3 未来視の能力(嘘)
学園長付きの侍女がそれぞれにお茶を出して下がると、私も席に着くことを許された。
またしても胡散臭い微笑みを浮かべるウィルフレッドの正面という、全然ありがたくもない位置だったけどね。
「──それで?君は何を語ってくれるのかな?」
「皆様には、到底信じ難いことかも知れませんが……」
そう前置きして、私は夢で未来が垣間見えるのだと語った。
実際は外伝含めて二十数巻分──まだ二巻の半分も行かない現状、二人が結婚して子育てに奮闘するという十数年先までの出来事を知っているのだけれど…。
しかし、知りえるのは極々近い一月以内とかの未来のことで、誰の──と自分の意思で特定して見ることはできないとした。
めちゃめちゃ胡散臭いけど、真実味を持たせるため、過去に夢で見たとか言って、小説に閑話として書かれていた学園長の忘れ物にまつわる些細な話を盛り込む。
やはり実際に起きていたことのようで、学園長はあんぐりと口を開けて驚いていた。
「幼いころから、こう言ったことが多々あり、妙なことを言う子供だと、わたくしは家族からも疎まれる存在です。そんなわたくしでも、せめてお役に立てるならと、偶然見えてしまった出来事に添って行動してみただけの結果なのですわ」
ちょっと可哀想な子を演出しつつ、健気っぽい話にまとめて、同情を誘う。
都合の悪いことは端折ってるだけで、口にした内容はほぼほぼ真実だから、万が一嘘発見器てきな魔道具を使われていたとしても問題はない……はず。
眉間を揉んで、まだ信じるか悩む様子のウィルフレッドに、もう一押しが必要そうだ。
「それと──」
「それと?」
「お二人を遠くから見ていて、わたくし気付いてしまったのです。公爵令嬢と第二王子殿下は、お互いに大切に思い合ってらっしゃるのではないか──と。政治的なことは存じませんが、身分は問題ございませんでしょう?陰ながらお二人を応援して差し上げたいと、つい思ってしまいましたの」
年頃の女の子らしい理由だし、ほぼ真実だから、説得力もあるだろう。
世界は変わろうとも、やはり女性は恋バナが好きだ。
貴族家の令嬢や婦人たちは噂話──特に人の恋バナが大好物であることは、紛れもない事実だった。
おかげで、ウィルフレッドも、なぜか学園長も、後者の理由の方が納得の表情だった。
「理由は分かったが……。未来視の能力か…」
ポソポソと小声でウィルフレッドと学園長が何やらやり取りをする。
程なく退出を命じられた私に、ウィルフレッドはついでのように爆弾を落としてくださった。
「もしも、私に関することで未来を見ることがあったら、どんな些細なことでも構わない、学園長に報告するように」
「いえ、それは難しいかと存じます。わたくしが夢で見られるのは、ごく身近な人物に関してや事柄についてのみ。王太子殿下のような、わたくしには雲の上のようなお方の未来を見ることなど、到底叶いませんわ」
マリーローナについては、公爵令嬢として知られる前の下町時代に、街で接触したことがあったので見えたのだと適当な説明を挟んでおいたから、きっと大丈夫──なはず?
即拒否した私に、ウィルフレッドはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ほう?公爵令嬢と公表される前に、ねぇ…。身近というなら……」
何を思ったか、テーブルを回って傍に立つと、手を差し出してドアまでの短い距離をエスコートされる。
「こうして今、触れ合う機会があったのだから、近日中にも見られるかも知れないね?」
一瞬だけギュッと手を握られ、「楽しみに待っているよ」と声をかけられたけれど、絶対に二度と関わるものかと思いつつ頭を下げて退出した。