六
「そんな話は妙だ。少年は一体、それでどうなると言うんだ」
「いや、これがどうもならんのだよ。少年はひたすら真理ばかりを見つめていると言うのみさ」
「——君、最期に分からぬ話をするね。君はいつ死ぬとも分からぬ身で、何を僕に教えたいのだ」
「いや何、斯様な記録があったと言うだけのことさ。ほら、君にこの手紙を渡しておこう。誰宛と言うわけじゃない。独白さ。この手紙は来るべき日が来てから読んでくれたまえ。それじゃあ、今日はこの辺で」
数日後、手紙を開く。綴られていたのは、以下の通りである。
——人間の本質は悪でないと悟った。
私は罪を犯してから生きた数年間、罪悪感に苛まれ続けた。何事にも心底から感応しなくなった。これは心底悔しいことだ! 根っからの悪人になることができたなら、残酷な悪鬼と化すことができたなら、どれほど楽であったか。だから、私は人間の本性が悪でないと悟った。この解答は安らかではあるが、同時に、真っ白な人間もいないということを示している。そう、悪心は誰にも存在するのだ。そして善心も持ち合わせるからたちが悪い。
世の中善心だけを持つ者と悪心だけを持つ者の集まりであれば良い。それならば、正義の味方も素直に肯定しよう。ただし、どちら側にも味方があることを忘れてはならない。
とにかく、いつの世にあっても人間は、善も悪も一緒くたに抱える贅沢な生命である。それ故、贖わなければならない。——
手紙はそっと風に乗って、ふわりと上がり、漂い始めた。それから到った地で何者かに拾い上げられたが、瞬く間に屑かごへ放られてしまった。