第83話 エピローグ
イタリア。ベネチア。眼鏡工房。
カン、カン、カン。と小気味のいい音が響く。
眼鏡職人がタガネとハンマーで『八咫鏡』を叩く音だった。
(上手くいけば、リーチェさんは……)
ジェノは、その光景を静かに見守る。
師匠リーチェを植物人間にしている、目の病気。
それを治すために『八咫鏡』を眼鏡に加工する必要があった。
「……駄目だ。刃が負けた。このままじゃ加工は厳しいかもしれないな」
だけど、今回も、そう上手くはいかないみたいだった。
加工する技術はあっても、加工に耐えられる器具がない。
納得できるけど、また無理難題の始まりのような気がする。
「あの、俺で手伝えることなら、何でもやりますよ!」
それでも、やってやる。まだ何も始まってないんだ。
彼女を元に戻すためなら、どんな苦労でも成し遂げてやる。
「黒鋼という世界最硬の鉱物がある。それならば、恐らくは――」
◇◇◇
イタリア。ベネチア。リアルト橋付近。公衆電話。
受話器を震えた手で握るのは、メイド服を着たセレーナだった。
昼なのに雨はどしゃ降り。服はびしょ濡れ。辺りには賑わう観光客の姿もない。
「……はい。こちら、セレーナ」
だけど、今はそんなのどうだっていい。
問題は、電話の先にいる命を握ってる相手。
「一か月以内に一億ユーロを用意しろ。それが和解の条件だ」
反論の余地なんかなく、電話は一方的に切れていった。
ここまで読了いただきありがとうございました。これにて四章は完結です。
ですが、ここで終わりではなく、次の五章で彼らの新しい挑戦が始まります。書きたいことは決まっているのですが、今の知識の状態だと彼らの物語に私がついていけないように感じるので、約一か月ほど充電期間に入らせてもらいます。またパワーアップして帰ってくるので、再開するその時をお待ちください。




