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5 隣国の王女


学園長室の中には、先日と同じ顔触れが並んでいた。

学園長は執務机に、ウィルフレッドが正面のソファーで、その背後に近衛騎士が二名。


「───で?君は何を見たのかな?」


いざ席に着いたものの、まだ考えもまとまらない状況で、どう話を切り出したものかと悩む。

これからウィルフレッドの身に起こるであろう事件からは、まだまだ早い時期。

早速、前回言った一ヶ月以内の未来のみが見えるという条件を自ら破ることになってしまう。

詳細を知り過ぎているのもダメだ。

あぁ……何をどう話したらいいんだろう…。


「……あの、わたくし、まだ見たものの整理がついておりませんの…。お先に、殿下のご用件をお済ましになられては──」

「私の用事は、人前で話すべきことではないのでね。見たままで構わないから、話してごらん?」


食い気味で拒否られました。

腹黒王子は、考える時間もくれないようです。


「わたくしに見えたのは、砦らしき場所です。兵士たちの服装から察するに、西の隣国──セイルーン国側の国境砦でしょうか」

「ほう?セイルーンねぇ?」


思うところがあったのか、セイルーンと聞いて殿下の笑みが黒い感じに深まった。


「セイルーン国の騎士らしき人物と、身分の高い装いの女性が見えました。その方との交渉の場に、王太子殿下が着かれておられました」


交渉内容までは分からないとぼかし、女性の容姿を伝えて、それが王女であると示す。

王女が怒っていた様子を話すことで、交渉は決裂したものと匂わせた。


遠回しな言い方って、本当に面倒臭い。

そう思って溜息を吐きつつ、刺客についてをどう話すべきか頭を悩ませる。


「──その後は、随分と言いづらいことが起こるようだね?そうだなぁ……その女性が私の思っている人物なら、交渉決裂の報復に、刺客でも差し向けられたってところかな?」

「なっ!?」

「殿下!?」


息を飲んだ私の様子に、ウィルフレッドは正解だと察したようだ。

それよりも刺客という言葉に、ウィルフレッドの背後にいた騎士が強く反応していた。


「お前たちも、件の女ならやり兼ねないと思わないか?」

「それは──」

「いや、しかし──」


暫く三人でこそこそと話し合ったあと、ウィルフレッドは学園長に部屋の結界を強めるように指示した。


「どうやら、私の用件と君の見たという夢は無関係ではなさそうだからね。このまま話をしてしまおうか」


そう言ってウィルフレッドが懐から取り出したのは、一目で上等な紙を使われていると分かる封書。

裏返された封蝋には、セイルーン王族を示す刻印が押してあった。


「君が夢に見たという女性──癖毛の眩い金髪で、妖艶な容姿と装いを好んでいる美女に当てはまる人物に、私は一人しか心当たりがない。セイルーン国の王女ヴィクトリアーナだ。これは、そのヴィクトリアーナからの親書だよ」


先に学園長が目を通し、私にも見てよいと許可されて受け取ると、とんでも内容だった。

その内容は、一言で言えば ”ラブレター” 。

けれど、随分と高飛車で厚かましく、相手が拒否するという考えの一切ない文面だった。


「 ”親密な関係になって差し上げてもよろしくってよ” って、書くか普通。引くわぁ。しかもこれ、……クッサ!香水つけすぎよぉ」


全員揃って、ドン引きを隠せない顔にもなるはずだよ。

思わず同情の目をウィルフレッドに向けると、珍しく心底面白そうな顔がそこにあった。


私は今何をやらかしてしまったのか……。


「ふうん。素の君はそんな感じなんだね。声に出ていたよ」

「ふえっ!?あ、あぁぁ、たたた、大変失礼致しました」

「別に責めるつもりはないから、そう怯えなくていいよ」

「………殿下の広いお心に、深く感謝致しますわ」


二度と失敗しない、弱みは握らせない──と自分に言い聞かせる私に、目の前の腹黒の笑みが深まった気がしたけど、たぶん気のせいだ。




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