第18話《兄。姉。姉》
怪物王女事、私、バレンシア王国第三王女、ミューネ・ウェル・バレンシアには、兄が一人、弟が一人、姉が二人、妹が二人いる。
兄の名は、ジーク・ウェル・バレンシア。肩書きは、バレンシア王国第一王子、王位継承権第一位候補者。国民と家族を何よりも大切にし、文武にも秀でている。加えて、優しい笑顔がチャームポイントな超絶イケメン。
遺伝子的には、父よりだ。金髪と金眼、イケメンな面と相まって良く目立つ容姿だ。
「やぁ、ミューネ。君が王城に来るなんて珍しいね。どうだい? 久しぶりに兄と少しお話していかないかい?」
「いいよ。私も丁度、ジーク兄に用があったし」
まぁ、王城にはちょくちょく来てるんだけどね。王城に用がある時、いつも直接父上の自室まで転移で行ってるから会わないだけで……。
「なら、その用も含めて少し話そうか。廊下で立ち話も何だし、庭園にでも移動しようか」
「うっ……」
「ん?」
爽やかな笑顔で、伝説の〝お手を拝借〟のエスコートの所作を披露される。思わず、グッと胸に来るものがある。
前世が男じゃなければ、確実に惚れてるなこれ……。でも、廊下でそれっている?。
と、内心思ったのは内緒。ジーク兄の好意を受け取り、私はジーク兄と腕を組みながら庭園のある外へと向かった。
そして、恐らく——。
「あら、珍しい組み合わせ……。久しぶりですね、ミューネ。元気にしていましたか?」
「ミューネちゃん、お久~」
予想的中。スイーツと紅茶の甘い香り。庭園には既に、茶会を楽しむ二人の先客がいた。
左の席に着いているのが、バレンシア王国第一王女、シスカ・ウェル・バレンシア。第一王女でありながら、王位継承権からは身を引き、王国騎士にどっぷりとその身を埋めた戦闘狂だ。
彼女の王国騎士団での肩書きは、王国騎士団五十五代目団長——〝銀麗剣鬼〟。
そして、右の席に着いているのが、バレンシア王国第二王女、ニア・ウェル・バレンシア。王位継承権第三位候補者で、この人はなんて言うか……風来坊?なイメージが強い。
要するに、私はニア姉についてあまり知らないのだ。
「シー姉、ニア姉、久しぶりだね。私は元気だけど……ジーク兄にもなんか言ってあげなよ。落ち込んじゃうよ?」
「あら、ジーク兄様、いらっしゃったのですね。影が薄くて視界に入っていませんでした」
「私はまぁ、シスカほどジークを嫌っちゃいないけど、流れ的に無視してみました、的な?」
「…………」
二人揃って、中々に酷い仕打ちだ。
ほら、見たことか。いつも携帯している爽やかキラキラスマイルが引き攣ってしまっている。
シー姉とジーク兄の関係を一言で言えば、片想いならぬ片嫌いだ。
今では何処のお家に出しても恥ずかしくないジーク兄だが、幼少時期は少しおてんばだった。
幼稚園、小学校の頃に一人はいた、女子のスカートを捲って遊ぶ悪戯好き男子。
ジーク兄もその類の悪戯っ子で、良くシー姉のドレスを捲ったり、パンツを脱がしたり、パンツを被ったり、パンツを「ひゃっほー!」と言いながら振り回したりと、かなりアグレッシブなヤンチャ坊主だった。
幼稚園や小学生そこらの歳のシー姉にとって、輝かしい宝石で溢れ返った筈の幼少期は、ジーク兄のせいでトラウマだらけの幼少期となった。
幼い頃の悪戯だったとは言え、そりゃ、まぁ、嫌われても仕方ないよね……。女の子は繊細なのだ。
「んー、じゃあ、どうしよっか……。ジーク兄、場所変える?」
「いえ、その必要はありません。ミューネは残って、ジーク兄様はお一人で、寂しく、ご退場願えれば」
「わお、カーブもフォークもないドストライクな一撃……」
「え、何て……? カーブ? フォーク?」
「あ、いや、気にしなくていいから、ニア姉……」
紅茶の入ったカップを傾け、表情一つ変えないシー姉の毒舌ストライクが決まる。
これはもう、ジーク兄は立ち上がれない。空振り三振、バッターアウトだ。いや、デットボールか?。
とはいえ、此処でジーク兄を退場させる訳には行かない。今日、私が王城まで出張って来た理由の一つが、ジーク兄なのだ。
「シー姉、ジーク兄が嫌いだって事は知ってるんだけど……私、ジーク兄に用があるんだよね。嫌なら、仕方ないね……。私達は場所を移すよ」
「……え? いや、嘘……! ちょっと待って!」
よし、掛かった。
焦った顔で席から立ち上がるシー姉。まんまと私が撒いた餌に飛びついてきた。
「ん?」
「でも、ジーク兄様と同席……。でも、ミューネとお喋りが出来ないのは寂しいですし……。でも、でもぉ……」
シー姉は、妹には弱いダダ甘なお姉ちゃんである。嫌いなジーク兄との同席、久しぶりに会った大好きな妹とのお茶会、その葛藤を押し切るにはあと一押しいる。
元男としては屈辱的な選択だが、致し方ない。私もお菓子が食べたい。
「シー姉。どうしても、ダメ……?」
「うっ……」
必殺、袖引きからの上目遣い。効果を上げる為に、瞳は涙で潤ませ、声は幼子が母親を呼ぶ様に調整。
勿論、妹大好きシスコン極み乙女、シー姉にはクリティカルヒット。ジーク兄との同席の嫌度、それを上回る妹属性で押し切る。
「……わ、わかったわ。今回だけ、認めます……」
「ありがとう、シー姉!」
「わぁ……何この子。怖……」
「俺からも礼を言うよ、シスカ」
「ジーク兄様は席について黙ってて下さい」
「あ、はい……」
という訳で、やっとお茶会に私とジーク兄が参加。まぁ、ジーク兄は空気扱いなんだけどね。
席に着いて、ニア姉が用意してくれたカップにシー姉が紅茶を注いでくれる。
勿論、ジーク兄の分はない。
それから、ケーキスタンドに並んだ六つのケーキ、そこからチョコケーキを流麗な所作でシー姉がお皿に取り分けてくれ、私の前に待望のチョコケーキが並ぶ。
勿論、ジーク兄の分はない。
「では、準備も出来ましたし、お茶会第二幕の開始としましょうか」
そうして、お茶会第二幕の幕が上がったのである。




