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9 大舞踏会前日


風邪をひいたときのような怠さを覚えながら、ゆっくりと目を覚ますと、私は見知らぬベッドの上に寝かされていた。


砦の貴賓室も豪華だとは思っていたけれど、それ以上に煌びやかな装飾の部屋だった。

──天井絵なんて、家にもないわよ。


程なくして入ってきた侍女に聞いたところ、そこは王宮内の客室だというから驚いた。


刺された短剣は、私の肺にまで達していたそうだ。

あの時、私が男の手を掴んでおらず短剣が抜かれていたら、出血多量でその場で死んでいてもおかしくなかったとか。

刺客が送られてくることが予測されていたので、万が一に備えて高位治癒術師が同行していたことも功を奏したようだった。


一命は取り留めたものの、王太子を身を挺して庇った婚約者候補の令嬢の体に無残な傷を残すわけにはいかない!ということで、より高度な治癒術を使える最高位治癒術師に診せる必要があり王都に運ばれた。

最高位治癒術師は、本教会か王宮にしかいない為、王宮にて治療を受けていたというわけだ。


──あの腹黒殿下、うっかり婚約者候補が演技だったと訂正し忘れているようね。


それにしても、ボッチの学園生活もやっと無事に終わると思っていたのに、締めくくりである舞踏会の直前に、まさか命の危機に直面するとは思いもしなかったよ。


「お嬢様がこちらに運ばれていらしてから、四日ほどが経過しております」

「四日!?え、四日……四日って、嘘!?明日はもう舞踏会の日じゃないの!」


突然砦への同行が決まったせいで、まだドレスの最終フィッティングもしていないのに、明日!?

卒業式と同じようなものだから、当然晴れ舞台を両親も見に来る。

デビュタントの夜会以降、初の晴れ舞台だというのに、このままだと親孝行できないじゃないの。


「傷は問題なく癒えているから、君の体力次第で出席は可能だそうだよ」


突然声をかけられて扉の方に目を向けると、ウィルフレッドが入ってくるところだった。

その顔にいつもの微笑みはなく、腹黒オーラは鳴りを潜めていた。


私が寝かされているベッドの傍まで来ると、侍女が用意した椅子へと腰かける。


「気分はどう?傷は癒えたとはいえ、失った血は戻らないからね」

「少し怠い気はしますが、眩暈もありませんし、すぐに起き上れると思いますわ」


何なら今起き上って見ようかと肘をついて上半身を起こしてみれば、慌てた様子でウィルフレッドが腕を伸ばして支え、すかさず侍女が枕の位置を変えて寄りかからせてくれる。


「ありがとうございます。この通り、わたくしは本当に大丈夫ですわ。そんなに心配なさらないでくださいまし」


じっとこちらを見詰めてくるウィルフレッドに、ニコリと微笑んで見せるけれど、その眼差しは今までが嘘のように力なくて心細いような印象を受けた。


「………………なぜ、私を庇ったりした?」

「なぜ、ですか?………そうですわねぇ。反射的にもしくは無意識に、といったところでしょうか。気が付いたら体が動いておりましたの」


何を考える間もなくつい体が動いてしまったのだから、説明のしようもないと肩を竦めてみせる。

暫く困ったような怒ったような目をしていたウィルフレッドは、一度瞼を閉じると深い溜息を吐いた。


「あの時、私たちの傍には騎士も控えていた。私自身も、そう簡単に害されるほど軟な鍛え方はしていないつもりだ。君のしたことが無駄だったとは言わない。だが、私の盾や剣となるべきは、君ではない。君は伯爵令嬢で、守られるべき存在だ。頼むから、もう二度と無茶はしないでくれ」


椅子から立ち上がったウィルフレッドが、なぜかベッドに腰かけ手を伸ばしてくる。

なんだろうとジッとしていたら、その指先が伸びてきて、指の背で頬を撫でられた。


───えぇぇっ?な、なななんか目の前の人から、痒いようなくすぐったいような空気が漂ってくるんですけど!?


「胸から血を流した君は、私の腕の中で顔色を無くし冷たくなっていった。君の容態が安定するまで、生きた心地がしなかったよ。あの時ほど、自分の無力さを味わったことはない…。それがどれほどの苦しみだったか、君に分かるかい?」


パニックで固まった私に、ゆっくり美麗な顔が近付いてくる。

額に柔らかな感触がしたと思ったら、一瞬だけギュッと抱き締められた。


「メイアが助かって、本当に良かった…。………明日の学園の舞踏会には、参加したいのだろう?さぁ、もう休みなさい」


手伝おうとする侍女を手を上げることで止め、私を寝かしつけたウィルフレッドは、何事も無かったかのように颯爽と去った。


───えっ?えっ?一体なにが起こってるの!?よくわかんないけど、腹黒がデレたーっ!!


混乱させといて眠れとか無理だから!と思ったけれど、体はまだまだ本調子じゃないらしく、侍女に出されたホットミルクを飲んだら程なく眠気がやってきたのだった。





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