。これだから、腕っ節だけの自信過剰勘違い冒険者は嫌いだ。

幾つかの成功に酔いしれ、自分が誰よりも上に立っていると錯覚している一種の厨二病野郎。確かに、それ相応の実力はあるのかもしれないが、それに備わるべきモラルが圧倒的に欠けている。

正直、サリーネも私もドン引きだ。酒場のおっさんは素通りして、私とサリーネは可愛い受付嬢のいるカウンターへと真っ直ぐに向かう。


「お姉さん、冒険者カードの更新って今の時間やってる?」

「……あ、え……。は、はい! や、やってます!」


今の状況で話しかけに来る?みたいなビックリした顔をする受付嬢。驚いた顔も可愛い。前来た時には居なかったし、新人さんかな?。

なんて思ったものの、そう言えば私、かれこれ一年以上ギルドに来ていないんだった。そもそもの話で、新米かベテランかの区別もつかない。


「おい……。何シカトこいてやがんだ……っ」


酒場の方、酒と肉の並んだ席からさっきのおっさんが苛立たし気に立ち上がる。

テーブルに立て掛けてあった大剣をその手に握り、カウンターにいる受付嬢と話す私達の元へと歩みを向け始める。


「良かったね、サリーネ。カード更新出来るって」

「はい。ミューネ様はこれからどうしますか? 更新は少し時間が掛かりますし……そう言えば、用事があると言っていましたね。では、そちらを?」

「おい、テメェら……」


カウンター前、私とサリーネが話す真横に大柄の男の影が覆い被さる。段々、一触即発な展開になってきた。

ていうか、酒臭……。


「うん。サリーネがカード更新してる間、私も私の用事を済ませて来るよ。サリーネよりは遅くならないかな?」

「分かりました。では、暫しのお別れです」

「だから……何、無視して……っ」

「暫しのお別れって……惜しむ時間でもないでしょうに」

「いえ、ミューネ様との時間は私にとっては一分一秒だって貴重なものです」

「あら! 嬉しいこと言ってくれるじゃないのぉ。今夜、私のベットに来る?」

「いえ、そういうのは結構です」


和気藹々、変わらずいつもの調子で会話を弾ませる私とサリーネ。ただ一点、背景の激おこプンプン丸なおっさんだけがいつもとは違う。

ちょくちょくと会話の間に小言を挟んでくるおっさん。ギルドの敷居を跨いで早々に目をつけられ、絡まれ、それからの一切のだる絡みも無視続けている私とサリーネ。

その無視のツケが、いよいよ巡り巡って私とサリーネの元へと振り下ろされる。


「——いい加減にしろやぁあああッ!」


文字通り、大剣が私とサリーネの間に振り下ろされた。

足元の床板が無惨に吹き飛び、大剣が床にめり込む。その衝撃に、プラチナブロンドの髪が靡き、プラチナの髪が棚引く。

眼前、一本のプラチナブロンドが宙を舞うのが見えて——。


「……おい、おっさん」


私の琴線に触れた。


「おいじゃねぇんだよ、糞ガキ。俺様が話し掛けてんだろ? シカトこいてんじゃ——」

「殺すぞ」


手を伸ばし、私は床板にめり込んだおっさんの大剣に触れた。

瞬間、大剣は先端から握りまで一気に歪んだ。その伝播は、大剣をゆうに超えておっさんにまで及び。

——おっさんの腕が、ひしゃげた。


「ぐあぁぁぁああああッ!? お、俺様の腕、腕があああああッ!!」


皮、肉、血管、骨。そこにあった何もかもがグチャグチャに潰れ、おっさんの腕から血飛沫が上がる。

地べたを転げ回り、ひしゃげた腕を抱き、その痛みに泣き叫ぶおっさんの姿は実に滑稽。恐らく、その二の腕辺りまで潰れた腕は今後二度と使えないだろう。

ていうか、そのつもりで壊したんだけどね。


「己の優位性を暴力で示し、蔑み、弄び、何でも相手を思い通りにして来た優越感の頂き……」


地面をのたうち回るおっさん。泣き叫ぶおっさん。痛がるおっさん。

私は腰を折り、そんな一気に醜くなったおっさんの耳元で、その身の程を大変良く知れる有難い言葉を囁いてやる。


「天辺から人間以下のゴミにまで引き摺り下ろされた気分、どんな感じ? おっさん」

「ひ……っ」

「——そこまでにしてくれないだろうか」


と、そんな風に私が害虫駆除に勤しんでいると、酒場の二階へと繋がる階段から見知った声が聞こえて来た。

視線を滑らせる。階段、そこから下ってきているのは頬を赤くした酔っぱらい。細身の剣を腰に携えた、眼鏡の男だ。


「おい、眼鏡。お前の躾がなってないお陰で、私の可愛い従者の髪が一本ちぎれたぞ」

「……それは、大変失礼致しました。直ちに、その者の冒険者資格を剥奪させて頂きます」


私の前に来て、その膝を早々に折る眼鏡。私の立場を理解している者だけが私の前で取る行動だ。


「へぇー。そこまでしてくれんの?」

「はい。この国で貴方様に逆らう者は重罪です。もし、私めが今の立場でなく、王国を支える一人の騎士だったならば、その者の首を即刻に叩き切っていた事でしょう」

「そうだねぇ。もし、仮に、眼鏡が王国の騎士だったなら、私もそう命令を下していただろうね」


黄金の瞳と褐色の瞳が交差。相手の思惑を汲み取り、言葉の裏にある誠を読み取り、示し合わせて、私と眼鏡は不敵に笑う。

周りの冒険者、カウンターの受付嬢、皆ドン引きの目だ。

知っている者は知っているのだ。てか、この場で知らない者は今も地べたで震えているおっさんくらいなものだろう。

私の事、そして——。


「という事だ。この御方の寛大なお心に感謝しなさい。——バレンシア王国第三王女、ミューネ・ウェル・バレンシア様、その人に」

「という事だから、これ以上は勘弁しといてあげる。——ギルドマスター、アイゼス・シリウスに感謝しなよ? おっさん」

「……は、ぇ……?」


私と眼鏡、基、バレンシア王国第三王女と冒険者ギルドの長が地べたに転がったおっさんを見下ろす。

これはもう、涙目も涙目。失禁からの号泣ものだ。


「あ、はは、ははは……」


予想通り、おっさんは失禁した。絶望した顔で空笑いしながら、涙と鼻水を垂れ流しながら。

そして最後には、魂が抜ける様にして気絶して行った。


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