映え保育サービス
2035年。新しい仕事が誕生した。
映え保育サービスだ。昔からある保育園の役割と同じ役割を果たしつつ、児童福祉施設としての役割より見た目重視の保育というより最早、サービスを展開しているのが、映え保育サービスだ。
職員は保育士、シェフ、清掃員、インスタグラマーだ。映え保育サービスを取り入れている保育園を覗いてみよう。
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M区の私立保育園。
ここでは園庭にある遊具が全て新進気鋭の芸術家のオブジェだ。園庭の四隅に植えられた楠木やあすなろにはハンモックがぶら下がっている。
子ども達は毎日この園庭を走り回り、オブジェを上り下りし、ハンモックに出入りしている。
保育士が子ども達の遊びを見守る傍で園専属のインスタグラマーがバシバシ写真を撮る。
次に給食。
この園ではビュッフェ形式の食事かアフタヌーンティーが週替わりで提供される。園舎の一階にある大広間(通常では遊戯室という)でランチ会が開かれる。給食の時間ではない。ランチ会だ。
子ども達は慣れた手つきで好きな物を皿に入れていったり、スコーンをちぎってクロテッドクリームをつけたりしている。一流のシェアが手がけた食事だ。
紅茶は子ども達に合わないので、アフタヌーンティーとともに供されるのは麦茶だ。きちんとソーサー付きのティーカップに注がれる。
ランチ会が終焉を迎えると、その後は午睡の時間だ。普通の保育園なら個人、もしくは園が用意した布団で昼寝をするけれど、ここは映え保育サービスを提供している。子供たちが寝るのは天蓋付きのベッドだ。
子どもの人数分の天蓋付きベッドを用意するため、園舎とは別に午睡専用の建物がある。中に入ると一階から三階までの吹き抜けを囲むように、ぐるりと天蓋付きベッドが置かれており、オルゴールの音色が聴こえる。子ども達は各々のベッドに入ると、たちまちすやすやと眠る。
ランチ会、午睡の様子もインスタグラマーが、ベストショットを常に待ち構えて撮影をしている。
この園の行事は独特だ。保護者も一緒に楽しめるイベントが行事になっている。保護者に披露するために、子どもに何かを練習させる必要はなく、場所と段取りをきちんと確認し会場設営するだけでいいので、保育士にとってもあらゆる負担が少なくて済む。
春。
花見専用園庭でのお花見会。そのイベントのためだけに別に園庭がある。芝生広場をぐるりと囲むように、いろいろな種類の桜が植えられている。
各家庭、シートや食べ物、飲み物を持ち寄り、昼間からわいわい宴会をする。この日だけは園内へのアルコール持ち込みも許可されている。ただし、一人一本。程よく品よく酔うことは許されている。
夏。
この保育園では日中プールは入らない。熱中症防止と日焼け防止の観点からだ。そのかわり、夕方六時からナイトプールが開かれる。ゆったりとしたプールには間接照明がつき、インスタ映えするデザインの浮き輪もある。
保護者が付き添いで入水可となっているので、職員は手を煩わされることはない。
秋。
園専属のシェフの友達パティシエ達によるスイーツフェス。花見で使った園庭で各パティシエが腕によりをかけたスイーツが食べ放題。ただし、有料だ。しかし、毎年どのスイーツも全て売切れるという大盛況ぶりだ。
参加したパティシエ達からの評判もよい。親子が幸せげに自分が作ったスイーツを頬張るのを間近で見ると、パティシエ冥利につきるそうだ。
冬。
豪華絢爛なクリスマスイルミネーション。園舎も園庭もイルミネーションできらきら輝く。ホットカルピスが無料で提供され(しかも、おかわり自由)園庭の真ん中にはもみの木が立ち、そこには親子で作ったクリスマス飾りを作ることができる。
室内では年始に向けてのおしゃれなしめ縄作りのワークショップが開かれている。母親達には大好評だ。
イベントにおいてはインスタグラマーやシェフの方が保育士より働いているかもしれない。
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あ? この園に入園希望ですか?
年収三千万円以上の方なら、どなたでも入園できますよ。
読んでいただき、ありがとうございます。
明日はどんな仕事が生まれるのかな?