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 正義と善とを混同している者が、よく見受けられる。混同すると、正義の対は悪だと間違いを犯すことがある。——少年は大学生になって、正義論を仲間に説いてやった。

 つまり、善も悪も正義の一種である。ある正義があって、それが善とか悪とか、評価されるのだ。悪の正義は善の正義に相反し、すなわちある正義は別の正義と衝突する。善に正義の味方があれば、悪にも正義の味方が存するのである。

 仲間はふうんと言った。少年は、もう青年であるが、それで満足だった。理解して欲しいわけではない、自己の内で整理を試みるのだ。少年時代に得た知見を、青年になってまで保存しておくのは大変な労力である。こうしてたまに発露してやらなくてはいけない。凝ってはいけないし、溶け消えてもいけない。

 彼はこの思想を保ち生きる上で、様々な出来事を捉え、そして、判断した。少年は、人間の考えることならば、大方理解した。犯罪者の心理も潔白者の過程も、色々な立場にある人間、働く情動、機微、普通の人間が鍵をかける薄暗くきな臭い部屋にも立ち入って、精査し、やはり悪人も善人もいないのだと確信した。

「根っからの悪人はいないよ」と彼の友人が言う。彼は、それは違うのだと心中で反論する。根っからの悪人どころか、悪人は地球上のどこを探し回ったっていないのである。刑務所を粗探ししても、ヤクザを洗ってみても、一個も悪人と呼べる者はいない。少年の知っている悪人は、『その者』を初めとする別の世界の住人だけだ。

 少年の目に映し出されるのは、真理の世である。そこには未知があろう、不可解があろう、嘘があろう、魑魅魍魎があろう、それでも真理には変わりない。これを確信する故、少年は今まであらゆる物事を突き放すことが無かった。見て見ぬ振りをする事が無かった。違和感を鋭敏に覚え、思索の題材とし、机上に載せ試行錯誤するのだ。

 少年よ、悪とは何だ——悪とは正義である。では少年よ、正義とは何だ——個々の矜持である。重ねて問おう少年よ、善とは何だ——善とは正義である。

 少年は他者と問答する上で答えを導く。他者とは、練り上げた偶像でも一向に構わなかった。ただ対話し、連想を繋げ、思想に結実させる。この逢着点が真理だと考えた。この手法は、全く少年の発明である。

 少年は導かれる。世を変えようなどと大それたことは思わない。一人でも多く、自身の思想に染めあげようなどともこれっぽっちも考えたことがない。ただ明らかな世を見、体験した者として——今も耳に残る『この者』の心よりの叫びを、いつ何時も胸に秘めておかなくてはならない。この尺度は、少年の生きる限り、永遠持続する。

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