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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第77話 決勝戦⑱

挿絵(By みてみん)




 ぽたり、ぽたりと赤い雫が砂地に落ちる。


 ジルダのセンスが作り出した牙による、出血だ。


 両腕の皮膚は浅く裂け、爪痕のように傷が残っている。


(……傷は大したことはない。問題は、観客が持つか、であろうな)


 ボルドは観客席の方を一瞥し、思考する。


 バタバタと倒れ、救護活動が始まっている。


 人員はセンスを扱える決勝戦選手、四人のみ。

 

 手が限られ、てんやわんやの状態となっていた。


(恐らく、ジルダ殿は気付いていない。……ただ、今さら指摘はできん)


 センスを足に込め、砂地を蹴って、助走を開始する。


 砂に触れる前に、踏み込む。本来ならあり得ない挙動。


 普通なら足を地面に預けてからでないと、踏み込めない。


 しかし、着地間際に、足元をセンスで固めれば可能となる。


 地面の代わりに、弾力のあるセンスを踏み、加速を繰り返す。


 強く蹴って進むのではなく、蹴った力を前に受け流すイメージ。


 それが縮地の正体。構造は至って単純。だからこそ、燃費がいい。


 余った分のセンスを全て、移動ではなく攻撃に費やすことができる。

 

(拙者が勝てば、万事解決する。そのためなら、鬼にも悪魔にでもなろう)


 真意を胸に秘め、ボルドは加速し続ける。


 迷いは微塵もない。後悔は過去に置いてきた。

 

 今はただ風と一体になる。それだけ考えればいい。


「……」


 すると、立ち尽くす相手に動きがあった。


 右手を突き出し、先ほどと同じ構えを取っている。


(加減なしの牙。受けるなら、死を覚悟せねばならんだろうな)


 地を蹴り、加速を続けながら、冷静に思考を回す。


 死ぬのは怖くない。加減されて生き残る方がよっぽど怖い。


(全力を出し切って死ねるなら本望。生き恥を晒すのは、もう御免だ)


「――」


 ボルドは思考を整理し、最後の踏み込みを果たす。


 速度は飛躍的に上昇していき、体は風を置き去りにした。


 ◇◇◇


 決着の時は近い。直感が、そう訴えかけてきます。


 右手は正面を向け、後はセンスを乗せ、放つだけの状態でした。


(加減はしません。問題はどこに撃つか、ですね)


 砂地に足跡が浮かび、消えていきます。


 遅れて血の雫がぽたりと垂れていきました。


(血を追うのはラグがありすぎますね。やはり、本命は足跡)


 踏み込みの瞬間、足跡の向きで来るかどうかが分かります。


 足跡がこちらに向いた瞬間、放つことが出来れば勝てるはずです。


「……?」


 時間で言えば、0.1秒にも満たない間です。


 ただ、一向に次の足跡が浮かんできませんでした。


 おかしい。そんな違和感が頭の中で膨れ上がっていきます。


(地面に全く触れず加速してるです? いや、そんなわけ……)


 そこまで考えた時、ぽたりと血が垂れてきました。


 落ちたのは、三歩先にある砂地です。足跡はありません。


(血の跡……。まるっきり的外れでもない、ということですか……?)


 耳を傾けても、些細な音も聞こえてきません。


 スポットライトに当てられた、影も見えないです。


 嫌な予感がします。刻一刻と迫ってくる気がしました。


(いや、待つです……。もし、左右で前方後方でもないのだとしたら……)


 限られた時間の中で、思考を回し続けます。


 しかし、これ以上考えられる時間はない気がします。


 自らの位置を明かすような掛け声には、もう期待できません。


(決め撃つしか、ないようですね……)


 撃ってから、途中で軌道修正はできません。


 二発目を放つ間に、決着がついてしまうはずです。


 外せば、待ち受けるのは、死。それでもやるしかありません。


「……」


 頭を向け、右手を掲げ、狙いを澄ませます。


 根拠なんかありません。ただの直感というやつです。


 でも、これでいいんです。これ以外の答えなんかないんです。


 成功も失敗も自分が選んでやったことなら、なんの後悔もありません。


 だから。だから。――だから。


白い牙(ホワイトファング)っ!!!!」


 遠慮も加減も一切なく、持てる全力の限り、放ちます。


 狙いは上空。水色の閃光が、天に逆らうように牙を立てました。

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