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第16話《ドラゴン狩りじゃああああ!》


三六十万二千四百二十五個の魔法的術が施された破片を全てバラし、解析した結果、リューガが持つ宝刀、赤龍刀には幾つか欠けているピースがあった。

赤龍刀を形作る数多の破片、そこに不合理何てものは何一つとして存在しない。破片一つ一つに意味があり、他の欠片と繋がり、結合し、三六十万二千四百二十五個もの破片はそこで初めて赤龍刀という名の宝刀を形成する。

つまり、今の赤龍刀は不完全な状態。欠けたピースにより、本来の力を発揮出来ていない状態にある。

欠けたピースは全部で六つ。その全て、同じ素材で賄う事が出来る。

素材の相手は勿論——龍だ。

まぁ、赤龍刀、なんて大層な名前で呼ばれてる武器だからね。そりゃ、赤龍刀を形作っている欠片の素材が龍なのは必然以外の何物でもない事実だ。

てな訳で、そろそろ行ってみようか。


「ドラゴン狩りじゃああああ!」

「ドラゴン狩りでええええす!」


様々な魔物が跋扈する〝アムドの森〟。その最も深い森の中、私はこの森の何処かに潜むドラゴンに高らかに宣戦布告を言い渡す。

続いて、ノリの良いサリーネも私に同調。物凄く良い響きで、私とサリーネの声が森の中に木霊した。


「…………」


たった一人、リューガだけが白けた目で、精気の抜けた顔で、両手を掲げた私とサリーネを見つめていた。

気に触ったからもう一度だけ言う。

死んだ魚の様な目で、しょーもない顔で、リューガは私とサリーネを見つめていた。


「で、何? 何でリューガはそんなに乗り気じゃないの? 反抗期?」

「何でだよ……っ。この歳で反抗期とか馬鹿以外の何者でもないだろ」

「そうですよ? ご自身の愛武器の事なのですから、少しは気分を上げて私の貴重な休暇に尽力してください」

「おいおーい、嘘だろ。隠す気もなく本音がダダ漏れてんぞー。建前でも一貫しろ」


ナイスツッコミ。やれば出来るじゃないか。

相も変わらず、死んだ魚の様な目は変わっていないけど、これで会話的にはいつもの調子だ。


「…………」


本当の所、どうしてリューガの気分が晴れないのか、その理由を私は知っている。知っているけど、敢えて私はそれを口にすることにする。


「で、どうして?」

「…………」


虎の様な顔で、私から目を逸らすリューガ。その図体でそうもしおらしくなられると、こっちがやりにくい。

すると、そんな強く言わない私に変わり、サリーネが前に出てくれる。


「リューガ殿、ミューネ様がせっかく時間を割いてくれているのです。落ち込んでないで、さっさと吐いてください」

「……見透かしてんじゃねぇか」


思っていたよりバッサリ言うサリーネに、リューガの眉がピクリと跳ねる。痛い所を突かれた、そういった反応だ。


「そうだ。俺は落ち込んでんだよ……。先祖代々、ずっと受け継いで来た赤龍刀が魔道武具だった事実。それを長い年月振るっておきながら気づけなかった自分の無頓着さに、落ち込んでんだ……」


要約すると、ずっと大好きだった幼馴染が実は男だった!親友だと思っていた男友達が実は自分の事をただの顔見知り程度にしか思っていなかった!ぐらいのショックさだ。

そう考えれば、リューガの落ち込み具合も分からなくはない。


「けど、大の大人が情けない!」

「はぁ……。だよなぁぁああ……」


指を突き付け、私は落ち込むリューガを叱咤する。


「思っていたよりバッサリと行きましたね、ミューネ様」

「え? 嘘!?」


つい先程、私がサリーネに向けていた筈のドン引いた目。それと同じものをサリーネに向けられて、思わず私の声が高くなる。

サリーネならまだしも、まさか、私までもが空気の読めない陣営だったとは……。

もう、リューガが木の幹で体育座りを決め込んでしまっている。すんまそん。


「一つ、私から良いでしょうか」


遂に、砂弄りを始めたリューガ。そんな彼を見て、サリーネが手を挙げた。


「な、何だぁ……?」


覇気のない声。もう、落ち込んだ姿を隠す気力も無く、サリーネの挙手にリューガが応じる。


「そもそもの話なのですが、落ち込む必要があるのでしょうか。愛武器の知らない一面を知った。それは、落ち込む所か喜ぶべき事ではないでしょうか。例えるなら、対人関係。相手の事を知り、友好を深める友人。リューガ殿は今、愛武器の新たな一面を知ったのです。でしたら、後はその友好を深めるだけなのではないでしょうか」

「「……お、おぉ……」」


思わず、リューガと私の口から感嘆の声が漏れ出していた。

至極真っ当な意見だ。真っ当過ぎて、落ち込んでいた筈のリューガまでもが声を上げていた程に。

休暇休暇休暇。いつも頭の中はどう仕事をサボるかでいっぱいのサリーネだが、此度、休暇を得たサリーネはいつもとは一味違う。


「……そうだな。そうだよな……。俺と赤龍刀はずっと苦楽を共にして来た仲だ。相棒の知らない一面を知った。なら、後はより近い存在になるだけだよな……」


サリーネの言葉の反芻。自分に言い聞かせる様に口に出して、段々とリューガの声に覇気が戻り始める。

木の幹に降ろしていた腰を持ち上げ、サリーネと私より二回りは大きいその巨体が立ち上がる。

立ち上がって——。


「よしゃあ! ドラゴン狩りじゃああああ!」


遅れて、虎の咆哮がアムドの森に木霊した。


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