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6 砦へ


さて、問題です。

修業認定試験を無事に終え、卒業式ともいえる栄えある学園主催大舞踏会を数日後に控える大切な時期。

なのになぜ、私は西の国境砦(こんなところ)にいるのでしょうか?


答えは、私が "ヴィクトリアーナからの刺客" の似顔絵を書けなかったから。


あの学園長室での話合いの後、ウィルフレッドはヴィクトリアーナ王女へ交際お断りのお手紙を送ったそうだ。


「公式文書として送ったのが悪かったのかな?それとも、元の手紙を添えて返したのが気に入らなかったのかな?──ねぇ、メイア嬢。どう思う?」

「公式文書ということは、国を通したお手紙ですから、外交官や大臣たちが内容を検閲するということですね。あの(・・)ラブレターが公開された上、公式文書でフラれる王女様……」


やる事えげつなーい!──と思っても、口には絶対しないよ。

腹黒王子に暴言とか、後が怖すぎるからね。

そして、何気にサラッと名前呼びされた気がするんですが?


交際を拒否されたヴィクトリアーナ王女から、更に親書が届いたらしい。

見せて貰ったものを意訳すると、”断るなんて馬鹿じゃないの” ”絶対後悔させてやる” ”ちょっと顔貸せやコラー” 的な内容だった。

しかも、外交として茶会への公式な招待状も添えられていたらしい。


とにかく怒り心頭なご様子の王女様のこと、茶会が罠である可能性がある──というか、罠としか考えられない。

私が先日話した通りの展開が、かなり高い確率で現実となる可能性が高いので、注意すべき人物の容姿や人相を教えてほしい──とこれまた学園長室に呼び出されたのだ。


しかし、愛読書は小説なのだから、似顔絵を描くことなんてできるはずもない。

外伝とは時期も状況も違っているせいで、設定どおり王女の侍女かも怪しいものだ。

刺客なんだから、当然紛れ込みやすい容姿へ変装しているはずで、つまり私に分かるはずもないのだけれど・・。


「───どうやら、君に同行してもらうのが手っ取り早いようだね」


それはもう楽しそうな笑顔を浮かべたウィルフレッドは、王太子命令として、茶会への同行を言い渡してきたのだった。


数日して、王太子の側近の補佐役を務める兄が持ち帰った機密の命令書に、父は呆然とし母は思わぬご縁に大喜びだ。

兄からは、何をやらかしたら腹黒──兄も腹黒認識だった!──と縁が出来るのかと散々詰め寄られたあげく、絶対に絶対に不興を買うなと出立直前まで口を酸っぱくして言われた。


旅程は最長十日ほどで、ギリギリ舞踏会の前日までには帰れる予定だ。

国境まで通常は馬車で二ヶ月ほどかかるのだが、そこはさすがの王族、いくつかの転移門を経由し片道三日で目的地に着いた。


砦内の貴賓室にウィルフレッドが向かう中、なぜか私も同行させられ、宛がわれたのは隣室だった。


「一度会っただけで、有用な情報がもたらされたのだから。より近くでより多くの時間を共に過ごせば、もっと見えることがあるかも知れないだろう?」


危険回避の一手に有用だと思われているせいで、可能な限り傍に居させるつもりらしい。

それは分かるのだけれど───。


「───だからといって、婚約者候補のフリはやり過ぎではありませんか!?」

「何なら、恋人のフリでも、私は一向に構わないんだよ?彼女の怒りを煽るのも目的の一つだからね。その場合は、より嫉妬してもらえるように、どれだけ親密かを周囲にも示したいところだけれど」

「……………婚約者候補で構いませんわ」

「そう?遠慮しなくてもいいのに」


普段の服より上等なドレスを与えられて着飾らされた私は、滞在期間中は常に一緒に行動してもおかしくないよう、”婚約者候補”という役割を与えられることとなった。


──────って、ちょっと待て。

女の嫉妬は、大体が慕う男より邪魔な女の方に向けられるんじゃない!?

もしかしなくても、狙われるのは私──!?


真っ青になって震える私を、腹黒王子がにっこり笑って眺めていた。





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