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2 早くも大ピンチ


その日、私メイア・フォン・クレアルージュは、人生初の特大ピンチに見舞われていた。


この二年、小説でのあんなシーンやこんなシーンを間近で見物したくて、マリーローナやアレクサンダーたちの近くをうろちょろしていた自覚はある。

だけど、それで兄王子である王太子から目を付けられるなんて、誰が予測できただろうか。


先日もアレクサンダーが恋心を自覚するイベントが起きていた。

二年生で一番大きな事件──夜会でマリーローナが飲んだワインに毒が混入されていたという出来事。


何の毒かを知っていた私は、こっそり医務室の棚に解毒薬を置いておいた。

小説より早めにマリーローナが復活していたし、元気そうだったから良かったなって胸を撫で下ろしていたところだった。


そんな中、ピンチは足音もなく突如やってきた。

授業時間中にも関わらず、私は担任教師に呼ばれ、なぜか学園長室へと連行された。


室内には、学園長や養護教諭もいたけれど、なぜか近衛騎士を従えた煌びやかな男性が上座に座っていた。


私の記憶が確かなら、プラチナブロンドの長い髪を左側で一つに結わえたサファイアの瞳のその人は、この国の王太子である第一王子ウィルフレッド。

アレクサンダーのお兄様だ。


ウィルフレッドの向かいに立たされた私は、壁際に立っていたらしい騎士が、逃げ道を封じるようにドアの前にスッと移動したのを感じて、タラリと背中に汗が流れる。


「初めまして、クレアルージュ伯爵令嬢。君に折り入って、聞きたいことがあってね。今日はこうして、場を設けてもらったんだよ」


ニコリと微笑みを浮かべたウィルフレッドのその目は、ギラリと鋭く光っていて、全然笑ってはいなかった。


「先日、フォリオラット公爵家のマリーローナ嬢が毒を盛られた事件は知っているね?」

「はい。存じております」

「その事件について、そこにいる養護教諭のロジータ卿から、妙な報告が上がってね。仕入れたことのない薬が、なぜか棚に置かれていたそうだ。しかも、その薬というのが、マリーローナ嬢が盛られた毒の解毒薬だったそうでね?」


何故だろう、ウィルフレッドの言葉が進むごとに、部屋の温度が下がっている気がしてならない。


「彼の毒は、解毒が遅れれば遅れるほど、後遺症の残るような悪辣な物だった。王宮ならば常備されている薬品の一つだから、本来ならば王宮の医官に申請して取り寄せなければならないところだ。どんなに早くても三時間は手配にかかっただろうね。その間に、麻痺が残ったかも知れないし、失明の危険もあった。最悪記憶障害も有り得ただろう」


──そうなのだ。

小説では、マリーローナの右足に軽い麻痺が残った。

後に完治はしたものの、毒を盛られた原因が、アレクサンダーを慕うさる令嬢の嫉妬によるものだった為、彼は長く罪悪感で苦しむことになった。

”後遺症さえなければラブラブ期が早めに来たのに!” と、前世で散々思ったものだ。


「調査の結果、解毒薬を置くことができただろう人物は三人いた。その三名を調べていくと、更に妙なことが分かったんだ。ねぇ、クレアルージュ伯爵令嬢………知りたいかい?」


両ひざに肘をつき、組んだ手の上に顎を置いたウィルフレッドが見上げてくる。

何度も言うようだけれど、顔は微笑みを浮かべているのに、目が ”早よ吐けコラー” と言っているように見えるのは後ろめたいことがあるからだろうか。


「城下の薬品店では扱っていることの方が珍しい薬だったから、入手者はすぐに君だと分かったよ。だが、なぜ君がその薬を入手し学園の医務室に置いたのか、理由がまったく分からなくてね。犯人との関わりを含め、過去に遡って調査を行わせたところ、なぜかマリーローナ嬢とアレクサンダーが関わる事件が起こった場所には、必ず君の姿があったという痕跡が出てきた」


最早隠せぬ汗が額を伝い、俯きつつハンカチで拭うしかない。


「その痕跡というのが、また妙なものでね。マリーローナ嬢が魔力暴走させてしまった先の校舎裏で、なぜか君が結界魔法の練習をしていて事なきを得たとか。クラスメイトの令嬢たちに詰め寄られたマリーローナ嬢が足を滑らせて階段から落ちたと思ったら、階下を通りかかった君がなぜか布団を抱えており、それがクッションになったおかげで軽い打ち身で済んだとか。城下にお忍びで出かけた際、アレクサンダーとはぐれたマリーローナ嬢が、スラムへ続く裏道へ踏み込む寸前で君と同じ髪色の町娘に止められたという話もあるね」


書類の束を手にしたウィルフレッドは、その他にもこの二年で心当たりのありすぎるアレコレを挙げ連ねていく。


「さて。そこで本題だ。二人の近くに頻繁に出没している君だけど、悪影響を齎すどころか二人を陰ながらサポートしているようにも見える。しかし、個人的な付き合いのない君では居合わせるはずもない場所にまで出没している。これはどういうことだろうね?」


ジイッと見詰めてくる双眸は、その深い青色の瞳のせいかゾクゾクと悪寒が走るほどに冷たく感じる。

これは絶対、納得いく回答が得られるまで解放してもらえないやつだ。

しらばっくれたところで墓穴を掘るのが関の山だろうし、黙秘を粘ったところで状況は悪くなる一方に違いない。


───としたら、私に出来ることは一つだ。


「……………さいませ」

「うん?なにかな?」

「すすす、全てお話しいたします。お話しいたしますから、どどどどうか、お人払いしてくださいませ」


鋭い眼光を向けられ、恐怖でカミカミになりながら懇願すると、側近だという騎士二名と学園長を残し、他の人は退出していった。






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